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最強勇者は強すぎた  作者: MTL2
激動の帝国脱出戦
145/421

【5】


【5】


「…………」


「り、リゼラ様、いい加減にご機嫌を直してください……」


「いやぁ、アレは中々キツいと思うよ僕でも。うん……」


 森の入り口、魔道駆輪の側。そこに転がっていたのは一人の魔王だった。

 いや転がっていたというか転がっているというか。拗ねているというかいじけているというか。

 シャルナの説得や慰めに耳を貸さず、ルヴィリアの同情や元気づけに目もくれない。そんな状態である。


「くっ、私があの状況を察知できていたならば……!」


「いやぁ、流石にアレは予想つかないでしょ。まさか苦節数十回やり直したトランプタワーの最後の一段で地震が来るとはねぇ」


「風が防げたのだから地震も防げたはずだ!!」


「ちょっと無理だと思うな僕ぅ。と言うかシャルナちゃん風防ぐのに覇龍剣使うもんだからお肉の残り香でリゼラちゃんメッチャ集中力持ってかれてたからね? チラッチラ見てたからね?」


「何……だと……」


 ちなみに失敗の七割はそのせいである。


「そっ、それにしても遅いな、フォールは! そろそろ雲も晴れてしまうぞ!!」


「ありゃりゃーんシャルナちゃぁ~ん? もしかしてフォール君がいなくて寂しかったりするのかにゃぁ~ん?」


「ばっ、そ、そういうのではない! た、ただ帰りが遅いなとっ……!!」


「にゃはは、またそんな事言っちゃってぇ。実は心配なんでしょぉ?」


「いや心配はしていない。先程から爆音が聞こえているからな」


「あぁうん、だよね……」


 むしろ心配なのは森の方だ、とシャルナ。


「まぁでも確かに彼は心配じゃないけどさ、いざあのキャラがいないと静かなもんだねぇ。いつも無表情で無調子なくせにさぁ~」


「ふぉ、フォールは良いんだ、アレで! 無表情で無調子じゃないフォールなんてフォールじゃない!!」


「にゅふふ、言うじゃなぁ~い。じゃあ無表情で無調子なのがもう一人増えたらどうするのかにゃーん?」


「それは単純に嫌だな……。空気の重さ的に……」


「解るわぁ……。ま、でもそんな事あるはずが」


「帰ったぞ。イトウ、ここだ」


「すまんな、助かる」


「「…………」」


 増えとる。


「フォール、元の場所に返してきなさい。今なら怒らないから」


「フォールくん解る? 生き物を飼うって大変なことなんだよ? ウチにはもうリゼラちゃんがいるじゃない!」


「……フォール、これは侮辱されていると考えた方が良いのか?」


「一言で三人侮辱する辺り流石だな埋めるか」


 ともあれ事情説明。

 フォールは火薬草の籠をおろし、ルヴィリアを埋めながらイトウの名と研究職、そして森の中であった出来事を軽く述べ立てていく。

 なお説明内容の96%が彼と話し合ったスライム論だったのは言うまでもなく、さらにそこからアイ・ラブ・スライム講義に派生しかけたところをシャルナとルヴィリアに全力で阻止されたことは言うまでもない。


「ふむ、イトウか。シャルナだ」


「ルヴィリアだよーん! ルビーちゃんって呼んでね!! ところで助けて貰って良いですか」


「あぁ、よろしく。自力で助かれ。……ところで、そこの寝転がっている少女は紹介しなくて良いのか?」


「ひっでぇ。……まぁあの子はふて腐れちゃってるだけだからねぇーん。何か食べ物ある?」


「いや、食べ物は持ってな」


「先程拾ってきた火薬草があるぞ、リゼラ。食べるか」


「おい、待」


「わーいやった食べる食べる-!!」


 ※なおこの行為は特殊な訓練を受けた勇者のみが可能とするものなので決してマネしないでください。


「よっしゃ御主、歯ァ食い縛れ」


「何故だ……」


 魔王もギリギリセーフだった模様。

 ただし顔面から黒煙噴出中である。


「おーいおっふたりさぁーん! はしゃぐのは良いんだけどさぁ、そろそろ雲晴れちゃうよん? 何かやるんじゃないの?」


 と、地面から這い出ながらルヴィリア。


「む……、あぁ、そうだったな。悪いが貴様等、手伝って貰えるか。石垣を組む」


「「「「石垣?」」」」


「あぁ、組めば解る」


 と、いうワケで。

 フォールの指示に従い、リゼラ、シャルナ、ルヴィリア、イトウまでもが半球状の石垣を積み上げていく。

 まぁ石垣と言ってもそこら辺の石だとか木ぎれだとかで火薬草を挟んで積み上げていくだけの代物で、とても本来の用途である風よけや防衛に使えるブツではない。しかし彼はそれでも構わない、ただ組むのだけはしっかり組んでくれと注言する。

 そんな石垣の用途も意味も解らずシャルナ、ルヴィリアは彼の言う通りガッチリと石や火薬草を積み上げる。しかしその一方、リゼラは用途に気付いたらしく、と言うよりはやはり予想通りだということに気付いたらしく、酷くげんなりした様子で石垣を組み上げていた。

 いや、気付いたのは彼女ばかりではない。もう一人の男も、また。


「……成る程、無茶をする」


「諸事情でな、こう言う方法を取るより他なかった」


「全く、騙されたものだな。立派な悪用ではなか」


「何、こちらもあらぬ疑いを晴らすために動くだけのこと。悪用と言うよりは正当防衛だ」


「……ふむ」


 イトウが乗せた火薬草の上に、フォールが石を積む。


「……一つ、問おうか」


 そんな上にまた、イトウが火薬草を乗せて。


「フォール、貴様は旅をしていると言っていたな。だが、旅をするのなら何か目的があるはずだ。何かを収拾すること、何かを学ぶこと、或いは何かを果たすためというのもあるだろう。願いであれ、怨みであれ……、大命であれ」


「……そうだな」


 フォールは石を積む。


「貴様には何がある? 旅の果てに、貴様は何を見る」


 イトウの気怠げな声は、今までのそれとは違う、何処か核心を掴むような力強さがあった。

 彼のそんな変化に連られてフォールの足取りも僅かに小さく、細くなっていく。然れど眼はいつも通りの冷静を保ちながら、奇妙に噛み合った石畳を見下ろし落とす。


「……俺には」


 思案の間を置くように、呟いて。


希望スライムが見える」


「何故だろうな、素晴らしい応えだと言うのに欲望のそれにしか聞こえない」


 魔族全員は思う。

 欲望のそれにしかっていうか欲望のそれだからな、と。


「まぁ、結果論を語るつもりはないがな。だが、俺が思うに旅路の果てなど誰も知る由はないのだろう。旅の答えは……」


「終わりの地に着いた者だけが知っている、か?」


 フォールは驚いたように眼を見開いた。

 叛して、イトウは得意げに頬端を崩す。


「貴様は妙な男だ。純粋ガルスかと思えば、不純イトウのようでもある。時として獣のように野性味があり、時として人のように理知的だ。貴様にとって不可能はなく、しかし可能なこともない。一途な男だよ、貴様は」


「……随分と、奇っ怪な評価を下すのだな。まるで中身のない鏡にでも下す評価のようだ」


「そう言っている」


 積み上げた石垣は、彼等の前で堅牢な壁となった。

 蹴り上げたり突進したりした程度ではびくともしないような、壁に。


「鏡に映った者は己が誰かを知っている。だが鏡に映された者は己が誰かを知らない」


 イトウは壁に手を着いて、静かに呟いた。


「フォール……、お前は誰だ(・・・・・)?」


 夜天に掛かった雲が、風に靡いた。

 僅かに残った森の木々から緑葉や木くずが飛び去り、彼等の狭間を吹き抜けていく。

 薄れた月光さえ拭い取るように、闇の狭間へと。


「……なぁ、アイツ等なんかシリアスしとるけどまず働けって言ったら駄目なヤツかの」


「だ、大丈夫ですよ……。大丈夫……」


「シャルナちゃん石砕けてる石砕けてる」


 イトウは彼女達の困惑に気を崩したのか、誤魔化すように白衣を翻す。

 石垣はこれで充分だろう、と大壁を撫でながら。


「さ、魔道駆輪に乗るとしようか。言っておくが私は運転できんぞ」


「……え、何。御主も乗るのか!?」


「当然だろう、手伝ったからには私にも体験する権利がある。助手席を所望する」


「ちょぉっと待ぁった!! 何するか知らないけど、フォール君の隣はシャルナちゃんの指定席と決まっておるぞよ!!」


「決まってない! 決まってないからな!?」


「と言うかそもそも四人乗りで既にギリギリなのに五人の乗れるか! ファンシー部屋含めても足りんわ!!」


「そーだそーだ! これはもうシャルナちゃんが僕の膝の上に乗るかフォール君とタイタニックポーズするしかないぞ!!」


「ルヴィリアちょっとこっち来い! 貴殿も石垣に組み込んでやる!!」


 ぎゃあぎゃあと騒ぐ彼女達を沈めるが如く歩みでたのは他でもない、フォールだった。

 彼の物言わせぬ歩みに、誰しもが口を噤む。息を呑む。

 その姿に殺気や敵意があったわけではない。ただ何処か、物言えぬほど気圧された。

 何かがーーー……、フォールという男の中にある何かが、彼女達に言葉を失わせたのだ。

 あと序でにリゼラを縄に縛り付けて魔道駆輪の後方へ結んだことも。


「え、ちょ」


「イトウ、貴様は旅の果てにある答えを知るのは、旅の果てに辿り着いた者だけだと言った。あぁ、俺もそう思う」


「待っ」


「ならば、貴様は己の姿を知らぬ鏡面のまま歩むか?」


「聞け、おい」


「いや……、例え答えは果てにしかなくとも、答えを知るためには模索を欠かすことはできまい。貴様のような研究者がそうであるように、果てにある答えへ歩むのではなく、歩むからこそ果てがあるのではないか」


「あの、聞い、外れな、おま」


「人は果てを目指すのではなく、模倣のために果てがあるのだと? 結果よりも過程だと言うのか?」


「ねぇ聞いて? ねぇ」


「違うな。……過程により結果が変わるのだ」


「……ク、フフ」


「フ、フフフ」


「「はっはっはっはっはっは」」


「あの、ちょ、まっ、シャルナ! シャルナ助けて!! ルヴィリアァアーーー!!」


「どうしようシャルナちゃん、あの二人に近付きたくない」


「無表情で笑うとあんなに恐ろしいものなのか……」


 彼女達が呆然とする内にフォールとイトウは笑い声を止め、大きくため息を吐き出した。

 互いに物言うこともなく、戯けることもはしゃぎ合うこともなく、大きく、大きく。


「行くか」


「行こうか」


 彼等は機械的な感情処理を終えたかと思うと、そのまま魔道駆輪へと乗り込んだ。

 そして困惑するシャルナとルヴィリアにも手招きし、さっさと乗り込むことを促した。


「し、しかし、リゼラ様が……!」


「言っただろう、今回の計画はMVP(リゼラ)無しには成り立たん。あの突発的な火力が必要なのだ」


 魔道駆輪が起動し、駆動が車輪を揺らす。

 灯りが照らすのは丘から切り立った崖の先にあるーーー……、巨大な城門。


「飛ぶぞ」


「「えっ」」


 問答無用のアクセルGO。

 車輪が土煙を巻き上げ、駆動中枢が猛り啼く。車体は凄まじい加速と共に崖へと疾走した。

 シャルナとルヴィリアは慌てて車体に掴まるも、途轍もない加速により悲鳴を上げる間もなく風の一部と化す。

 無論、魔王様も急激な縄引きにより瀕死状態である。


「イトウ。先程の反論に一つ付け足したい」


「何だ」


「壁は壊すものだ。そうでなければーーー……、乗り越えるものだ」


「……その通りだな」


 フォールがギアを上げた瞬間、加速は更なる段階へと上昇する。

 夜天の雲を薙ぐ風さえも斬り裂くが如く、鉄輪の元で巻き起こる土煙さえも爆ぜ散らすが如く。

 まだまだまだまだ、更なる加速を。風を超えた先にまで到らんばかりの、加速を!


「さて、リゼラ」


 ――――そして車輪は崖先の小石を弾き飛ばし、虚空の空へ土色の尾で軌跡を記す。


「着火だ」


「御主マジで憶えとれよクソァアアアアアアアアアーーーーーーッッ!!!」


 魔王リゼラの手から離れた鋭い火球が石垣を撃ち抜いた。

 瞬間、石によって留められた火薬草が連鎖的に爆発し、凄まじい業火を産む。

 そしてその爆風は彼等の魔道駆輪を後押しするが如くーーー……。


「……待てフォール。そう言えば私が渡したアーパロ・ファイアナメクジの粘液はどうした?」


「全部あの石垣に塗り込んだが」


「そうか……、一瓶で小城なら吹き飛ぶレベルなのだがな」


「そうだったのか……」


「…………」


「…………」


「「まぁ、何とかなるか」」


 なおこの直後、爆発により残った森も全焼するという大惨事に。

 やっぱり何とかなるわけなんてなかったよ。



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