【エピローグ】
【エピローグ】
「おるァそんなモンかクソ傭兵がァアアアアアーーーッ!!」
「こっちのセリフだボケ盗賊がァアアアーーーーーーッ!!」
さて、所変わって帝国城門前。そこでは二人の男が止めようとした野次馬も逃げようとした野次馬も巻き込んで殴り殴られ蹴りに蹴られての大喧嘩を続けていた。
彼等は既に双方ボロボロだが一歩たりとも退く気配を見せはしない。むしろ傷を負う度、互いにヒートアップしている様でさえあった。
まぁ仮にも伝説の盗賊と最強の傭兵の大喧嘩だ。ただで済むはずはないし、止められるはずもない。
止められるとすればただ一人、そんな彼等の仲裁人だけなのだがーーー……。
「二人ともいい加減やめてください! 怒りますよ!!」
「お、おぉ、また兄ちゃんが行ったぞ!!」
「行けぇ兄ちゃん! もうあの二人を止められるのはアンタだけっ……、あダメだ吹っ飛ばされたわ」
「あの兄ちゃんもよーやる……、って待て待てこっち来たぞ逃げろ逃げろ!!」
「ま、間に合わっ……! ぬわーーーー!!」
と、こんな感じで無意味無謀。
しかしそんな、そろそろ死人が出るんじゃないかと囁かれ始めるほどの大喧嘩は思わぬ形で終わりを迎える事になる。
爆炎の柱という、余りに異様な幕引きの縄によって、だ。
「んなっ……!」
驚愕に振り返ったカネダの瞳に映るのは、遙か遠方で爆ぜ飛ぶ丘と、そこから天を貫く紅蓮の柱。
爆炎は轟々と猛り、漆黒の闇は紅蓮の業火に灼き尽くされ、白銀の月さえも赤く染まり果てていたという。
誰もがその光景に目を奪われた。誰もがその光景に息を呑んだ。誰もがその光景に顎を落とした。
それは言葉にする事さえできないほど強烈な、常識を越えた出来事だったのだ。
「……!」
そう、だがカネダだけは違う。彼が見ていたモノはそれだけではない。
彼だけが見ていた。紅蓮の空を舞い、黒煙と白雲に隠れて飛び疾る一台の魔道駆輪を。
忘れたくても決して忘れさせてくれない、疫病神が鎌を振り回しながら乗りこなしている、その魔道駆輪の姿を。
「アイツ等ーーー……ッ!」
爆炎の柱が消えた頃だろうか。
魔道駆輪は帝国城門の中へと消えていった。流れ星が落ちるように弧を描き、爆炎の轟音に紛れて帝国の中へと消えていった。
人々はそんな魔道駆輪のことなど露知らず、何だ何だと口早に噂し、沈み始めた爆炎を指差して騒ぎ立てる。だが、そうこうしている内にも火炎の柱は収まり、数秒としない内に黒煙の塔となって空へと消えていった。
「…………」
思案する。カネダは思案する。
――――間違いない、身は違えるはずもない、先程の魔道駆輪は奴等だ。フォール達だ。
と言うことは奴等も帝国に入ったということか。奴等が今、帝国にいるということか。
この、帝国に。俺の因果が刻まれたこの忌まわしき国にーーー……!
「……チッ」
彼の脳髄に浮かび上がるのは、ガルスの言葉。
極地というのならば貴方もそれでは、という無邪気な言葉。
だが、違う。違うのだ。自分は極地などではない。そこにいて良いはずがない。
「この国に、また来ることになるとはな」
甦るのは忌まわしき思い出。
鉄錆の牢獄と、黴び埃にまみれたベッド。とどくことのない月光の姿。
伝説である己のーーー……、唯一の敗北。
「戻って来たぞ、帝国……ッ!」
カネダは牙を剥く。金の双眸を唸らせ、屹立する城壁に牙を剥いた。
思い返すも煩わしい過去を払拭するが如く、純満たる殺意と闘志を込めて。
「次は俺を捕らえられると思うなよ……!!」
例え疫病神がいようとも、例え一度は敗北を喫した場所であろうとも。
己の伝説に二度目の敗北はない。再び牢獄に押し込められようことなど、決して、決してーーー……!
「……フッ」
そんな彼の覚悟を後押しするように肩へ力強い掌が置かれ、カネダは微笑みを零す。
仲間達も勇気づけてくれているのだろう。例え理由を知らずとも、時にぶつかり合い、時に罵り合うことがあろうとも、自分達は認め合い、助け合う仲間なのだから。
疫病神がいようと負けるものか。そうだ、自分達には仲間がいる。彼等がいる。
ならば負けるはずなどない。さぁ、今こそ敗北を乗り越え勝利する時なのだ!
「行こうぜ、メタル、ガルス……。帝国へ!!」
振り返った彼を出迎えるのは覚悟を決めた仲間達、ではなく。
険しい表情で手錠を構える屈強なお兄さん達でした。
「ここで暴れてたの君達だよね? ちょっとお話聞かせてくれる?」
「…………ア、ハイ。ソウデス」
直後、彼等が牢獄に放り込まれたのは言うまでもない。
――――疫病神には勝てなかったよ。




