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最強勇者は強すぎた  作者: MTL2
裏切りの十聖騎士
148/421

【1】

 ――――勇者、勇ましき者よ。聖なる女神より加護を与えられ賜うし者よ。

 私の闇が、晴れました。そうですか、あの方こそ裏切り者だったのですね。

 弁明はありません。あの方の闇に気付けなかったのは他ならぬ私の責務。あの方々の恐れに気付けなかったのは私の責務。

 だからどうか、彼等を救ってあげてください。そして受け取って下さい。この剣を。私が貴方に贈れる最期の言葉と、この剣を。

 それこそが、私のただ一つの願いですーーー……。

 これは、永きに渡る歴史の中で、研鑽を賭し続けてきた魔王と東の四天王と南の四天王。

 妙異なる運命から行動を共にすることになった、そんな彼女等のーーー……。


「うわぁああああああやだぁああああああ! きっと牢獄の中でエロいことされちゃうんだうわぁあああああああああああああ!!」


「おいコラ貴様! 何か妾だけ扱い雑じゃないか!? 何でシャルナとルヴィリアは手錠なのに妾は手繋ぎなんだよ!!」


「す、すまない。手錠のサイズがちょっと……」


「やだやだやだどうやって牢獄の中に入れたのって感じの三角木馬とか都合良くんほぉしちゃう媚薬とか明らかにこの時代にないエロ道具とか使われちゃうんだやだやだやだぁああああああああああ!!!」


「え、飴!? あ、貰う貰う」


「何、これ男物? そ、そうか、男物……、え、オークの男物?」


「そんで最後は自分からエロいことしたいとか言い出すようにされるんだやだやだやだうわぁあああああああああああどうせなら女騎士ちゃんにエロいことされたいうわぁああああああああああああああ!!!」


「うめぇ」


「オーク、そうか……。ゴーレム用ならある? い、いや、もういい……」


 覇道の物語である!!



【1】


「んで何で釈放されるんだよぉッッッッッ!!!」


 晴天を貫く帝国城正門の前で、ルヴィリアは腹の底から叫びを上げた。

 道行く人々や正門前で警備に当たる騎士は何事かと視線を向けるが、直ぐさま興味も無さ気に歩み去って行く。


「まさかリゼラ様が魔族であることさえバレないとは……。本当に何もなかったな」


「まぁ、一瞬城に入ったかと思ったらそのまま釈放されたしの、帽子さえ取られんかったわ。……となれば捕まったのはフォールだけか」


「ちくしょぉおおおおおお取り調べは女の子がするだろうからちゃっかり準備してたのにぃいいいいいい!!」


 と、ルヴィリアの懐からぼどぼどと落ちる放送禁止待った無しなエロ道具の数々。

 流石にこれは警備の騎士も見過ごせなかったか、ママあれなぁにと無邪気に指差す子供を超えて鬼気迫る表情で走ってくる。

 折角無事に済んだものをこんなアホな形で再び投獄されるわけにはいくまい。リゼラとシャルナは私のエロ道具と絶叫する変態を引き摺りつつ、急いでその場を後にした。


「うぅ、僕のエロ道具ぅ……」


「諦めろルヴィリア、そもそも持ち歩いているのが悪い」


 そういうわけで、正門から逃げた彼女達は帝国城から街へと続く石造りの大橋を歩んでいく。

 帝国と街を繋ぐ、東西南北に一本ずつ架かる巨大な大橋だ。リゼラ達の隣を過ぎ去っていくのは商人や騎士、冒険者と大勢の人々と亜人。流石は世界の中心へ繋がる橋だけあって、交通量は凄まじいものだ。

 さらに言えば橋の下を流れる淡蒼の河川や視線の先にある検問など切りがない。全く、帝国というだけあって城の周りだけでもとんでもない壮観さだ。

 いや、違う。壮観と言うのであればーーー……。

 

「それより、どうするかじゃな」


 振り返った魔王の瞳に嫌でも映るのは、やはり帝国城だった。

 最早、その大きさを表す言葉はあるまい。下手をすれば魔王城より大きいんじゃないだろうか。

 いやいや魔王城の方が大きいに違いない。絶対大きい。何処ぞの馬鹿のせいで半分以下の大きさになったけれど間違いなく大き、大きかった。

 そう、何処ぞの、馬鹿のせいで。


「…………どうするって、やはりフォールを救出すべきでは? 幾ら外道であろうと放っておくわけには」


「じゃよなぁ……。放っとくわけにはいかんよなぁ……」


 二人は過ぎ去る馬車をひょいと除けつつ、未だ帝国城の牢獄に繋がれた男に思いを馳せる。

 しかし一人は反対側へ除け、彼女達の思惑に叛するように声色を濁した。


「んむー……。()は反対かにゃぁーん」


「……ルヴィリア」


個人(ボク)としては賛成。けど、魔族(ワタシ)としては反対……、ってとこかな。そりゃ僕としては彼に返しきれない恩義がある。けど魔族としてはどうだい? 彼は驚異だ。動機とか性格とかは……、まぁ置いといて」


 ルヴィリアはくるんっ、とその場で袖を翻すように半回転する。


「既にこうして魔王と四天王の二人が敗北してる。残る二人の四天王も手練れだけど、今のままの(・・・・・)彼相手なら間違いなく負けるよねん。そうなったら魔族はおしまいって解ってる?」


「そ……、それは、解っている! 解っているが……」


 狼狽えるシャルナと、無言のままに腕を組んで欄干にもたれ掛かるリゼラ。

 そんな彼女達を問い詰めるように、ルヴィリアは言葉を紡いでいく。


「しょーじきさ、ここでフォール君を捕縛しといて貰った方がよっぽど都合が良いよね。どころか、でっち上げとは言えあれだけの罪となれば極刑は免れない。そうでなくとも確実に行動は制限される。如何にフォール君が驚異的であろうと無限の暴力の恐ろしさはどうしようもない。……人間のそういう恐ろしさは私たち魔族がよく知ってるでしょう?」


「ッ……く、ぅ」


「シャルナちゃん個人の気持ちを理解してないわけじゃない。僕としては君の想いを叶えてあげたいし、僕自身もそうしたい。けどそれとこれとは話が別だ」


 シャルナは俯き、視線を逸らす。それは答えを放棄した合図だった。

 生真面目で一途な彼女にとってこの選択の問いは余りに残酷なのだろう。

 だが、だからこそ答えは出さなければいけないのだ。


「リゼラちゃんはどうかな? ……いや、君こそ答えるべき問いだよこれは。君はどうする?」


「……ふー」


 彼女のため息は困惑や長考のそれではない。

 むしろ呆れるようなーーー……、即決故の吐息だった。


「王城に戻るぞ」


 漆黒の双眸に揺らめくは魔王の眼差し。

 有無を言わさず、有無を産まさず残さない、覇王の一言。


「オイオイオイオイオイオイオイオイオイオイオイオイオイオイオイオイオイオイオイオイ! 出て来たのにまた戻るっていうのかい? それってつまり『魔族を裏切る』ってことだろうッ!?」


「やるのは妾達じゃ…。牢獄に行くから御主は魔眼で警戒するだけでいい」


「ナアナアナアナアナアナアナアナアナアナアナアナアナアナアナアナアナアナアナアナアナアナアナアナアナアナアナアナアナア! 警戒するだけだって……………。僕は栄光なる魔族のために叡智を揮う四天王なんだよ……。…魔族にかなり有名なんだ。しかも! あの勇者を救い出すってことは明確な魔族に対する裏切りだッ。これから起こるであろう危機は想像できない!!」


「『救出』する」


「だから気に入った」


 再び、ルヴィリアの着物が翻ったかと思うと、彼女の手の中には一枚の地図あった。

 妙に古ぼけた、かび臭い地図だ。何処かで購入したとは思えないほどクシャクシャな、地図だ。

 彼女は得意げにそれを拡げてみせると、にぃと満面の笑みを見せる。


「……なんぞ、それ」


「城内で騎士の懐からパクッてきちゃった♡ あんだけ大きいと地図も必要だよねぇ~ん♪」


「よっしゃ良くやったルヴィリア!!」


「褒めて褒めてちゅーをちょうだぁーいっ!!」


「ノーセンキューです」


 ひゅんと空を切った手は、そのまま橋の欄干を掴むことなく水面へとダイブしいった。

 高く舞い上がる水飛沫を背に、リゼラは手元に落ちてきた地図に目を通してみる、が。

 そこにはまぁご丁寧に侵入ルートから見張りの数までしっかりと掻き込まれており、今すぐにでも侵入できますよと言わんばかりの出来上がりだった。


「ふん、何が魔族としては、じゃ……」


「あ、あの、リゼラ様……」


「ん、何じゃシャルナ」


「あ、いえ、その……。どうしてフォールを救助すると選択なされたのですか? う、嬉しくはありますが……、私は魔族として、その……、魔族を裏切ることになるのは……」


「……優柔不断なのは御主の悪い癖じゃと前にも言っただろう」


 リゼラは軽く、吐息を零して。


「別にアイツが何処でくたばろーと野垂れ死のーと構わんがな、妾の目のとどくトコで他の奴等にやられるのだけは見過ごせぬ。勇者を倒すのは魔王だ。……だから、妾は魔族を裏切るよりも己の誇りを裏切りたくなかっただけよ」


 小さな掌が、大きな胸板に地図を押しつけた。

 力は弱く、か細く、華奢な手だ。けれどその手はシャルナにとって何よりも力強く、逞しく、威厳なもので。


「御主も種族だの何だのと悩むのは結構じゃが、ちっとはルヴィリアの思い切りの良さを見習うことじゃな。御主は慎重に過ぎる。……まぁ、そこが良さでもあるのだが」


「……うぅ、精進します」


「リゼラちゃっちょっ助けがぼっ足つったつったげぼがぼあぁでもリゼラちゃがぼふの水責めだと思えばんぼっ嬉しいかもなんてぇぶっんほぉおおおおおおおおおおおおお!!」


「すいません、やっぱり精進したくないです」


「そのままの御主でいて」


 人の振り見て我が振り以前に見たくねぇ今日この頃であった。



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