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最強勇者は強すぎた  作者: MTL2
邪龍に滅ぼされた街
13/421

【3】

【3】


「と言う訳で倒したんだが」


「待って一章たりなくない?」


 伝説の邪龍は頭を地面に埋めて直立していた。と言うか逆立ちしていた。伝説の邪龍が。ちなみに勇者は当然の如く無傷である。

 灼熱の咆吼も致死の毒爪も斬裂の大牙もお披露目する暇などなく、モノの見事に一撃だった。伝説の邪龍との歴史に一章として記された宿命の戦い、計一秒。その光景を眺めていた魔王は今一度確認する。魔族終わった。


「ふ、ふふふ……、いつか邪龍の背中に乗ってみるのが夢だった……、ふふ…………」


「今なら乗れるぞ。やろうと思えば飛ばせるが」


「…………」


ガスッガスッ。


「何をする、蹴るな」


「やかましいわこの鬼畜オブ勇者! こんなオブジェじゃなくて動く邪龍に乗りたかったの、妾は!!」


「微妙に不名誉な称号だな。……さて、貴様の要望はどうでも良いとして、どうしてこの邪龍はここにいたんだ? まさか、こんなところに出てくるような習性ではあるまい」


「……む、言われて見れば確かに。この邪龍は死の荒野の奥地にある秘境の洞窟に生息しておって、魔王城の宝物庫の鍵を守護していると伝えられているのじゃ。魔族でも迂闊に近寄れぬ聖域よ」


「そうなのか。…………いや、それは開けないんじゃないか、宝物庫」


「え、いや合い鍵なら妾と側近と各部署の部長とあと倉庫番と鍵屋のオヤジが持っておるが。あ、でもこの前一本無くしちゃったからまた側近に頼んで鍵屋に新しいの作ってもらわないと」


「……素晴らしいセキュリティだな」


 兎も角、何故かは解らないが事実として邪龍はここにいる。もっとも、その様は残念無念なものであるが。

 理由は何であれ、このまま放置するわけにもいかないだろう。荒野に逆立ちする伝説の邪龍。観光名所としては有名になりそうだが、そもそも見付かった時にとんでもない騒ぎになりそうなものだ。


「ふむ、では近くの街に事情を説明しておくとしよう。運ぶのは多少手間だが、運が良ければ剥げ落ちた鱗や欠けた角が採取できる。それを売り捌けば路銀も稼げるはずだ」


「ま、待て、魔族の誇り的なアレは……?」


「……激闘だったと語る時間ぐらいはくれてやる。その辺りは好きに考えろ」


「じゃあ妾がトドメな! 我が超天の一撃アルティメット・バーストが逃げ回る御主を庇うように一撃を放って御主が泣き喚くように妾に感謝し邪龍ニーボルトが妾の凄さに敬服し頭を垂れたけど凄すぎて気絶しちゃった感じで」


「語る時間は要らんようだな」


 勇者フォールは手間だとか言っていた割には軽々と邪龍を持ち上げ、街の方へと歩き出していく。

 流石に邪龍の重さや大きさもあって、その様は傍目に見れば巨体が轟音をあげながら地面を滑っているようにしか見えない。一種のホラーである。

 昔こんな玩具あった。あの、なんか、体の下にホイールついてるの。そう言えば邪龍タイプは高くて買って貰えなかったなと魔王リゼラ。


「ふむ、素晴らしい重量だ。……生物の重みというのは岩山や大樹とは違うものだな。この温かみというのは、フフ」


「キモいな御主。しっかしこんなの抱えて街の人間共は震え上がるんじゃないのか」


「確かにそうだな。……では魔王よ、頼みがある」


「頼み? ふんっ、どうして妾が貴様の頼みなぞ!」


「む、そうか……。今の貴様ならば魔王に見えない、ではなく、幼子らしく見えるだろうから、街の人間達も迂闊に攻撃できないはずだ。だから貴様に龍の背へ乗ってもらって、安全性をアピールしつつ運ぼうと思ったのだが……、駄目だったか」


 ぴくり、と。魔王の双角が僅かに揺れる。


「……え、マジで」


「いや、無理にとは」


「い、言っとらんじゃろ? な、い、いいのか? ホントに? 動くの?」


「動くぞ」


「お、おぉふ……。そ、そこまで言うなら仕方ないのう。乗ってやろう乗ってやろう! ほれ早く龍を置け、ほら! ふ、ふふふふふふ!! 頭、頭に乗るからのう!! 邪龍の眉間だぞ、眉間! 凄かろう!?」


「そうだな、凄いな」


「高く持ち上げろよ! めいっぱいだぞ!! どうせ御主は潰れて構わんからいっぱいいっぱいだぞ!! 空びゅーんだぞ!!」


「良いから早く乗れ。……精神まで幼稚化させた覚えはないのだが」


 その後、龍の頭によじ登ろうとしては何度も落ちる魔王に業を煮やし、彼女を放り投げたりしながらも。少し動く度に姿相応のはしゃぎ廻りを見せる彼女に何度目かも解らない呆れの息を零しながらも。周囲のモンスター達にアイツ等やべぇよやべぇよとさらに引かれながらも。

 力なく項垂れる邪龍とその上で満面の笑みを浮かべる魔王リゼラを運びながら、勇者フォールは遙か遠方の、地平の果てにある街へと向かって行くのであった。



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