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最強勇者は強すぎた  作者: MTL2
祝福の聖女
158/421

【3】


【3】


「やだぁー! お兄さんカッコイイ-!!」「女の子みたいにお肌すべすべ……」「イケメンじゃなぁ~い!」「ちょっとぉ、線細くて良いわぁ」「ねぇねぇお兄さん何処住みぃ?」「ちょっと抜け駆けするんじゃないわよ! 私が先だからね、私が!!」


「あ、あわわわ……」


 さてはて一方、独房塔へ続く橋廊下にてとある男が女の子達によってもみくちゃにされていた。

 初心なのだろう、男は何処となく色慣れした女の子達を前に耳まで真っ赤にして慌てるばかり。

 彼の付き添いであろう二人の騎士はそんな様子に呆れながらも、どうして良いか解らずその場で立ち尽くすばかりであった。


「……えー、ぁー、ガルスさん? そろそろ面会していただかないと、後もつかえてますので」


「わ、解ってますけど、出れなくてぇ……」


「おい、メイド達! 邪魔するんじゃあない!! と言うか何でお前等がここにいるんだ、昼食の後片付けはどうした!?」


「え? それはぁえーっとぉ」「お、お皿洗いとか……?」「お片付け苦手だわぁ」「自分の部屋は綺麗にしてるもーん」「やだぁ、手が荒れちゃうわぁ」「汗掻いちゃうしぃ~」


「こ、この忙しい時にそんな我が儘を゛ぉっ!?」


 突如、メイド達を怒鳴りつけていた騎士ともう一人の騎士がその場に昏倒した。

 驚愕するガルスの前に現れたのは、一人のメイド。全身ぼろぼろで何処の修羅戦場から帰ってきたのかと思うほど表情を絶望に染めた、一人のメイド。

 メイドの、男。


「………………えっ、カネダさん!?」


「……うん」


「あ、あの、どしてここに? あっ、ごめんなさいちょっと先生に助けて貰おうと家に寄ってたら遅れちゃって……! それで、えっと、あの……、その格好は……」


「言うな。……何も、言わないでくれ」


 男には誰しも、悲しみの過去がある。

 そこには何人も踏み込んではならぬのだ。

 ――――by『魂のレクイエム』後書きより。


「しかし何だこのメイド共は。と言うかお前等メイドじゃないだろ。そのメイド服、似せちゃいるが原型は二世代ぐらい前のだぞ」


「えっ、うそ!?」「あ、ママが言ってた。コスプレ用のだって」「あぁ、新しいのはダメだって怒られるんだよねぇ~」「でもぉ、リアリティって大事だしぃ?」「そーそーママの手造りが似てたってだけぇ?」「ぐーぜんぐーぜんー!」


「よく言うぜコイツ等……。それよりガルス、さっさとあの独房にいる馬鹿を助けに行くぞ。もう色んな意味でここには長居できないからな。見付かったら殺されるんで……」


「何やったんですか貴方!?」


「俺だって生き残るのに必死だったんだよ……。それに、流石のあの馬鹿もエルフん時みたく自力で脱出は難しいだろうし、早く助けないとな」


「……そ、そうですね。早く助けに行かない、とっ?」


 女の子達の群れから逃げだそうとしたガルスだが、その服裾を掴む手があった。

 中でも一際気の弱そうな女の子が逃がすまいと必死に掴んでいるのだ。これにはガルスも困惑し、女の子達は離した方が良いわよ、離しなさいよと口早に責め立てた、が。


「犬耳尻尾……」


「「「「「…………」」」」」


「首に鎖……、引き連れて……、裸でもOK……」


「「「「「…………」」」」」


 彼女達はその場に円陣を組む。何者にも壊せぬ、鉄の絆によって繋がる円陣だ。

 そしてひそひそと、内緒話。


「どうする? ルート教えちゃう?」「初見でこれだけの妄想を……? やはり……、天才か」「だよね。ルヴィリアちゃん来ないし私達も脱出しなきゃだし」「護衛は欲しいよね。してくれるなら万々歳的な?」「ケモ化飼い殺しは調教にて最強……」「って、ことは?」


「「「「「「よし、やろう」」」」」」


 円陣は解かれ、群れはそのままカネダとガルスを取り囲む。

 その様たるや迷える羊を逃がさない猟犬が如く。二人は見る見る内に彼女達の魅檻へと閉じ込められたのだ。

 しかし声は、猫なで声。


「ねぇねぇお兄さん達ぃ~。貴方達も侵入者なら脱出のガイドとかいらなぁ~い?」


「いや、要らないけど。ルート知ってるし」


「そう言わずにさぁ。サービスするわよぉん♪」「おっぱいも押しつけちゃう……」「えっちなハプニングもありかも!」


「い、いいです。け、結構です、結構……」


「あっ、でも逃げた後に隠れる場所は必要じゃないかしらぁ? ホトホリ? が冷めるまで!」「何言ってんのほとぼりよ馬鹿ね!!」


「それも要らない。確かに今は簡単に表へ出られる身じゃないが、アテが既に……」


「あ、ごめんなさい。それ要ります」


「…………あ!?」


「「「「「「やったぁーーーー!!」」」」」」


「ま、待てガルス! お前の先生とかいう奴の家があるんじゃなかったのか!? そこに行く手筈だっただろう!?」


「そ、それが……」


 酷く気まずそうなガルスは、指先をちまちまと組み合わせながら、肩をすくめて頭を下げた。

 ――――曰く、その先生の家を訪ねたがここ数週間ほど帰宅した痕跡がなく、また近所の人も見ていないとのこと。

 家に入るには彼の持っている鍵が必要で、いつもは帰宅した時に置いてあるはずの場所にもなく、さらには張り紙で『しばらく帰らん』の文字まであったという。


「ごめんなさいぃいいい……、幾らものぐさなあの人でも鍵ぐらいはいつも置いていったのにぃいいい……」


「だぁあ泣くな! クソッ、これじゃあ潜伏する場所がっ……!!」


 カネダは気付く。ガルスは震える。

 猟犬の目が獲物を狩る目になった、と。


「お兄さん達ぃ~? 泊まるとこないんだぁ~?」「犬耳……猫耳……ケモ尻尾……!」「潜伏って言うならぁ、ウチは最適ぃ~?」「安くしとくよお兄ぁさん? ねぇ?」「うへへへへ優しくしてあげるからぁ」「毎日寝れるよぉ体は休まらないけどぉ~♪」


「……………………ガルス、宿」


「確実に足が着きます……」


「どっか、裏酒場……」


「今勧められてます……」


「じゃあもう野宿で良いよ!!」


「帝国の路地で寝てたら間違いなく憲兵に見付かります!!」


「「「「「「はぁい決定ぇ~~~♡」」」」」」


「「イヤァーーーーーーーーーーッッッ!!」」


 彼等の悲鳴は帝国城を囲む湖へと虚しく響き渡る。

 まぁ、そんな水面を揺らす絶叫も、とある馬鹿の落下により塗り潰される事になるのだが。

 彼等に安息が訪れるのはさて、いつになる事やらーーー……。



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