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最強勇者は強すぎた  作者: MTL2
激動の帝国脱出戦
140/421

【プロローグ】

 ――――勇者、勇ましき者よ。聖なる女神より加護を与えられ賜うし者よ。

 これは決まっていたことなのです。だからどうか、悲しまないで。その涙を流さないで。

 預言が闇に歪んでいた次点で、私も予期していたことです。或いはこれは運命とも言えるのかもしれません。

 私は、何かを恨むことはありません。貴方に言葉を残せただけで充分なのですから。

 私はこの運命を受け入れましょう。だからその刃は、命ある誰かの為にーーー……。

 これは、永きに渡る歴史の中で、研鑽を賭し続けてきた東の四天王と南の四天王。

 妙異なる運命から行動を共にすることになった、そんな彼女等のーーー……。


「心配しないでシャルナちゃん! フォール君と一晩二人っきりだったけど何もなかったから!!」


「案ずるな。貴殿とフォールに何かあったなど露ほども思って」


「裸見られたけど」


「な、何かあったなど」


「隣で寝たけど」


「な、何か」


「フォール君に証を刻まれちゃったけどぉぉぉおーーー!(※レースの)」


「」


「ん~~~~~!!」


 ゾクゾクゾクゾクゥッ!!


「もっ……、もう、貴殿を……」


「にゃはははは! じょーだんジョーダン!! たまぁにシャルナちゃんからかってみたくなるのにゃーん♪」


「殺すしか……!」


「あの、ね? 冗談だって」


「貴殿を殺して私も死ぬぅううっっ!!」


「フォール君へるぷ。フォール君、ちょ、ふぉ、ちょおま待っ、あの、フォールくぅううううううううううううーーーん!!!」


 怪動の物語である!!



【プロローグ】


「帝国、か」


 薄雲かかった夜天の空を見上げながら、フォールは星へ囁くように呟いた。

 その瞳に何か、感情を孕む色があるわけではない。純粋に一つの思想として口に出したのだろう。

 花を花だと言うように、蝶を蝶と言うように、空を空というように。

 ただ彼方、地平線にあるにも関わらず、既に異様すぎるほどの存在感を醸し出しているその一国へ。

 ―――――世界最大の国家にして世界統一国家、帝国へ。


「ガッちゃん……、あの国でこそ会えると良いな」


「そんなこたぁどーでも良いからさっさと焼け! 肉焼け!!」


「全く、しんみりする暇もないな。……だが、そう慌てるな。今は鉄板を温めているところだ」


「鉄板っていうかそれ覇龍剣ンンーーーーッッッ!!」


 石を積み上げ薪を置き、鉄板代わりの覇龍剣。

 ある物は使う主義の勇者です。


「諦めようシャルナちゃん、今は誇りよりお肉だよ。最高級お肉だよ。最高級リリーブ牛肉だよ」


「うぅっ……、申し訳ございません先代……! 剣が、剣で……ッ!!」


「嘆くなシャルナ、代わりに貴様には良いところを喰わせてやる。大半はリゼラが喰うだろうがな」


「そういう問題ではっ……!」


「はいはいフォールくーん! そーゆーとこって焼き加減難しそうだしぃ、シャルナちゃんにあーんしてあげたらどうかなって思うな僕ぅ!」


「そうだな、そうするか」


「ぐ、ぉ、お、ぁ、ぬぅっ……! う、ぅっ……!!」


 苦悶の表情を浮かべ、良い感じの温度になっていく覇龍剣を前に涙するシャルナ。と言うか既に塩コショウで慣らしてる辺り、拒絶しても絶対使うぞこの勇者。牛脂、牛脂を塗るんじゃない。

 ――――さて、そんな夜空バーベキュー大会を行っているフォール達は現在、斯の帝国の目と鼻の先まで迫っていた。

 流石は世界を統べる帝国。既に夜となって門は閉じられているようだが、その前には幾千幾百という馬車や荷車、旅人が砂場の砂々のように集まり、地上の天の川を創り出している。丘一つ分離れたここからでも、流河の煌めきは色褪せさせない。

 あのとんでもない群勢は聖剣祭のこともあってだろう。いや、それにしたって異様な数だ。まるでこの世半分の人間をそこに凝縮したと言われても、信じてしまいそうなほどに。

 否、それ以上に驚くべきは城壁である。集まっている人々どころか、フォール達が今まで見てきた街や村はもちろん山や湖さえ覆い尽くしてしまいそうなほどの、城壁。

 それさえも帝国の一部だと言うのだから、その巨大さは筆舌に尽くしがたいものだ。


「……ふむ、ルヴィリア。確か貴様は」


「んー?」


「フォール! まだか、肉まだか!!」


「まだだ、もう少し待っていろ。……で、ルヴィリア。貴様は帝国に入ったことがあるんだったな」


「あるヨー。どったの?」


「いや、帝国はどのようなものかと思ってな」


 うーん、とルヴィリアは首を捻って。


「一言で言っちゃば、とっても大きい?」


「見れば解る」


「でしょー? でも想像以上よん。僕の行きつけのお店でよく話は聞くんだけどね、帝国で一生を終える人でも端から端まで行く人はほとんど居ないんだってさ」


「……ふむ、政治や王権はどうなっている」


「聖堂教会って知ってるよね? 世界を創造した女神を崇める連中なんだけど、そいつ等が王権まで掌握しちゃってるんだよねー」


 曰く、帝国王族の女には代々、女神から神託を受けられるという『巫女の力』が受け継がれるらしい。

 聖堂教会はそんな『巫女の力』を持つ王女、或いは女王を巫女として崇め讃え、臣下や騎士は聖堂騎士としての席を持つのだという。


「平原で会ったラドちゃんが聖堂第十席だったね。末席だけど、アレでも国の中じゃけっこー偉いんだよん?」


「……ふむ、神託を受ける力か」


「神託と言えばフォール、御主が大分前に受けたっきりじゃの。その後は忌々しい女神から何かないのか?」


「未だに週三で柿ピーとビール、たまにワインを要求してくるぐらいだ。あとチーカマ」


「うーんこのダメ親父感」


 なお捧げ方は皿に乗せてゴーサインを出すだけの簡単ステップだそうです。

 ちなみに時々フォールが用意した料理が空に浮かんだり、それを彼がジャンピングキャッチしているのは言うまでもない。

 代わりに乗せるのは石と草だそうで。


「女神かぁ、うへへへどんなエロい格好してるんだろぉ♪」


「パン一だ」


「神秘さもクソもないけどそれはそれで良しッッッ!!」


 ストレートエロもいいよね。


「しかし、ふむ。そんな場所ならば滞在費も必要になるか。……金か」


 そう、先日のレース大会では結局、賞金が出ることはなかったのだ。

 と言うのも主催者であるマルカチーニョ家が何者かの襲撃を受け、賞金が入った金庫を強奪されたからなのだとか。

 得られたものと言えば肉屋が保存していた優勝賞品の最高級リリーブ牛肉10kgと、村人達の好意と祝品として贈られた生活用品や食料少々。確かに助かったし有り難い話だが、金がないことにはその場凌ぎにしかならない。

 現状などまさにそれだ。村や商人相手なら物々交換も効くだろう、しかし帝国のような確固たる政治経済が成り立った場所ではそうもいかないわけで。

 ――――なお肝心の品物カネが魔道駆輪の奥に押し込められていることを彼等はまだ知らない。


「やっぱりエロ同人的な展開に持ってくつもりだろうフォール君! 金がないから体売れ的な感じで!!」


「口減らし……」


「ばいばいルヴィリア……」


「あっるェ僕で確定!?」


 三人衆発足おめでとうございます。


「待って待って待って!! 帝国じゃ世界中から様々な旅人や冒険者が訪れるから、それをまとめるギルドっていう組織があるんだよ! そこに行けば色んなクエストがあって解決するとお金を貰えるから、それでお金儲けすれば良いんじゃないかな!? カナ!?」


「ほう、そんな組織が……」


「うん、まぁ勇者って普通はそこで仲間募って冒険に出るからね。普通はね」


「勇者の対義語じゃからな、普通って」


「…………」


 抜剣準備に入った勇者を全力で宥めつつ、と。

 途端、フォールの双眸が重圧に細められる。刃のように鋭いそれが、さらに鋭利に、獲物を喰らう牙が如く構えられたのだ。

 否、彼だけではない。膝を抱えて鬱っていたシャルナも、陽気にはしゃいでいたルヴィリアも、果ては肉に現を抜かしていたリゼラも、そう。

 皆が皆、一様に意識を鋭利に尖らせたのだ。その異変を察知したが、故に。


「……フォール、これは」


「あぁ、間違いないな」


「僕の魔眼にもビンビン反応してるよーん……。にゅふふ、来たねぇ」


「……で、あるな」


 彼等の言葉に追い立てられるが如く、周囲の草林が風薙ぎの音を立てる。

 いいや、風薙ぎの音はこんなにも荒れることはない。縦横無尽に草が揺れることもない。

 音は次第に大きくなる。凪は次第に乱れとなる。

 フォール、リゼラ、シャルナ、ルヴィリア。四人は物言うこともなく、その音に呼応するが如く武器を取り、そしてーーー……。


「来るぞ!!」


「あいあーい! 僕達を襲うとは何処の馬鹿かな!!」


「フォール、肉!!」


「うむ、最高の鉄板具合だ」


 ――――武器を、構えたのだ。


「何故そっちに構えたんだフォール!!」


「この焼き加減を逃せば次はもう無い」


「リゼラちゃんにツッコまない辺り流石の信頼だネ」


「あっそーれにっくにっくにっくにっくー!!」


「信じられるかいシャルナちゃん、これ魔王様」


「言うなルヴィリア、悲しくなる……!」


 闇夜の草林に向かうシャルナとルヴィリア、鉄板へ肉を乗せようと構えるフォールとリゼラ。

 だが、そんな彼等の騒ぎなどに構うはずもなくその者達は闇夜から姿を現した。

 暗殺者のように、ではなく。盗人のように、でもなく。ただ堂々と正義を執行する騎士として、現れたのだ。


「これは……!?」


「おっとっとー? あの旗紋はちょっちやばいよん……」


 ルヴィリアの緋色が映すのは、黄金と真紅が交わり合った帝王の紋章。

 草葉の陰からその旗は次々に掲げられ、見る見る内にフォール達を囲う檻ができ上がっていた。

 逃げ場どころか、逃がすという選択肢さえ押し潰すような、民衆を圧倒する王の凱旋が如き包囲である。


「あ゛ー……」


 そして、その檻を潜り抜けるように出て来たのは、一人の騎士。

 身形からして周囲の雑兵とは格が違うのだろう。気怠げな表情もその姿であれば大物の風貌に見えよう。

 彼はフォール達の前に歩み出ると一枚の洋紙を拡げ、相変わらず覇気の無い声でそれを読み上げる。


「ぇー、被告……」


「にーっく! にーっく!!」


「任せろ。行くぞ」


 鉄板に黄金色の脂に彩られた肉が乗った瞬間、業火に火薬を放り込んだが如く凄まじい破裂音が鳴り響いた。

 鉄板と肉から飛沫が爆ぜ、フォールとリゼラの前に黄金の雨を降らせる。

 肉が、嗚呼、肉が溶けていく。鉄板の上で脂身が爆ぜていく。暴力的なまでの肉という存在が全身を殴りつけてくる!

 強烈な匂いは味となり、今だ舌先にさえ触れていない肉を頬張ったかのような、満足感さえも!!


「おぉ……」


 その様に思わず騎士達も感嘆の声を漏らす。

 鎧越し、兜越しにさえ通じる芳醇さだ。彼等の口端から流れる涎とて無理もない。


「はいはーい、余所見しなーい。お前らそれでも誇り高き騎士かぁー?」


 だが、そこはしっかり戒めるのが隊長の役目。彼の言葉を受けて騎士達は自身を戒めるように旗紋をしっかりと大地に突き立て直す。

 そんな誘惑に負けるものかーーー……、と。そう覚悟を定め直すが如く。


「よし、それで良い。……そんで、おい。そこの野郎。お前も宣告中に肉を焼くんじゃない」


「黙れ。今、目を逸らすと肉の焼き加減が解らなくなる」


「黙れとは良い度胸だ。貴様それが騎士に対する態……」


「何なら貴様等も喰っていけ。どうせ肉は腐るほどあるのだ」


「はぅわっ!?」


「おいおい、そんなモン受け取ったら賄賂になるでしょーが。ダメに決まってんだろ」


「そ、そーじゃぞフォール! 食べ放題だもん! 妾が貰うもん!!」


「徴収品ということにすれば問題あるまい。何ならエールもあるが」


「はい総員旗を置けェ-。今から備品点検を開始するゥー」


「はわぁああああああああああああああああああ!!!」


 お肉には勝てなかったよ。

 絶叫するリゼラの隣で、騎士達は歓喜の声と共に旗を置いて肉へと駆け寄った。

 まるで客寄せパンダの出産に駆け寄る観客が如く、着々と肉を焼いていくフォールの周りに集まる始末。

 そんな光景を前にリゼラはシャルナに抱き付きながら、顔面真っ赤な大号泣である。


「ふぉ、フォール。幾ら何でもあんまりではないか。リゼラ様はあんなに楽しみにしていたのに……」


「何、案ずることはあるまい」


「だが……」


 そうこう言う内にも肉は黄金色から重厚な焼き色となり、表面に輝く脂を浮き湧かせる。

 フォールは言葉なく刃を取り出し、覇龍剣てっぱんに切っ先を引き立てた。

 そしてすぅ、と。肉は音を立てることもなく引き摺られることもなく、水面でも裂くように裂き割れて。


「「「おぉーーー!!」」」


「こりゃ見事だなぁ」


 騎士達の完成を受けて、薫りの爆弾が核弾頭に。

 草原一帯を埋め尽くすほどの肉色が、彼等の本能を美味へと沈み落とす。


「ほ、ほらリゼラ様! 肉ですよ、肉!!」


「…………」


「ですからその、そろそろ泣き止ん……で……」


 自身の脚へ捕まるリゼラの顔から滝のように流れる涙はいつの間にか涎になっていた。

 下着べっちゃべちゃ。


「そら、エールを廻せ。乾杯といこう」


 フォールは肉を裂きながらもエールを器に注ぎ、騎士達へと廻していく。

 既に匂いだけで樽一本は空きそうなほどだ。彼等は配られる肉を待てないと言わんばかりに、心躍らせる。

 シャルナとルヴィリアにも酒は回り、リゼラにはジュース。そうして皆に飲み物が回るのを確認すると、フォールは肉を掲げながら、一言。


「乾杯」


「「「かんぱーーーーーーいっ!!」」」


 闇夜を晴らすかのような、愉快な歓声。

 リゼラはその音頭が上がるやいなや、真っ先に肉へとかぶりついた。

 ――――牙が肉を潰す瞬間、溢れ出す肉の一文字。牙を押し返す食感も全身を駆け抜ける薫りも溢れ出す肉汁の喉越しさえも、全身が肉に支配される!

 蕩ける? 飲める? 舌でかみ切れる? 否、否否否否否否否否!!

 この圧倒的で絶対的な肉こそが、食む度にさらにと全身が求めるものこそが、肉なのだ!

 虹色の脂、脂の海に埋もれて啼く! 焼いた瞬間に脳髄が眼を見開く、強烈過ぎる肉の芳薫!! 蕩ける!? 否、肉だ。このしっかりした噛み応えの中で、舌先から溢れ出すような肉汁こそ肉の証しなのだ!

 これこそが、肉という存在なのだ!!!


「はふっ、はひゅっ、もふっ」


 リゼラは周囲のことを気にするでもなく、貪るように肉を喰らっていく。舌先を火傷しそうになりながら、自分の顔ほどもある肉に押し潰されそうになりながらも、喰らっていく。

 騎士達はそんな少女の無邪気な姿に微笑み、シャルナやルヴィリアもこの現状に苦笑しながら肉を食み、フォール自身とていつも通りの無表情でエールを仰ぎ飲んでいた。

 ――――確かに、彼等は敵同士だ。

 理由は解らぬが騎士達はこれから彼等を捕縛するだろう。

 だが良いではないか。今この時だけは赦されても良いではないか。

 美味いものは皆で分け合い、食せば良い。そう、今この瞬間だけは敵も味方もなくこの肉を味わおうではないか。

 楽しいことは皆で分け合い楽しみ合うという、美しい精神と共にーーー……。

 まぁこの勇者にそんな精神はないんですけども。


「「「「へぶぅううううーーーーーーーーーーッッ!!」」」」


 噴出と共に突然の死。

 騎士達は乾杯の声で仰ぎ飲んだエールを口にした瞬間、その場へと一斉に昏倒した。


「え、ちょ、はっ!?」


「敵から差し出されたモノを口にするとは何たる愚行。……痺れキノコの粉末だ。これで数刻は動けまい」


「き、騎士達のエールに仕込んだのか……? いつの間にっ……!」


「当然だ。抜け目などあるものか」


 フォール自身、どころかシャルナもエールを飲んでいる辺り、どうやらエール本体ではなく器に毒を仕込んで置いたらしい。

 全く、何と油断ならない男か。今もこうして平然と肉を焼いている辺り全て予想通りだったのだろう、とシャルナは静かに息付いた。

 『コイツにだけは毒を持たせるな』。リゼラが言っていたあの言葉を、またしても真正面から突き付けられた気分ーーー……。


「ルヴィリアアアアアアアアアアアアアアアーーーッ!!」


「しび、しびび、しびぃっ……」


「……間違えた」


「抜け目あるじゃないか!!」


「だからコイツに毒だけは持たせるなと言ったじゃないか妾ぁ!!」


 二重の意味で不幸しか生まねぇ。


「しかし解らんな。何だったんだコイツ等は」


「リゼラちゃん、色々あったけど僕……、楽しかったよ……。あの世でまた会お……げふっ……」


「フォール! 解毒剤!! その前にまず解毒剤!!」


「む、そうだったな。ここに三つのキノコがあるだろう」


「おぉ、どれじゃ!?」


「どれだ?」


「だから毒持たせたらアカンってコイツにはぁ!!」


 三重の意味になりました。


「まぁ取り敢えず三つブチ込んでおけばどうにかなるだろう」


「ほむぐふぉあッ!!」


「さて、この騎士共だが」


「ルヴィリアの顔が緑色になりつつあるんだが!?」


「元からそういう顔色だった間違いない」


「話し合いのために問題を隠蔽する人間のクズがおるぞ」


「何の事か解らんな。……さて、少し荷物を漁らせてもらうとしよう」


 彼が取り出したのは一枚の洋紙。先ほど隊長が読み上げようと拡げていたものだ。

 そこにはつらつらと罪状の文言が掲げられると共に、一枚の似顔絵があった。

 間違いない。禍々しく、凶悪な男。真っ黒なローブやおぞましい牙、漆黒の眼という何処からどう見ても人間のモノではない、が間違いないのだ。

 その顔は、フォールのそれだったのだから。


「………………何だ、これは」


「どれどれ……、うわぁ。こりゃ酷いな」


「全くだ。見るに堪えん」


「フォールよりフォールらしぃだだだだだだだだだだだだだ!!?!?」


「余ほど肉が喰いたくないらしいな貴様」


 フォールによりリゼラの頭が圧縮プレスされる中、シャルナは落ちた洋紙を拾い上げて読んでいく。

 殺人、強盗、教唆、詐欺、誘拐等々。考えつく限りの罪状を書き殴ったような洋紙は手配書と言うより、悪口の落書きと例えた方が相応しいだろう。

 シャルナはそんな紙をくしゃりと握りつぶし、呆れるため息と共に首を振り払った。


「……大丈夫だ、私は信じているぞ。フォール」


「当然だ。俺がこんなヘマを」


「貴殿なら必ず罪を償って出て来てくれると……」


「それもう罪犯してる前提じゃねーかだだだだだ何で妾ぁああああああああ!!?!?」


 A.手頃な位置にあったから。


「……取り敢えずこの手配書があって騎士が来ている以上、帝国内部で何者かが俺を陥れようとしていることは間違いあるまい。或いはそっくりさんか」


「御主のそっくりさんとか精神衛生上ダメージしか受けんのじゃが」


「しかしもしそっくりさんが存在しているとしても、この罪状はあまりに……。むしろここまでの奴が今まで逃げ切れるとも思えない」


「シャルナの言う通りだ。だとすればこれはやはり捏造ということになるが……。ふむ、この者達は騎士は騎士でも聖堂騎士だったな?」


「あぁ、間違いないはずだ。だな? ルヴィリア」


 そこには虹色の顔をしたルヴィリアが!


「間違いないそうだ」


「ナチュラルにスルーしたの御主」


「で、あれば黒幕は聖堂教会だな。理由は解らんが俺を陥れるつもりらしい」


 ぱちん、と鉄板から脂が弾けて。


「よろしい、ならば戦争だ」


 勇者テロリスト、起動である。


「待て待て待て待て待て待て待て待て!? 危険思想過ぎるじゃろ御主!!」


「向かって来る相手に容赦するつもりはない」


「大体御主から向かってく場合の方が多いじゃねーか!!」


「し、しかしリゼラ様。帝国、延いては聖堂教会は我々魔族の敵とも呼べる存在。ここは勇者に好き勝手させた方が何かと都合が良いのでは……?」


「……シャルナ」


「は、はぁ」


「巻き込まれるの、妾達、OK?」


「…………」


「…………」


「「思い直せ勇者!!」」


「火攻めか、煽動か……、暗殺だな」


「だからもう選択肢が勇者のそれじゃねぇって!!」


「しかも今の発言で手配書の項目を七つは満たしたぞ!! 本当はこれ貴殿だろう!!」


「馬鹿を言え、俺は勇者だ」


「何と言う説得力の無さだ……!!」


「おいフォール、御主がこう、村娘を壁際に追い詰めて外道の顔でにやついてるっていう体で同じ台詞言ってみろ」


「……俺は勇者だ」


「「凄い説得力だ……」」


「…………」


 勇者とはいったい。

 ――――兎角、目的は定まった。彼等が目指す帝国は既にそこにある。

 例え如何なる障害があろうと、なればそれを取り除くのみ。彼等の道を遮れるものなど存在しないのだ。

 明日の朝日が昇れば彼等は帝国へ足を踏み入れるだろう。そしてやがては聖堂騎士達とも敵対するだろう。

 それでも彼等は止まらない。行け、勇者達よ。崇高なる使命の為に!


「ところで、どうして我々は帝国に行こうとしているのだ?」


「帝国にはスライム君人形が五種類あるんだ」


「……そうか。うん、そうだな」


「フォール! それよか肉! 肉焼け肉!! たべほーだーーーいっ!!」


「よし任せろ、死ぬほど喰わせてやる……。特性ソースもあるぞ」


「やったー!!」


「って言う……か……周り……死屍……累……々なんだけど……それはスルーなんだ……って僕は思……ゲボァッ!!」


「る、ルヴィリアアアアアーーーーーー!!」


 崇高なる使命の為に!!



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