【エピローグB】
【エピローグB】
「た、ただで良いのか?」
「当ッたり前よぉ! あんたは村の英雄さ!!」
フォール、渾身の五体投地であった。
「何してんのさフォールくぅん!?」
「スライム神に感謝を……!!」
「ウチの店と私を神様にされても困るんだけど」
――――フォールとルヴィリア。二人が訪れていたのは他でもない、当初の目的であったスライム人形が売っていた露店だった。
と言うのもフォール、レースが終わるなりまだ賞金も副賞も授与式も何もかも終わっていないのに露店に直行。スライム人形はまだあるかと問い詰めた次第である。
その結果は先程の通り、気前の良い露店の店主によって何と無料で譲り受けることができた。さしものフォールもこれにはご満悦。
ちなみに露店へ直行したため、魔王と神聖ゴリラ王国騒動をガン無視してきたのは言うまでもない。
「……しかし、悪いことをしたな。店主」
「ん? 何がだい」
「この村はレース大会が目玉だったようなものだろう。だが優勝者が出て主催者が破産、となれば今後レースが開かれる見込みはあるまい。そうなればこの村の儲けも」
「なぁーに気にしてんだ! あの家が破産したお陰で俺達の借金や雁字搦めの契約も全部チャラ! あんたのお陰で村は救われたんだよ!! 悪いことなんかあるもんか」
「……しかしだな」
「心配しなくても村はこれからもやっていけるさ。レース大会だってやろうと思えば私達だけでも開ける。……それに、知ってるかい? レースをリタイアした人に聞いたんだがね、山岳で謎の超人が出たり魔道駆輪が空を飛んだり山頂で謎の竜巻が発生したりしたらしいんだ……! きっとUMAの仕業だよ……」
「驚いたな……。そんな事があるのか」
うん多分それ大体僕達だと思うな、と。
ルヴィリアはその一言をぐっと飲み込んだ。
「なんてね。あの山は霧が深いから、きっと見間違えたんだろう。だが、これを利用すれば人寄せには充分さ。どうだい、商魂たくましいだろう?」
「UMAは……、いないのか……」
「え、ごめんいるいる。いると思うよ、うん」
「フォール君、ご主人を困らせるのはやめなさい」
勇者しょんぼり。
「ま、何はともあれそういうワケさ。気にすることはないし、むしろその逆だ。君達は胸を張るべきだ」
「貧乳おっぱいの女の子こそ胸を張るべきだと思うんだ僕」
「すまない店主、黙らせる」
「わっかるぅー☆」
「店主?」
なお後ほど奥さんにブチのめされたそうです。
「まぁ、それはそうと……。実はこの後、村でパーティーを行うんだ。君達が主役のパーティーさ」
「え、マジで!」
「フフ、そりゃもう豪勢なものだよ。花火だってバンバン上がるし、料理もいっぱいだ。マルカチーニョ夫人の吠え面を魚に美味い酒を飲もうじゃあないか。村の英雄に乾杯……、ってね!」
豪快に嗤う主人に連られ、ルヴィリアは微笑みを見せた。そしてフォールもまた、いつもの無表情ながらに、何処か満足げな表情を。
そんな彼等を祝うように、空高くに花火が舞い上がる。まだ日の出ている内にも関わらず高く高く、煙を開かんばかりの花火が。
「おっと、気の早い連中がもう始めやがったな! ったく、祭りは夕方からだつってんのになぁ!!」
「まぁ何処にでも気の早い人はいるものだよねぃ」
「うんうん、レーーーさんの言う通りだ!」
「レーーー……、え?」
「そら、じゃああんた達も身形を整えて街を凱旋してくると良い。皆に英雄様を見てもらわねぇとな!」
「待って。レーーーじゃない。レーーーじゃない」
「あぁ、そうさせて貰おう。……店主、スライム人形のこと、感謝する」
「なぁーに言ってんだ。こちらこそ、街の者を代表して礼を言うぜ! ……ありがとよ」
「レーーーじゃない。レーーーじゃない。ちょ、おま、聞け」
感謝の言葉を受けながら、フォールとルヴィリアは宿へと戻っていく。と言うか若干一名を引き摺りながら、戻っていく。
夜のパーティーに供えて、或いは疲れを癒そうと一眠りするために、もしかしたら何処ぞの神聖ゴリラ王国を滅ぼすために。
こうして彼等の長いレースは幕を閉じる。色々な騒動と、奇異な運命と、偶然が絡み巡った、長い長い、レースが。
ようやくーーー……、終わりの花火を上げるのであった。




