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最強勇者は強すぎた  作者: MTL2
平原の旅路
109/421

【2】


【2】


「カッシェレタス5玉は1000ルグだよ」


 店主はぶっきらぼうに、艶の良い新緑色のそれを手にするフォールへ言い放った。

 ――――彼とリゼラが訪れていたのは屋台が最も密集しているであろう、平原の中心地だった。

 人混みも歩けば肩がぶつかり、立ち止まれば足を踏まれ、文句を言おうものなら人の流れが変わる程で、流石のフォールも目を離す買い物中は人混みから隔離しなければならない程だ。

 ただ、今のように屋台の前までくれば一端は落ち着ける。それでも値段の安いところや名のある商人のところは、人混みよりもさらに高い密度を誇っていたりはするのだけれど。


「1000ルグ?」


 ――――作者から――――

 出先屋台では国内や街内などの常識はまったく通用しない。…というのは値段がすごくいいかげんなのだ。

 時期の値打ちを知らない初めての旅人はいったいいくらなのか見当もつかず、すごくカモられてしまう。

 しかし、ここの世界では、カモることは、悪いことではない。

 だまされて買ってしまったヤツがマヌケなのである!


 ここで買物の仕方を解説しよう。


 たとえば――――

 この場合、おれはお見通しだよん! …という態度をとり


「1000ルグ? カッカッカッカ、バカにしちゃいかんな貴様ァー。高い高いィーーー」


 …と大声で笑おう。

 すると


「いくらなら買うね?」


 …と客に決めさせようと探ってくる…


「1玉で250ルグにしろ」


 自分でもこんなに安くいっちゃって悪いなぁ~~というくらいの値段をいう


 ――――すると


「オッほっほっほっほっほ~っ」


 本気マジ~~?

 常識あんの~~と人を小バカにした態度で……


「そんな値で売ってたらおれの家族全員うえ死にだもんねーーーっ。ギィイイーッ」


 …と、首をカッ切るマネをしてくる

 しかしここで気負してはいけない


「では、ほかの店で買うかな」


 帰るマネをしてみよう


「OK! フレンド。おれ外国人に親切だ。1玉700ルグにするよ」


 …といってひき止めてくる


「300にしろ」


 値段交渉開始ーーーーッ


「600」

「350」

「550」

「400」

「450」

「400」

「「425」」


「425。買ったッ」


 やったーっ半額以下までまけてやったぞ。ざまーみろ。

 モーケタモーケタ!


 …………と思っていると


(いつもは5タマで150ルグで売ってるもんねーーー)

「バイバイサンキューねっ」


 と言うことになるのだ。


「よし、食材は大体手に入ったぞ。待たせたな、リゼラ」


「遅いわ阿呆! 人混みに潰されるかと思ったぞ!!」


 さて、彼が戻った場所にいたのは屋台の影で荷物を護るという名目で人混みから隔離された、汗だくなリゼラ。

 雑踏モブに大苦戦する魔王というのも如何なものか。いや、それよりも。


「射撃! くじびき!! 魚すくい!!! かーたーぬーきぃーっ!!! はーやぁーくぅーっ!!」


 遊びたい遊びたいと喚き回る魔王の方が、如何なものか。


「まぁ待て、慌てるな……。それぞれ一つずつ行けば良い。食物に比べて然ほど込んでもいないしな」


「……意外だな、御主なら何か一つぐらいにしとけとか言うと思ったのに」


「魔王リゼラ」


「な、何じゃ」


「俺もやりたい」


「お、おう」


 割と無邪気な勇者である。

 と言う訳で彼等は荷物を運びつつ、遊び屋台へと脚を向けた。

 成る程、食品系に比べて広さは全然ないが数と種類だけはあるようだ。遊んでいるのも殆どが子供で、リゼラは兎も角フォールは酷く浮いて見える。

 もっとも、彼はそんな事を気にするより、色取り取りに楽しげな屋台を見るのでいっぱいいっぱいなようだが。


「見ろ、リゼラ。射撃、射撃だ。景品があるぞ」


「御主、妾よりはしゃいでんじゃねーか。しかし景品は……、ほう、ぬいぐるみや玩具の宝石か。子供っぽいが仕方なくやってやろうでは」


「主人、二人分だ」


「はいよー」


「だから妾よりはしゃぐんじゃねぇって」


 彼等に渡されたのは猟師が用いる、重心の長いライフル銃だった。

 とは言っても子供向け。必要な部品以外は全て簡易的な軽量品に取り替えられており、リゼラでも持てるほどに軽い。

 フォールはそんな銃を構えると共に三発のゴム弾を込めながら、商品を舐め睨んでいく。欲しいもの、欲しいもの、欲しいものは、とーーー……。


「む……!」


 そして、その中にそれはあった。

 スライムを模した一人用座布団が……!


「…………」


 瞬間、辺りの空気が一変する。フォールの眼光と構え(・・)が物見から狩猟のそれへと変貌したのだ。

 天に轟き地に響き、純然たる闘志が彼の瞳に宿る。周囲の子供達は恐怖に泡を吹き、屋台の店主は絶命の予感に失禁を禁じ得なかった。否、それだけではない。子連れの老婆は魔神が目覚めたと騒ぎだし、屋台の人々は売り上げ金を持って逃げたり神に祈り出したり、客々は我先にへと馬車や荷車のある場所へと走っていく。

 その様は、まるで地獄絵図だった。


「御主って妾よか破壊神に向いてんじゃね」


「話しかけるな。気が散る」


 スライム座布団一つで大惨事な中でも彼の集中力は乱れない。

 狙う獲物はふかふかスライムくん座布団ーーー……。風向き良し、射角良し、装填良し。条件良し。これで外す理由は、ない!


「……ここだ」


 スポッコォン。


「…………」


 スポスポッコッン……ころころ……。


「……実弾をよこせ」


「落ち着け」


 祭りあるある『飛ばない弾丸』。


「店主、答えろ店主。場合によっては見捨てるぞ人類」


「人類価値大暴落し過ぎじゃろ!?」


「ひ、ひィッ! ちが、違うんです! 子供が怪我をしないように威力を弱めているだけであって、決して倒せるだけのパワーを出さずに儲けようとかは……!!」


「成る程、素晴らしい配慮だな。遺言はそれだけか」


「やめろや阿呆!! 解った、わぁーった、妾が落としてやるから! アレか、あのスライム座布団だな!?」


「斜め下のスライム指人形も欲しい……」


「我が儘言うんじゃありません頑張るわ!!」


 リゼラはズンズンと勇ましい足取りで台へと向かい、銃を掲げる。

 ――――宿敵とは言え、今は屋台のお金を出してくれている身。この手元に残った三発で見事スライム座布団と、できればスライム指人形もゲットし、この後の遊びで我が儘を言ってやろう、と。

 彼女の歩みは本気だった。例え使い慣れない武具であろうと関係ない。己の誇りを賭けた戦いが、そこにあるのだから。

 まぁ、身長が足りなくてぴょんぴょん跳ねたりよじ登ろうとして落っこちたりすることになってイマイチ決まらないという、いつも通りの展開が待っているんですけども。


「届かんのじゃが!!」


「持ち上げよう」


 だが、そこは奇しくも宿命にあり雌雄を決し続けてきた二人だ。

 持ち前の双角持ち上げとぐりぐりにより培われてきた安定感は、例え豪風吹き乱れようと揺らぐものではない。

 それは勇者と魔王、二人の宿命が信念の為に手を取り合った瞬間だった。


「くらえェいッ! 我が弾丸を!!」


 スポッ。


「ッ、やはり弾速がーーー……」


 ッコォ「フッッ!!」パヒュスッ!!


「…………えっ」


 全ては一瞬だった。

 景品を支える台座がリゼラの放った弾丸により爆ぜ飛び、全ての景品が崩れ落ちたのである。

 繰り返すが弾丸はゴム弾だし、威力は極限まで下げられている。なのに、厚板は物の見事に吹っ飛び爆ぜたのだ。

 ――――リゼラは知っている、原因を。

 やった、やりやがったこの馬鹿。一瞬、僅かに軌道が落ちた瞬間に、弾丸へ息を吹きかけた(・・・・・・・)のだ。


「……人間兵器か何か?」


「失敬な奴だ。それより店主、品は全て落ちたな。貰っていくぞ」


「ひ、は、はいっ……」


 スライム座布団と指人形、その他諸々の景品を抱えて去りゆく背中は、正しく狩人のそれだった。

 迷いなく、確かな意志と共に歩みゆく男の背中は、そう。


「次は、くじびきだ」


 全てを狩り尽くすーーー……、近い将来『屋台殺し』と呼ばれる男の、背中だった。


「……だから妾よりはしゃぐんじゃねぇって」


 今回一番楽しんでいるのは、間違いなくこの男である。

 なおこの後、遊び屋台全面から出禁を喰らったのは言うまでもない。

 


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