表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最強勇者は強すぎた  作者: MTL2
激動の帝国脱出戦
141/421

【1】


【1】


 からからと、まるで遊覧のように平原を進む魔道駆輪。

 その進路は何処へ向かうでもなく、城壁の前を行ったり来たりの右往左往。

 頬を撫でるような優しい風に揺れるが如く、それはとても落ち着いた運行だった、が。


「にぃげっぷ」


 そんな魔道駆輪の上では行儀など舌先すら知らぬと言わんばかりに、みっともない格好で腹を出しながらゲップと我等が魔王様。穏やかな風情も何もあったものではない。

 ――――それもそのはず。何と彼女、本当に全ての肉を食べきってしまったのだ。

 あの10kgもあった高級肉を、食べ放題ならばと言わんばかりに、全て。

まぁ、悪いと言えば彼女のその大食い根性も悪いのだろうが、これ幸いと様々なソースだの調理法だのを試したフォールにも問題はあるだろう。

 ちなみに先日の野菜ソースは大好評でした。


「リゼラ様、お行儀が悪いですよ」


「にへへ、解っとる解っとる。しかしこの充足は良きものよなぁ…………。もう世界征服とかどーでもいいや……」


「リゼラ様?」


 エンディング入ります。


「んまーリゼラちゃんの気持ちも解らないでもないけどねぃ。あー、お肉美味しい」


 と、エンディングキャンセルことルヴィリア。彼女はフォールが取って置いてくれた肉に齧り付きながら満面の笑みを浮かべていた。

 流石はフォール。お空が影分身してベガス行こうぜと囁いてくる間も、しっかりとお肉を魔王の魔の手から守ってくれていたらしい。

 まぁ結局、解毒は一切してくれなかったんですけども。自力復活ですよハイ。


「けど良かったのかい、フォール君。結局あの騎士達は放置だったじゃないか」


「首から下を土に埋め置いたのが放置というなら、確かに放置だな」


 彼女の言葉に平然と返したのは、いつものように操縦桿を握るフォールだった。

 しかしその無表情に、いつもの(・・・・)はなく。


「それよりも問題は帝国へどう入るかだ。王姫だの巫女だの聖女だの知らんが、やると言った以上はやらせて貰う」


る?」


「貴様は人を何だと思っている」


るか?」


「だから貴様等は人を何だと思っている」


「ヤるだね」


「殺すぞ」


「待って僕だけ反応キツ過ぎない!?」


 当然である。


「……話を戻すが、最初はあの群衆に紛れてもと考えたのだがな。ルヴィリア、貴様の魔眼を使ってだ」


「むっ、無茶言わないでよ! 僕の魔眼は幻術を見せることはできるけど、幻術は相手に見せるものだからね!? あんな何百人にも幻覚見せたりしたらそれだけで僕の目がどーなるか!!」


「だろうな。だから他にも見張りをどうにかして消すかあの民衆を扇動するかとも考えたが、どちらにせよ成功率が低い。それに何よりあれだけの規模を誇る国とあってはどちらの手段だろうとアシがつくし、本当に罪状をつけて口実を与えては面倒だ」


「まぁ、煽動なら前科有りじゃけどな……」


「現行犯でなければ言い訳は幾らでも可能だ」


「クズぅ」


「やかましい。……と言う訳で最低条件は『誰にも見られず』かつ『罪を犯さず』、『魔道駆輪ごと侵入する』ことだ」


「二つは解るが……、魔道駆輪ごとというのはどういう事だ?」


「この平原に魔道駆輪を置いていくわけにはいかないし、スライム人形から目を離したくない」


 理由に関しては絶対スライム人形だろうなと全員が思ったのは秘密である。

 そして事実なのも秘密である。


「その上、帝国の広さからして移動手段が無くてはな」


「いちおー帝国の中には魔道列車って言って、何人も乗れる大きな魔道駆輪みたいなのもあるんだよん? 決まった時間にしか動かないけど……、って、そっか。そんな人が集まるようなトコはダメだよねぇ」


「そういう事だ」


「無茶言うでないわ御主! ただでさえこの身一つで入ることさえ難しいというのに、魔道駆輪でなぞ入れるものか! バーカバーカ!!」


「明日の朝食は霞みだな」


「やらぁああああああああああああああああああ!!!」


「い、言い方はどうかと思うが、私もリゼラ様の仰る通りだと思うぞ。幾ら何でも無茶だ、単身でも危険だというのに、魔道駆輪ごとなど!」


「無理だ何だと決めつけるから無理になる。世の偉人達はその無理を超えたからこそ新たなる発見ができた。人はその無理を超えることを挑戦というんだ」


「でも世の偉人は人を巻き込まないと思うの、妾」


「それはそれ、これはこれ」


「出たよクソ! もうコイツ人の話聞くつもりねぇぞ!!」


 大体いつも通りである。

 しかし、斯く言えど『誰にも見られず』『罪を犯さず』はどうにかなるとしても、『魔道駆輪ごと侵入する』は決して容易ではない。

 例えるならば兵舎に極悪人がパレードを開きながら入っていくようなものだ。ただでさえ高級品で悪目立ちする魔道駆輪だ、発見どころの話ではないだろう。

 ――――だが、フォールの表情は何を思いついたのだろう、話を進めるにつれて自然と和らいでいった。いや、違う。この表情はそうではない。

 自然と、いつも通りの、ろくでもない無表情になっていった。


「……ふむ、良し。決まったぞ」


「まぁどーせ門が開くのは明日の朝じゃろ? んじゃ、妾はもう寝」


「今回のMVPはリゼラだ」


「えっ」


「そして今晩中に侵入する」


「えっ」


 偉人は周囲を巻き込まない。巻き込む者もいるだろうが、基本巻き込まない。

 しかし勇者は確実に巻き込む。これ常識。


「さて……、帝国へ入るとしようか」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ