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最強勇者は強すぎた  作者: MTL2
邪龍に滅ぼされた街
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【6】

【6】


「よし! 武器庫だけじゃない、街にあるありったけの武器を掻き集めてきたわよ!!」


 胸元から溢れるほどの武器を抱えた女達の声に、確固たる覚悟を宿した男達は大きく頷いた。それを合図として、城壁の上に重ねるが如く作られた人間の壁は武器を掲げて、荒野を叩き割るほどの咆吼をあげる。

 既に邪龍はその全貌が見張り台や城壁上だけではない、平地からでも捉えられるほどに接近していた。いやそうではないのだ。まだまだ距離はあるというのにその全体が見えるほど邪龍が巨大なのである。きっと立ち上がれば太陽を多い、翼を拡げれば街さえものみ込んでしまう巨大さなのだろう。


「で、でっけぇ……」


「けっ! デカさだけならウチのかかあの腹の方が万倍でけぇや!! オメェら構えな!! 俺達の名誉に賭けて、何より俺達の生き様に賭けて、ここぁ譲れねぇぜ!!」


「「「うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおーーーーー!!!」」」


 今一度咆吼が巻き上がり、誰も彼もが邪龍を睨み付ける。

 一人ならば、その眼光に心折れただろう。百人ならば、その双眸に頭を垂れただろう。千人ならば、その殺意に諦めも付いただろう。だが、護るものがあるならば心は折れない。頭は垂れ下がらず、諦めることもない。


「さぁ、来るなら来い、邪龍よ……」


 決意が、ここにあるのだから。


「俺達は、絶対に負けはしねぇんだからなァ!!」


 一方フォールとリゼラ。


「勇者ぁー、喉が渇いたぞー」


「街まであと少しだ。我慢しろ」


 また一方。


「矢を放てぇえええええーーーーーっ!!!」


 掛け声と共に、天遡の雨が如く放たれる幾百の矢。風切り音はそれだけで嵐のように猛り、空舞う弧は刃となって大地へと降り注ぐ。

 巨体故か、距離を見誤って殆どが大地に突き刺さることになったが、それでも射撃を止めることはない。近付くことさえ赦さないと言わんばかりに弓持つ者は皆、一斉に矢を撃ち放ち続けるのだ。その様は水平から飛び立つ渡り鳥の萌芽のようにさえ。

 それはそうと、またまた一方。


「なぁなぁ、スライムで一番好きなのは何なのじゃ?」


「基本中の基本、ブルースライムだな。何よりブルースライムたんはその愛らしい動きと全ての原点とも言える」


「いやそこまで聞いてはおらん」


 また一方。


「まだまだァーーー! 撃って撃って撃ちまくるんだぁーーーっ!!」


 そしてまた一方。


「んぅ~?」


 こつこつという音に、魔王リゼラは空を見上げる。あるのは依然として死の荒野から続く淡い空色だけだ。

 何か降り注ぐような、そう、雨でも降ってきたのかと思ったが、どうやら勘違いだったらしい。今日は絶好の騎乗日和だ。イイネ。

 ーーー……ただ、それにしては何と言うか、のんびりし過ぎているというか。やっぱりこう、ドラゴンっていうぐらいなんだし、もっと速度出してびゅーんっ、といかないものか。大翼羽ばたかせ空の中を飛んでみたいものだ。背中に乗って、愚民共を見下ろしたいものだ。


「おい勇者ぁ、妾は飽きてきたぞぉ。もっと速度は出せぬのかー?」


 勇者からの返事はない。


「おい聞いているのか勇者ぁ! おいってばぶっ」


 すっこーん。ストライク。魔王の眉間に見事、矢が的中した。百点満点である。魔王リゼラは余りに呆気なく白目を剥いて、その場に項垂れた。

 さて、そんな風に事故的なアレで魔王が討伐されたわけだが、役目としての悲願が達成された勇者の方と言えば何をしているのか。彼は龍を運ぶ脚を止めることなく歩んでおり、その視力は遠方から放たれる矢を目視していた。

 フォールは思考する。外部からの声などとどかない程に、脳髄の渦に意識全てを投げ込んで、思考する。

 まず、一つ。先程から街への侵入を拒むようにして人の壁が作られているが、いったい何が起こったのだろう(※頭上)

 そして一つ。どうして彼等は弓矢を放つ? いったい何が原因だ(※頭上)

 最後に一つ。警戒されないように最大限の手段は尽くしたし(※頭上)、少女のような見た目の魔王も置いて安全策も執っているというのに(※頭上)

 どうしてこんな事にーーー……、と。


「……いや、待て」


 そうだ、迂闊だった。昔から相手に合わせないところをよく注意されていたが、またしてもこんなミスをするとは。

 相手から自分や魔王の姿が見えるわけがないではないか。この距離からして、余ほど目の良い者でも大体人差し指の上に乗る豆粒の上に乗るダニの上に乗るミクロン生物ぐらいにしか見えないだろう。

 何と、迂闊。こんな事を失念するとは、やはり自分は浮かれてしまっていたということだろう。


「と、なれば早く彼等の誤解を解かねば……」


 勇者は両脚に力を込める。一刻も早く、彼等の誤解を解くために。

 自分達は無害だ、と。そう証明しなければならない。この射られる敵意を解除しなければならない。そして、その為には急いで彼等に事情を説明しなければならない。なので、勇者は大地を蹴り上げた。

 まぁ、つまるところ、要するにーーー……、安全証明は一刻も早い話し合いから、ということだ。


「走るぞ」


 街を護るため、矢を射る人々の目に映ったのは、何だったのだろう。

 幾千幾万と飛翔する矢か、その矢を物ともせずむしろ速度を上げて突貫してくる邪龍か、その眉間でひたすらに矢を受け続けるも奇跡的に当たらない少女か。

 いや、どれにせよ、弓弦を引く誰かが城壁上からその少女に気付いた頃にはもう、遅かった。

 今までの数倍、いやもっと速く迫ってきた邪龍が目の前にいる。いや、目の前っていうか、鼻先っていうか、止まらないっていうか。


「待て、誤解だ」


 そんな青年の声が、男達の耳にとどいた。

 けれど気のせいだと思う。だって目の前で邪龍が城壁に突っ込んだんだもの。幾多の瓦礫に人々が呑まれていくんだもの。矢の残骸が土煙に溶けていくんだもの。

 だから、これはきっと気のせいなのだ。そう、気のせい。夢。どりーむふぉーゆー。あぁ、今日も家に帰って美味しいご飯を食べるんだ。そうして、うん、まぁ、何だ。

 この夢から覚めたいなぁぶるすこぁっ。


「……ハハッ」


吹っ飛び、或いは空を舞い、或いは瓦礫の海に沈み。男達は邪龍の頭にブチ当たって崩れゆく城壁と共に、今までの人生を思い返していた。

 その光景は何とも、いや、これ以上ないというぐらい、見事なまでの崩壊であったという。



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