【2】
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「えー……、つまり? 不当な評価で聖堂教会の幹部末席な上、雑用のような任務を受けさせられて不機嫌なところに暴徒とか邪教徒とか出現し始めてもう嫌になった、と」
「おうちかえりたいぃいああああああああああああ…………」
「うふふふラドちゃん帰るならまず僕の股間のチャイムを」
「…………」
「シャルナちゃん無言抜刀はやめてお願いだから」
外から聞こえる大罵声に大抗議。
シャルナ達はそんな一室の扉をありとあらゆる家具で塞いでおきながら、人質を取る極悪犯どころか、その人質の悩みを聞く相談員と化していた。
何処ぞの犯人と共闘してチキンレースを開幕させた勇者とは大違いだが、これにしても明らかに犯人と人質の関係ではないような気がする。気のせいだろうか。
「まぁ……、確かに聖堂教会の立場として邪教徒を捨て置けないことや、任務への不満さは解る。だが部下の運用は如何なものか。貴殿も一組織の長ならば部下の健康にも責任を持つべきだろう。もしリゼラ様がご健常ならば何と言ったことか……」
「もるすぁ」
「だってぇ、だってぇ~……」
「貴殿、見たところ猫の獣人だな? 獣人は外見と内年齢が比例しないというし、この任務に就いている以上、貴殿も責務ある大人なのだろう。ならばなおの事、部下の扱いにはだな」
「うぅ……。ぐすっ……うぇええ……」
「待ってシャルナちゃん。それは違うよ」
「何だルヴィリア。貴殿、ラドに味方するのか」
「魔族は種族で成長率や寿命は大きく変わるとされているよね。でも人間は1年で1歳、エルフは5年で1歳の歳を取ると言われてるんだ」
「……だから?」
「それに対し……! 獣人は約4ヶ月で1歳……っ! 1年で3歳っ……!! 合法っ……圧倒的合法っ……! 大人であって大人じゃない……! 圧倒的合法ロリ……!! ラドちゃんは見たところ生後8年……! つまり獣人年齢は24歳だけど、外見年齢は8歳……っ! 8歳は違法でも内面年齢が24歳だからオッケーっ……! まさに……悪魔っ……! 悪魔的発想……っ!!」
「……遺言は?」
「8才は妊娠できる。Yes合法! No違法!!」
ドグシャァッ。
「すまない、話を続けたいんだが」
「ひぃいいい……! ひぇえええ…………!!」
「ぽっぴぽー☆」
血塗れ魔族、肉塊、パッパラパ-。
常識は何処だ。
「兎も角、我々はさっさとこの先に進みたい次第だ。今は訳あって別行動中だが、仲間の一人など余りの停滞に不抜けてしまった程でな。商人達に関しても、別に味方をするわけではないが、彼等には彼等の役目というものがある。それを阻害するのは褒められたものではない」
「だって異教徒がぁあああ……」
「まーまーシャルナちゃん。ここで怒っても仕方ないでしょ? この子だって聞いてみれば不憫なものだしサ。ちょっとぐらい手伝ってあげようよ」
「……凄いな貴殿。何処で喋ってるんだ」
「肉塊でも気合いでどうにか。……よーするにアレだよね、その任務自体は兎も角、邪教徒が原因なんでしょ? 暴徒はこの検問自体が原因だし、その任務を終わらせる為にもまず邪教徒をどうにかすべきだと僕は思うよ」
「で、でも、どうにかって……」
「そこはそれ、僕達にお任せさ! 困ってる女の子は放っておけないジャン?」
「お、おまえいいやつだなぁ~……」
「フフ、惚れた? じゃあベッドに行こおっとシャルナちゃん構えるのやめてね挽肉になっちゃうからね!?」
「全く、貴殿という女は……。しかし提案自体には賛成だ。その邪教徒とやら、置いておいても良いことにはなるまい。人間というのは一カ所に集めておくと、どうしても精神的に不安定になるものだ。その邪教徒やらがよからぬ行いをしないとも限らないしな……」
「そうだね。そうと決まれば……」
ドン! ドン!! ドン!!!
肯定か、それとも反論か。彼女達の言葉に合わせるように扉から凄まじい衝突音がする。
どうやら外の騎士達が体当たりで扉を破壊する強硬手段に出たらしい。幾ら家具で蓋をしているとは言え、こうなっては破られるのは時間の問題だろう。
「よーし、それじゃあ僕達お姉さんにドンと任せなさい、ラドちゃん!」
「な、何かわりーな。カンケーねーのに……」
「何を言うか! 女の子のことは全て僕の問題だもの」
シャルナが近場の窓を割り、身を乗り出した。
そんな彼女に名を呼ばれ、ルヴィリアもまた窓に向かって走り出す。
「任せなベイビー……。世界の女の子の為に僕はいるのだから! ほら行くよ、リゼラちゃんも!!」
そして彼女は振り返ることなく小さな手を握って飛び出した。
――――その姿に迷いはない。太陽の下へ駆け出した彼女は、違いなく愛する者の為に走る戦士だった。
嗚呼、この晴れやかな空が彼女達の行く末を暗示しているかのようだ。雲だろうと鳥だろうと謎の飛行物体だろうと受け入れる青色が、例え敵対する者であろうと己の信条のために救い戦う彼女の正義を現すように。
それでいて決して変わることのない、女の子への愛という信条の太陽を現すように。
「……邪教徒、か」
三人が着地すると共に、部屋の扉は破られる。
離れた窓からでも聞こえる大声。きっと部屋の中では今頃、あっちを押しこっちを踏みの大騒ぎだろう。泣きじゃくっていたラドも慌てているに違いない。
だが、案ずることはない。必ず自分達が悩みの種を解決するのだから。
「待っててねラドちゃん。必ず僕達が邪教徒を殲滅してみせるから……!」
「え、う、うん……」
「…………うん?」
振り返り、視線を向けたその先には小さな手を握る自身の腕があった。
いやーーー……、自身に腕を握られる、ラドの姿があったと言うべきか。
「…………」
「…………」
「…………貴殿」
「間違えちゃった☆ テヘペロ♡」
シャルナ、抜刀。
今日の夕飯は挽肉ハンバーグだそうです。




