【エピローグC】
【エピローグC】
「…………あのぅ、生きてますか?」
レースも終わり、夕暮れ時。村が初優勝者誕生の歓喜に打ち震えて祭りだ祭りだの大騒ぎをしている頃。
夕日に照らされて黄金色に輝く平原で、青年は荷物片手に穴蔵に上半身を突っ込んだ男に声を掛けていた。
男はぴくりとも動かないが、たぶん死んではいないと思う。まぁ彼が死ぬ姿を予想する方が難しいのだけれど。
「……カネダは?」
青年の予想通り、男は、メタルは生きていた。
もっとも穴蔵から顔を出さないどころかやはりぴくりとも動かない辺り、相当なダメージを受けているのには違いないのだろう。
「えーっと、色々あってマルカチーニョ家が破綻したので借金が帳消しになったんです。それでお金を返す必要もなくなって大喜びしてました。借りてた金の残りで馬車を買うって言ってたから、たぶんそれかと……」
「ケッ、薄情なヤローだ……。俺を放っていきやがって……」
「い、いやぁ、村に戻るのも戻るので結構危ないと思いますよ? モーガモンキーっていう危険なモンスターがマルカチーニョ家から脱走してたんです。どうやら観客席が崩れて、その衝撃で檻が壊れちゃったらしくて……。で、その脱走したモーガモンキーはある人達の協力で殆ど捕獲できたんですが、まだ何匹かは脱走したままです」
「ケッ、猿なんか食えるか……。もっと腕の立つ奴連れてこいってんだ」
「……その格好で言われてもあまり説得力がないような」
「割と言う様になったよな、ガルス」
メタルはずぼり、と頭を穴蔵から引き抜いて。
「あ゛ー……、クソッ。ツイてるツイてると思ったらこの有り様か……。結局ツイてんのやらツイてねぇのやら……。たぶんツイてねぇな」
「まぁまぁ、生きてりゃ儲けものって言うじゃないですか。きっとツイてたんですよ」
「……ケッ」
「ほら、帰りましょうメタルさん。ツイてるとかツイてないとか……、そういうのもあると思いますけど、貴方達はそれより凄いものを持ってると思います。僕はそれを尊敬してるんです」
だから運なんてどうでも良いじゃないですか、とガルスは気恥ずかしそうに微笑んだ。
彼なりの励ましだったのだろう。謙遜する性分で、気弱な彼なりの。
メタルもそれを感じ取ったのか、それとも持ち前の剛毅さで立ち直ったのか。何処か吹っ切れたような表情で立ち上がり、衣服の土を払い除ける。
夕日の輝きを受けながら、帰るか、と一言だけ零して。
「ま、カネダの野郎は後でブッ飛ばすがな。俺のベルセルクを勝手に連れて行きやがってあの野郎」
「ベルセルクって……? アクティブミノルとオカネニナルヨだったら連れてましたけど」
「勝手に改名しやがったなあの野郎!? おいガルス、今すぐあのクソ埋めに行……く……」
「……? どうしました?」
「お前それ何持ってんの」
「バナナですが」
「バナナか……」
バナナです。
「何でだろうな、それを見ると頭痛がするんだよ」
「何ででしょうねぇ……」
バナナ恐怖症初期症状:頭痛。
「と言うか何でお前そんなの持ってんだ……?」
「まぁ、元はお供え物だったんです」
「お供え物」
「それが通貨になって」
「通貨」
「でも王国が廃止になって」
「王国」
「バナナ禁止令が下ったんです……」
「おい待てレースの裏で何があったんだ。何で目逸らす? おい、おい!」
なお『神聖ゴリラ王国滅亡秘話』が村でプチベストセラーになるのは数年後の話である。




