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最強勇者は強すぎた  作者: MTL2
決戦の騎士(前)
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【プロローグα】


【プロローグα】


「ハニー? 君は1千万ルグあったら何がしたい?」


「そうねぇ、ダーリン。私は貴方と一緒にいたいわ♡」


「……僕はそうは思わないかな」


「ひ、ひどいわ! どうしてそんな事を言うの!?」


「あぁっ、泣かないでハニー! そうじゃないんだ。もちろん君とも一緒にいたいけれど、もう一人……、ね?」


「だ、ダーリン……♡」


「フフ、二人でも三人でも良いけれど……。君の体が持つ、カナ?」


「やーん、もうっ! ダーリンのえっちー☆」


 疾駆する馬車の上。手綱を引きながら身を寄せ合い、唇と唇を合わせるカップル。

 彼等は参加者の一組だった。見ての通り優勝できるべくもないが、本気で優勝する気の恋心に浮かれたバカップルだった。

 彼氏はこのレースにある覚悟を決めていた。一晩を超えるこの過酷なレースで、彼女に結婚を申し込もう、と。

 その為の指輪は用意してきた。今日の夜、野宿する時に満点の星空を見上げながら、愛を囁こう。

 そして蕩けた彼女を抱き寄せ、この指輪を填めよう。永遠の愛を誓おう。

 あわよくばそのまま、ムフフなことをーーー……。


「除け」


 なんて邪な思いを抱く男を放り投げる、寸胴な手。

 その手は唖然とする彼女の胸座を掴み、男と共に馬車から放り投げる。カップルは共々、悲鳴を上げる間もなく近くの雑木林へと突っ込んだ。

 そして二人して何が何だか解らず、草まみれ枝まみれになって、過ぎ去る馬車の背中を見送るばかり。

 敢えて解ることと言えば、男の邪な計画が断念したことぐらいだろう。


「ちぃっ……!!」


 さて、そんな二人から馬車を奪ったのは盗賊団の兄貴分だった。

 彼の表情は焦燥と狼狽に埋め尽くされており、余裕などという文字は微塵もない。

 マルカチーニョ家を爆破できなかったからか、街中にモーガモンキーが溢れ出したからか、計画通り賞金を奪えなかったからか。

 全てだ。その全てが、彼を焦らせていた。急き立てていた。

 いや、もう一つーーー……、そんな事よりも遙かに彼を焦らせる理由が、あった。


「こんな事になるなんてな……!」


 ――――彼は全てを見ていた。

 バーゾッフとビーゾッフを追おうと人混みを掻き分ける中、全てを見ていたのだ。

 司会が滞りなく進んだこと、レースが通常通り開催されたこと、奇異な連鎖でマルカチーニョ家に特等席の残骸が流れ込んだこと。

 そしてその中で仕掛けてあった爆弾が何の間違いか残骸によりブチ抜かれた床から地下へ転がり込み、爆発が抑え込まれてしまったであろうこと。その爆発によりあの化け物どもを押し込めていた牢獄が壊れ、解き放ってしまったであろうこと。

 それらを全て、見ていたのだ。


「金庫は、何処だ!?」


 爆弾と一緒に金庫が弾かれ、土煙に混じりながら参加者達のところに飛んでいったことも、全て。


「あぁ、くそ。やばいやばい……! もし何処の誰とも解らねぇ奴等に中身を見られたら、そのまま持ち逃げされちまう! そうなったら、クソッ、もう追う手立てなんかねぇ!! 何としても、このレース中に見つけねぇとっ……!!」


 鋭く手綱を弾くと、馬は嘶きをあげてさらに速度を上げた。

 草原を駆ける蹄は土石を弾き、風をも捨て去る速さで疾駆する。幾人もの馬車を追い抜き、それでもなお加速していく。馬が潰れようと構わないと言わんばかりの速度で、まだ。

 兄貴分は参加者達から驚愕や嘲笑の視線を受けながらも、それさえ黙らせる血走った眼で全ての馬車を隈なく睨み舐る。

 ―――――何処だ。金庫は、何処の馬車に落ちた。いったい、何処に!


「……フォール君。何か落ちてきたんだけど」


「見事に頭蓋へシュートしたな。大当たりだ」


「わぁお星様くるくるしてるぅ。あれれぇ、フォール君がふたりぃ~☆」


 一方、あはあは笑ってそのまま魔道駆輪から落ちそうになるルヴィリアをフォールは掴んで引き戻す。

 そして、その頭にめり込んでいた塊も。


「あ、ありゃぁっ……!!」


 ――――まさか。遠目でよく見えなかったが、まさか。

 あの二人が持っていたのは金庫か。いや、落ちてきたとか何とか言っている事からしても、間違いない。

 奴等だ。あのやたら目付きの鋭い男と、珍妙な服装の巨乳女。あの二人が金庫を拾った奴等だ。


「見つけたぜッ!!」


 兄貴分はよりいっそう馬を駆り立てて草原を駆けていく。

 幾人も幾人も追い抜いて、目的の奴等を追い詰めるために手綱を弾かせる。

 馬が息を乱そうと、馬車の車輪が軋もうと、ただ、ただーーー……。


「……はー、凄い奴がいるモンだなぁ」


 と、そんな爆走馬車に追い越されながら、カネダ。

 彼はレース中とは思えない呑気さで、そこそこの速度を保ちながら手綱を引いていた。

 ――――頬に流れる新緑の風が心地良く、時折舞う草々が麗しい。嗚呼、このまま草原に降りたってパンを食べながら、ピクニックでも始めたい気分だ。

 まぁ、そんな事は後ろでぐーたれる男が赦さないのだろうけど。


「ンだよカネダぁテメェよォー。意気揚々と出た割にゃあ遅れてんじゃねーかよー」


「うるせぇさっきまでイビキかいてたくせに! ……まぁ、これで良いんだ。魔道駆輪は兎も角、あの馬車はダメだな。レースと言っても一晩超える大距離移動だぜ。こんなに序盤から飛ばすなんて何考えてんだ」


「つっても妨害アリ何でもアリのレースだろうが。あの馬車みてーによォ、ブッ飛ばして他の連中をブッ殺しゃァ良いだろーが」


「お前の体力は持っても馬の体力は持たないっつーの! ったく、無茶苦茶言いやがって。もしかして疫病神はお前なんじゃないだろうな……」


 カネダはガンマン帽子越しに爪先で頭を掻きむしる。

 途端、頭に鋭い痛みを覚えて指を打ち離した。嗚呼全く、何と運の悪いことか。

 まさか出発した途端に|こんな塊が飛んでくるとは《・・・・・・・・・・・・》。お陰で頭を打ってタンコブが出来てしまった。あぁ痛い。

 何でまた、こんな金庫(・・)が飛んで来たのやらーーー……。


「ったく、無事に終わるのか? このレース……」


 カネダは眼前に迫る山地を眺めながら、愚痴っぽくそう零す。

 あの山脈よりはこの平原のように穏やかなレースになってくれよ、と付け足して。

 儚き願いを晴天の空へと捧げるのであった。



読んでいただきありがとうございました。

続きます。

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