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【5】
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「どーらごーんのせにのりー! びゅーんびゅーんびゅーーーんっ!!」
随分とまぁ楽しそうに、ドラゴンの眉間辺りではしゃぎ回る魔王リゼラ。
そんな彼女など気に留めることもなく、勇者は黙々と邪龍ニーボルトを運んでいた。職人の魂でも宿っているのかと言うほど、黙々と。ただし相変わらず変わらぬ外見のせいでそう見えるだけであって、心の中では今頃スライムと一緒に野原を駆け回っていることだろう。真顔で。
「……フッ」
さて、そんな彼等だからこそ現状に気付かない。確かに邪龍は倒したし、今こうして運んでいる。けれどそれを遠方から見たらどうなるか。邪龍の巨体を遠くから見たら、どうなるか。
そりゃ小粒ほどの少女なんかには気付くワケはない。足下の男なんかにも気付くワケなんかない。見えるのは見事に地面をスライドしてくる邪龍だけである。全く、二人揃ってうっかりさんなことだ。
「どーらーごーんー!!」
「スライム……、フフッ……」
ちなみにその『うっかり』で目的地の街が史上最大規模の戦闘態勢に入っていることを、彼等はまだ知らない。




