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最強勇者は強すぎた  作者: MTL2
激動の帝国脱出戦
143/421

【3】


【3】


「と言う訳でだ」


 フォールは確信するように頷き、帝国城門近くの切り立った丘の上にある森林を前に、決意の眼差しを持っていた。

 例え仲間達から焔とか大剣とか向けられていようと、眼差しを持っていた。

 割と本気の殺意を向けられようと、眼差しを持っていた!


「森に入るぞ」


「シャルナ、ルヴィリア! 勇者にジェットストリームアタックを掛けるぞ!! 思ったより素早いぞ、いいな!?」


「おお!!」


 だが結果は省略である。


「何だ、何が問題だ」


「問題も何も、こんな夜の森に入るとか正気か御主!! 獣もモンスターも蛮族もどんだけ出ると思ってんだ!!」


「凄いなぁリゼラちゃん。上半身埋まって話せるなんて中々できる芸当じゃないよ」


「ルヴィリア、我々もだが」


 魔族三連埋。


「だから言っているだろう。この森に火炎草という植物があるらしい。帝国に侵入する為にはそれが必要なのだ。ちなみに学名はエクスプロージョンシード」


「もう何するか大体予想ついたわクソッ! 余計禁止!! 余計きーんーしー!!」


「尻で喋るな気色悪い」


「え、ちょっと待って何それ見たい!! あダメだこれ抜けねぇ!! 割とガッチリいってるんですけど!?」


「ちょっと待て今これ無防備か!? ふぉ、フォール、抜いてくれ! 頼む!!」


「わぁ、シャルナちゃん見抜きしろとかだいたぁーん……」


「そっちの抜けじゃない!!!」


「やかましい奴等だ。まったく、抜けば良いんだろう。……赤魔族はー火に強いー♪」


「完全に使い捨て感覚なんじゃけどこの勇者ァ!?」


 青は水に強いわけでも黒は力持ちなわけでもない。


「兎角、ここで言い争っている暇はない。空に雲が懸かっている間が勝負だ」


 フォールが指差すのは瞬きのように開き閉じられる夜空の瞳。

 今晩は然ほど風はないので雲の流れは遅いが、逆に雲数が少ない夜空だ。

 もう幾時もすれば瞳から瞼は退き、炯眼の輝きが大地を照らすことだろう。


「貴様等はここで待っていろ。草程度、俺でも採取に事足りる」


 彼は魔道駆輪から籠を取り出し、森の中へ踏み込んでいく。

 かといって上半身が埋もれたリゼラ達にそんなフォールを止められるはずもない。

 そして『あ、これやばい』と抜け出す数十秒があれば、既にその姿は森の影に消えているわけで。


「よし逃げよう」


「わぁリゼラちゃん即決即断だけど逃げるのは流石にマズいと思うなぁ僕!!」


「全焼する森から逃げ出す三人とか明らかに疑われますよリゼラ様!!」


「既に全焼前提っておかしくねぇ!? ちげぇやおかしいのは勇者だわ!!」


 良くて全焼、悪くて天変地異である。


「ど、どうしますか、リゼラ様……! 追いますか!?」


「アホ、追ったら確実に巻き込まれるじゃろーが!!」


「……じゃあ結局、留守番じゃない?」


「…………」


「…………」


「…………」


「……せやな!!」


 と、言うわけで。


「リゼラちゃんそれダウト」


「御主魔眼使ってねぇ!?」


「いや、リゼラ様が極端に解りやすいだけかと……」


 彼女達はとても楽しい夜を過ごしたそうです。おしまい。


「…………さて、と」


 なんて、平和に終わればどれだけ良かったことか。

 全ての元凶、既に森を全焼させる前提で話されている、と言うか絶対させるであろう男に視点は移り変わる。

 ――――いや、やめよう。彼とて一応は勇者、今までも奇異な関係ではあったが数多くの人々を救ってきた身だ。

 そんな、森を全焼させるなんて前提で述べるべきではない。そう、彼の勇気ある姿に敬意を表して、もっと逞しく凛々しく述べるべきではないだろうか。

 そう、それこそ正しく天を背負い民の涙を拭いし誉れ高き栄光なるーーー……。


「暗いな。油を撒いて火を付けるか」


 クソ野郎。


「む……」


 だが彼は思い直す。そう、思い直すのだ。

 普段の突拍子もない行動は決して思い付きやその場のテンションでやっているわけではない。

 緻密な計算と思想の元、最良の結果を追い求めたが故の行動なのである。


「しまった……、肉油しかない……」


 もうダメかもしれない。


「こうなったら菜油を取りに戻るか……。野菜の炒め物は肉油ではあまり美味しくならんからな……」


 謎の料理論を展開しつつも思い悩む勇者。

 だが運良く着火を思い留まったらしく、彼は暫くその場で頭を悩ませる。

 炒め物か、天ぷらか。まぁ明日の夕飯についてだったが。


「……む」


 が、そんな思考を打ち切って、彼は巣穴に踏み入られた獣のように体を跳ね起こした。どうやら獣よりも人間離れしたその耳に何かが届いたらしい。

 彼は物言わず肉油とマッチを懐に仕舞うと、そのまま夜の森を舗装された街道でも疾駆するかのように駆け出した。

 木々の枝をへし折り、草木を踏み倒し、疾駆する。その速さたるや明らかに人間のそれではない。

 そうして、数分ほど走った辺りで、だろうか。彼が少し開けた、雲に遮られた薄い月光が差し込む場所に降り立つと、そこには幾匹かの獣に引き摺られる男の姿があった。


「…………」


「「「…………」」」


 フォールと獣は睨み合う。獣も彼がただならぬ存在であることを認識したのだろう。

 牙に引っ掛けて引き摺っていた白衣の男を吐き出しつつ、威嚇するように唸りながら全ての獣が彼へと殺意の双眸を向けた。

 対するフォールは動かない。一歩動けば状況が大きく変化することを知っていたからだ。

 故に彼は四肢を動かすことなく、囁くように呟いた。耳元へ息を吹きかけるように、呟いたのだ。


「もふもふさせ」


 獣達は逃げ出した。


「何故だ……」


 想像していただきたい。

 目の前の、ただでさえ尋常ではない人間らしき何かが口を開いた瞬間、世界が豹変したかのように殺気を放つ恐怖を。そしてそれが無表情のまま息を荒げて手を伸ばそうとしてくる恐怖を。

 そりゃ逃げる。魔王でも逃げ、魔王は失神しますねハイ。


「もふもふ……、したかったのだがな……」


 勇者しょんぼり。

 兎角、気になるのは獣達に引き摺られていた白衣の男だ。

 襲われたのだろうか? この闇夜の森だ、勇者でもない限り当然の結果と言えるだろう。

 目立った外傷はないようだが、応急処置ぐらいの手当はした方が良い。勇者は彼に歩み寄り、手持ちの道具でできるだけの治療を行った、と言うとでも思ったか馬鹿め! 勇者は全速力で獣達の後を追う!!


「いいや、もふもふするのだ」


 諦めてなるものかと全力疾走。まさか追ってこないだろうと安堵していた獣達は振り返った瞬間、悲鳴のような叫びと共に全力爆走。

 しかし同じ全力でも人間と獣では天地の差がある。だがこの男は勇者である。

 獣達が疾駆し、加速し、これでと希望を見せた瞬間に彼は前方へ回り込んだ。両手を拡げてカミングミー。

 獣達の涙に埋もれた瞳が最後に見たのは、そう。絶望が牙を開いて待ち構える姿だったという。


「……良し」


 さてはて、幾ほど時間が経ったのだろう。

 離れた場所で魔王がばば抜き優勝(※接待)によりはしゃぎ回って、丘の崖から落ち掛けた時か。それとも獣達がストレスともふもふのせいで全身が禿散らかした時か。

 満足そうに全身に獣の毛を付着させた勇者は元の位置に戻り、また火薬草の採取に取り掛かり始めた。そうそう、当初の目的を忘れてはいけない。

 なお白衣の男は忘れて良いものとする。


「火薬草の採取に戻るか」


「まぁ待て」


 忘れるなと言わんばかりに足を掴む手が一つ。

 勇者は数秒ほどの思考の後、何処か驚くように声を僅かに上擦らせて、いつもの無表情で呟いた。


「人間だったのか……」


「生きているか死んでいるか以前にそこで驚く辺り、中々だな貴様」


 声からして、そこそこの年齢なのだろう。中年以前、青年以降と言った辺りか。

 フォールはそんな、白衣の塊のような男を観察しつつ立ち上がるのを持った、が。


「…………」


「…………」


「…………」


「…………」


「……起きれん。起こしてくれ」


「そうか」


 フォールは仔猫でも持ち上げるように、首襟を持ってぐいと男を引き上げた。

 彼の目の前に現れるのは声の通り、少し年のいった男。

 しかしその表情たるや、黒眼鏡の奥にはいったい何日眠ってないのかと思わず勘繰ってしまうほど酷い隈があり、目元の彫りは深く眉根は酷く歪んでいる。さらに深緑色の髪の毛は数年単位で手入れされていない芝生のようにボサボサ、表情からは彩りらしい彩りが感じられない。

 白衣から辛うじて研究職なのだろうと推測できるだけであって、もしそれが無ければ浮浪者か、はたまた囚人か。もしかしたら幽霊かと思い違えていたかも知れないほど、その男は小汚かった。

 と言うより純粋に、風貌に現れるほど疲弊しすぎているのだ。


「酷い有り様だな。獣に襲われたのか?」


「いや……、数週間ぶりに仮眠を取ったところ獣に狙われてな。死肉と見られたのか、気付けば運ばれていたので大人しく死んだふりをしていたまでだ」


「成る程、それは大変だったな」


「うむ。だがスワム・ハイエナの生態も調べておきたかったから別に構わなかったがな。しかし助けてくれたことには礼を言おう。お陰で死肉の振りを続けるか本当に死肉になるかの賭けをせずに済んだ」


「刺激的な賭けだな」


「あぁ、とても分が悪い」


「…………」


「…………」


 会話が続かない二人。


「……しかし、群れる(スワム)・ハイエナとは安直なネーミングだな。解りやすくはあるが」


「そうか? 分類させやすいからそういう名前にしたんだが」


「ん?」


「ん?」


「「…………」」


 暫しの静寂、そして。


「……まず、自己紹介をすべきだったな。名をイトウ・エヴィル・ノーレッジだ。モンスター学を専門とする研究者として働いている。イトウと呼んでくれ」


「モンスター学の研究者?」


「あぁ、モンスター学の研究者だ」


「一般的にスライムの総称及び主な想像図として用いられることが多く個体数が最大だと言われ全てのスライムの原型と言われるブルースライムであるがここから派生したスライムは数多くそれ専用の図鑑も用いられることが多いしかしブルースライムから派生した中で特に変異的に成長し新たな種族として成長を遂げたスライム種が数十種いるとされその中には先祖返りとも呼べる形でブルースライムの姿に酷似した外観を持つも生態や食餌が全く異なる存在として有名な特殊スライムの名前とその特殊スライムが好んで食べるモノと特殊スライムからさらに派生し完全に別生物となったモンスターの名前を述べよ」


「答えはクリスタルスライム色彩的にはブルースライムよりも淡く穏やかな色をしているが感情的な行動を行う際や死に際には宝石のような色合いを放つので一部愛好家では非常に価値が高いスライムとされておりまたこのスライムは名前の通り鉱石に近い生態のため好んで雨水や他鉱石を餌とするちなみにこのスライムが鉱石を咀嚼中に何らかの原因で自然死しさらにクリスタルスライム自身が永い年月を掛けて風化しなかった場合に限り鉱石と同化して作られる結晶をスライム結晶というこのスライム結晶は好事家の間では数億ルグで取引されることもあるというほどの珍品ださて話を戻すがクリスタルスライムからさらに派生して別形態になったのはブロック型やストーン型やクリスタル型のモンスターであるとされる生命系に関してはクリスタルスライムからの派生のため微生物の進化が一種の生物を作り出した形となるのだろうなこれを元に全てのモンスターの起源はスライムであるという学説もあるが私は肯定していないいや近い形であるとは思っているがそうではなく原初的なモンスターの近くにスライムがいたのではないかと睨んでいる捕捉として付けておくがブロック型やストーン型やクリスタル型は全てがクリスタルスライムから派生進化したわけではなくむしろ他の種族からも進化した個体もいるつまりこれはクリスタルスライムが必然的にそうなったのではなく環境がその進化を促したということだこれが私がスライム進化論を否定する理由の一つだなまぁ状況に適応するために一番進化の可能性を見せているのがスライムという点に違いはなくさらに原型に近いブルースライムとしての形も保っているのだから確かにスライム原初進化論を否定しきれないのも事実だこれはこれからの課題にしたいと思っている」


「フォールだ、旅をしている。よろしく」


「あぁ、よろしく」


 二人はガッチリと熱い握手。とってもデジャヴである。

 しかしあの時とは違う事が一つ。それはイトウから差し出された手であった。

 その手は学言葉の自己紹介や文字の名刺よりも学者であることを明確に物語っており、痩せ細って骨や血管が浮き出ているところや、ペンだこやインク、土草の汚れがよく目立つところは正しくらしい(・・・)ものだった。

 白衣の裾も然り。こんなところにいる事や、先程の数週間ぶりの仮眠という言葉を聞く辺り、かなり熱心な研究者なのだろう。

 いや、こんな夜の森に踏み居る辺り熱狂的とさえ言えるのかもしれない。


「旅人か。ふむ……」


 イトウと名乗った妙齢の男は何かを思案するようにフォールの爪先から頭上までを眺め上げる。

 そして何処か納得するように、ほんの少しだけ驚くように瞼を細め、軽く息をついた。


「旅人と言えば、私も部下に旅をさせて……、いや、私の部下が旅をしている。もしかしたら出会っているかも知れんな」


「もしかしてだが、それはガルス・ヴォルグではないか」


「……ほう、奇異なこともあるものだ。知り合いかね」


「ガっちゃんフォっちと呼び合う仲だ」


「何をやっているんだあの馬鹿は」


 彼等は雑談でもするかのようにガルスの事を口切りに、色々な言葉を交わし合う。

 元よりモンスター、いやフォールに到ってはスライム限定だが、共通する部分のある二人だ。

 フォールとガルスがそうであったように、彼がイトウと打ち解けるのにそう時間は掛からなかった。

 まぁイトウという男の気難しい性格もあって、流石にフォっちイっくんと呼び合うほど親密にならなかったようだが。


「しかしフォール、貴様はどうしてこの森に? ガイドブックに載るような名物はないはずだが」


「あぁ、諸事情で火薬草を集めにな。……そう言えばこれの学名もシンプルだが、貴様が?」


「あぁ、そうだ。食餌調査の序でに見つけたものだが……、解りやすいだろう」


「そうだな。連れもそうツッコんでいた」


「「はっはっはっはっはっは」」


 想像していただきたい。無表情の男二人が表情を変えず肩だけで笑う姿を。

 恐怖である。


「しかし、そうか。どうやらガルスが世話になったようだし、火薬草ならば群生地を知っている。手伝おう」


「良いのか? 悪いな」


「何、構わない。この森に来たのはその群生地近くに行くという理由もあったからな。この研究手帳を使っ……」


 イトウは白衣の懐を漁るが、その手が何かを掴むことはない。そのまま様々なところを探ってみせるが、やはり何かを掴む様子はない。

 彼の無表情が心なしか怪訝そうに歪んでいく。


「……いかんな、どうやらスラム・ハイエナ共に手帳を盗まれたらしい」


「何と」


「あの手帳にはここ数週間の研究成果が記してあるんだが……」


「それは大変だな。取り返すとしよう」


「だが奴等は危険だぞ」


「何、先ほどもふもふしてきたところだ」


「よし、ではいけそうだな」


「「はっはっはっはっはっは」」


 恐怖。



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