【4】
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「何故だ……」
「何故だはこっちの台詞だ馬鹿者がぁッ!!」
キャンプ場で正座させられた神こと、フォール。
やるかやるか、いつやるかとは思っていたが、遂に集団洗脳で邪教団体を作りやがったコイツ。
なお邪教徒団体は先ほど現地解散させられたそうです。
「ここのところフラフラしていると思ったら変な団体に属していたとは……! と言うか創始者だったとは……!!」
「待て、何を言う。俺はただ竈の近くでスライムについて説いていたら自然と人が集まってきただけであってな」
「貴殿のスライム解説は呪詛レベルって言ってるじゃないかぁ!!」
Q,勇者の固有スキルを述べよ。
A,人心掌握と洗脳(スライム限定)。
「何故だ……。スライム神像とスライム聖歌とスライム紋章まで作ったのに……」
「貴殿はいい加減にスライムから離……、待て歌ったり絵を描いてたりしたのはそれか!?」
「そうだが……?」
「ッ……! ~~~……」
最早、シャルナにはツッコむ気力さえない。
――――嗚呼、早く帰って来てくださいリゼラ様。そしてツッコミを変わって下さいリゼラ様。
「シャルナちゃーん。それよりラドちゃんの方が容量オーバーで頭から煙りだしてるんだけど、どうしよっか」
「処理が終わるまで待ってやれ……。私もあんまり理解したくない……」
呑気に疑問符を浮かべている男を殴りたくなりつつも、シャルナは彼に件の事情を説明する。
今、検問所でリゼラが捕らわれていること。邪教徒の討伐と引き替えに彼女を返してもらうこと。その手柄を元にラドを返すこと。
この三つのことを簡単になぞった、のだが、どうにもフォールの表情は晴れているようには見えない。
相変わらずの無表情だが少しだけ、目元が歪んでいる気がして。
「……得策ではないな」
そんなシャルナの不安通りに、彼は呟いた。
「この小娘の横暴を聞くに、あまり良い扱いは受けんだろう。となればリゼラを返す理由もない。……まぁ、有り体に言えば不幸な事故となる」
「そ、そんな……」
「有り得ん話ではあるまい。温厚な取引を望むだけ無駄だ」
ちらりと視線を外せば、芝生に膝を突いたラドが物悲しそうに瞼を伏せていた。
確かに有り得ない話ではない。彼女の今までの行いからして、そうなる可能性も充分にある。
だが幾ら自業自得とは言え、余りに不憫ではないか。彼女は彼女なりに戦っていたというのに。
「……だが、案ずるな。所詮は取引内での話だ」
フォールはラドの首襟を掴むと、そのまま自身の胡座の上に乗せ置いた。
そしてしょぼくれる頭とへたりと萎びた獣耳を撫でつつ、何処か安らいだ声で語りかける。
「俺に考えがある。そう悲し気な顔をせずに、任せておけば良い」
そんな彼の言葉とナデナデに始めは怯え縮んでいたラドも、まるで実家の布団に潜ったかのようにふにゃりとした顔色になって、ごろごろと喉を鳴らし出す。
猫の獣人だけあって撫でられるのは嬉しいらしい。何とも風貌にあった可愛らしさだ。
もっとも、内年齢24歳だが。もっとも、頬を膨らませて絶賛嫉妬中の龍人魔族もいたりするが。
「……あー、フォール君? ラドちゃんに甘くない?」
「俺とて子供に正論をくれてやるほど無慈悲ではない。あと一度はこういうペットを飼ってみたいと思ってた」
「子ど……いやいや、ペットて。……あのねぇ、シャルナちゃんの前でそういう」
その時、ルヴィリアの瞳に映ったのは首輪を首に欠けながら撫でて撫でてと言わんばかりに頭を差し出すシャルナの姿だった。
流石のルヴィリアも何とも言えなかったそうです。
「さて、そういう訳だ。ここは俺の作戦でいこうと思う」
「だ、大丈夫なの? 本当にぃ?」
「何、邪教の名誉挽回だ。俺とて作戦の一つや二つ……」
「いや、成功するかどうかじゃなくて常識的かどうかなんだけど……」
「…………」
「…………」
「……………………………………問題は、ない」
「あるんだね? あるんだね!?」
「よし、では決行するとしよう」
「や、やめ、やめェーーーー!!?!?」
無論、フォールが制止を聞くはずなどなく。
彼に撫でられて蕩ける二人と、必死に止めるも儚く散りゆく一人の前で、彼は計画を開始する。
恐らく誰も無事では済まないであろう、計画をーーー……。




