【プロローグ2】
【プロローグ2】
――――ガッシャァアアンッ!!
爆音か破裂音か炸裂音か、はたまた衝撃音か。
幾つもの鉄球を鉄板に打ち付けたかのような、とんでもない激音が閑静な広場へと響き渡った。
しかしそんな音も爆発四散した丘の轟音によって掻き消され、何も知らない者がその場面だけ見れば魔道駆輪がそこに停まっているようにしか見えなかっただろう。
結果的に言えば、フォール達の帝国侵入は大成功だったというわけである。
まぁ後方の魔王が蒸し焼き状態になっていることを除けばだが。
「り、リゼラ様ぁーーーーーー!!」
「妾が何をしたっていうんだ……」
「大丈夫だよリゼラちゃん、傷は浅いよ! 丸焦げならまだセーフだからセーフ!!」
そんな風に魔王を介抱する四天王達を余所目に、フォールは魔道駆輪のギアを降ろして静かに操縦桿を握り直す。
――――少々爆破が強すぎたようだが、どうにか無事に侵入することができたようだ。
雲のお陰で侵入を目撃されてはいないだろうし、音も爆音で掻き消された。後はバレない内に移動すれば良いだけだろう。
「上手く行ったようで何よりだ」
と、作戦の成功を祝うようにイトウは煙草を口元へと運んでいく。
いつの間に火を付けたのやら、煙草からは黄土色の煙が立ち上っていた。
「……あぁ。粘液の使い方を間違えた以外は成功だ。それよりイトウ、貴様はここからどうする? 俺達は移動するつもりだが、もし良ければ途中まで送ろうか」
「いや、結構だ。風に当たって帰るとしよう」
彼の言葉通り、帝国の中を流れる夜風は心地良い。
涼しく、髪先を揺らす風は空の雲さえも流していく。
「そうか。……今日は世話になったな、イトウ。感謝する」
「いや、こちらこそだ。アストラタートルの最後の姿を見られて良かったよ」
「最後?」
「あぁ、歴史にとっても、私にとっても……、貴様にとっても」
雲が、流れていく。
やがて月光は現れ、暗闇の広場を照らすだろう。
幾千の騎士が武器を構え彼等を取り囲む、広場を。
「……どういう事だ、イトウ」
「それは質問か? ならば研究者らしく、理論立てて説明せねばな」
魔道駆輪を檻、歩み去って行く彼の眼鏡が月光に照らされ、妖しく光を弾く。
白衣に覆われたその姿と彩りなき表情は全てを物語っていた。否、それこそがその男の姿だったのだ。
黄土の煙を吐きながら佇む、酷く冷徹な姿こそが、真の男の姿だったのだ。
「一つ。私があの森に居たのは確かに研究が理由だが、ついでにアストラタートルの偵察任務を命じられたからだ。二つ、この煙草は特殊な草を巻いたもので、嗜好品としてではなく煙幕として用いられることが多い。三つ、私は貴様と出会ったときには既に、貴様のことは知っていた。四つ、だから私は自己紹介で嘘をつくことはしなかったが、敢えて言わなかったことがある」
なだれ込む騎士達を背に、イトウは煙草を指で弾いて躙り潰した。
深緑の眼でその者達を捉えることなく、白衣を翻しながら。
「改めて自己紹介しておこう。イトウ・エヴィル・ノーレッジ、モンスター学を専門とする学者でーーー……」
白銀の光に照らされながら、男は小さく吐き捨てる。
「聖堂第四席……、だ」
――――騎士による濁流の中、フォールは物言わず鋭い眼光でその背中を追っていた。
月光の中へ、街の中へ、闇の中へ消え征く男の背を。
最早、決してとどくことはないその背中をーーーー……、追っていた。
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