【エピローグA】
【エピローグA】
「「「「「わぁー……」」」」」
帝国城に入った瞬間、女の子達は驚きにあんぐりと口を開いた。
その光景は正しく夢物語。絵本でしか見たことがないようなシャンデリアや、社交界ダンスが行われそうな大広間。一枚数百万ルグの値がつきそうな絵画がそこら中の壁に飾られ、等間隔で置かれた花瓶はどれもこれも高級品ばかり。さらに言えば床に敷き詰められたガラスのような大理石や、数十人は横に並べそうな赤絨毯で覆われた大階段、その先にある巨大なステンドグラスなど枚挙に暇がない。
また、城内を行く者達の姿もそう見える理由の一つなのだろう。聖剣祭が近く忙しないとは言え、帝国城に踏み居る者としての規律正しき姿は立派の一言だ。
それらの景色を並べれば、ここは最早、城と言うよりも宮殿に近いとさえ言えるだろう。
「ふーん、まぁこんなモンじゃな」
「少々調度品が多い気がしますね。これでは戦闘に向かないのでは……」
だが城持ち共は格が違った。
「はいはい、物珍しいのは解るけど時間ないんだから急ぐ急ぐ! 確かそろそろ、この時間だと……」
ルヴィリアが懐から取り出した地図を見て情報を照らし合わせると、答え合わせのように数十人近いメイドが歩幅から足踏みまでキッチリ合わせた、機械人形のような一団が通路から姿を現した。
この時間はメイド達が各所に昼食を運ぶため動いている時間だ。彼女達に紛れればこの帝国城内を移動することも難しくないだろう。
「んじゃ、皆は着替えてからあの一団に紛れてね! 例のルートは、はい。この紙に書いてあるから」
「わーい、ありがとルヴィリアちゃん!」「えー、もうー? もう少しゆっくりして行きたいなぁ~」「だよねー。見物したいかもー」「あ、あのメイドさん達、揃いすぎて私達じゃ無理……」「ミューリーとかいう人にも会ってみたいわねぇん。上客になってくれそう?」「え~、エロいオッサンなんかよりカワイイ女の子に会いたいなぁ~!」
「だーめっ! 皆が捕まったりしたらママに申し訳ないし、皆が心配だからね。僕のルートに従って貰います! メイドの人達だって、ほら、機械じゃないんだから。……あ、言ってる側から一人ズレた。ね? 皆なら大丈夫だよ」
「「「「「えーーー……」」」」」
「ほら、今度行ったらサービスしてあげるから。……色々と♪ ねっ?」
「「「「「はーい!」」」」」
一転、女の子達はご機嫌に、それぞれメイドの衣装を包んだ袋を抱えてメイド一団へと走り駆け寄っていく。
後は何処で着替えるなりしてからメイドに紛れ込み、ルヴィリアの言うルートとやらに沿って計画を実行することだろう。
ルヴィリアはそんな彼女達をでれでれとした顔色で見送っていたが、その姿が消えた途端、いつもの飄々さをその姿に宿す。
気軽なようで油断のない、全てを見通すかのような、飄々さに。
「さーてと、じゃ僕達も何処かでメイド服に着替えてから行動に移そっか」
「ぬぅ……、着ねばならぬのか……」
「城内で行動しやすくする為だからね。そうしないと地下牢も目指せないんだから」
「しかし、ルヴィリア。地下牢までの順路はどうなる? 地図はちゃんと持って来ているのか?」
「大丈夫、頭の中にインプットしてあるよん。……ただ不安なのはさっきみたく十聖騎士に会うことかな。席持ちの連中でも、まぁ、高席でもない限りシャルナちゃんがいれば問題はないだろうけど、それで騒ぎになって数を集められるとキツいからね」
「要するに騒ぎにならなけりゃ良いってことじゃろ。……騒ぎにならない倒し方と言えば?」
「「…………暗殺?」」
「「「…………」」」
いなくなって初めて解る合理性。解りたくなかった合理性。
「……良し、取り敢えず普通に行こう。普通に。十聖騎士つっても所詮は十人しかおらんのじゃろ? それにさっき一人どっか行ったし、十席のラドは顔見知り。となればこんだけデカい城で八人に会うなんてこたぁあるまいて!」
「ダヨネー。しかも行き先からして遭遇率は限りなく低いし問題ないでしょ。まぁ、流石に見張りはいるだろうし下手すりゃ十聖騎士がついてるかもだから、その時はよろしくねシャルナちゃん!」
「……それに関しては任せて欲しいんだが、何と言うか、その、とてもフラグ臭いんだが大丈夫か?」
「「だいじょーぶだいじょーぶ問題ないサ! HAHAHAHAHAHAHAHAHA!!」」
爆笑しながら廊下を進み、曲がり角に差し掛かったリゼラ達。
後方のシャルナと話していた所為もあって、前方不注意で何気なく曲がろうとした矢先にそれは起こった。
「あいてっ」
曲がり角を曲がってきた人と正面衝突。体の小さなリゼラがその場に転がるハメに。
いつもならぶつかってきた相手にぎゃんぎゃんと文句をがなり立てただろう。それとも自分が悪かったと素直に謝っただろうか。
だが、今回のリゼラはそのどちらもしなかった。真っ先にリゼラを心配するシャルナも、リゼラに掛けよってパンツウォッチングするルヴィリアも、そうしなかった。
何故か? 答えは最早言うまでもあるまい。フラグとは達成される為に存在するものである。
「…………」
リゼラの前に立ち、着替えのメイド服を踏み躙っていたのは、ボサボサの深緑髪と白衣を靡かせて眼鏡の奥から隈だらけの眼で彼女を見下ろす男。
忘れるはずがない、先日、帝国侵入に協力してくれた人物であり、フォールを捕らえた張本人である、男。
イトウ・エヴィル・ノーレッジ。その者ーーー……、だけではなく。
「っつぁー! 会議だりぃー。もう今度から省略で良くね?」
「ダメだよ、兄さん。これも大切な僕達の仕事なんだから」
「ぬがはははははは! 今回の会議内容もとーんと忘れてしもうたわ!! また会議録を貰わねばのう!!」
「眠っているだけでしょう。……今回も、ですが」
「そんなにキツい言い方しちゃダメよぉ? もっと優しくねぇ」
「ヒャハハハハッ! ババアがまた小言言ってやがらァ!!」
「うふふ、嫌やわぁ。年になっても小言に小皺と、増えるのは年だけやねぇ」
「お、お前ら馬鹿にしてんじゃねぇぞ! 良い人なんだぞっ!!」
――――そう、フルエンカウントである。
「もう、みんなして酷いわぁ……。あらイトウさん、その人達……」
リゼラ達は豪雨のように、流滝のように、瀑布のように滝を流しながら、微笑んだ。。
そしてどうしようもない緊迫の中で、消え入るようなか細い声を交わし合う。
――――逃げれる?
――――うん、無理。
「……関係者だ」
リゼラ達の運命や、如何に。




