【5(2/3)】
――――勇者、勇ましき者よ。聖なる女神より加護を与えられ賜うし者よ。
それは平穏の旅路です。何処までも拡がる広大な道を行くがよろしい。
試練は、今はありません。けれどこれも一つの道なのです。壁や坂道がなくとも、それもまた道なのです。
貴方はその道で何を見つけるのでしょうか。何処までも続く、その真っ直ぐな道でーーー……。
これは、永きに渡る歴史の中で、雌雄を決し続けてきた勇者と魔王。
奇異なる運命から行動を共にすることになった、そんな彼等のーーー……。
「スライムぅ~ふふーん~♪」
ズンチャッチャ↑
「…………」
「スライっ……スラ……ふっふ~♪ スラ……ふ~ん♪ ふふふ~ん♪」
ズンズン↓
「…………」
「スライムがぁ~♪ ……スラっ……ふ、ふふ~ん? スライムぅ~♪」
テッテレッテー↑↑
「…………」
「スライムぅ~♪」
デデドン↓
「御主の鼻歌クッソむかつくんじゃが」
「スライムゥ~↑↑」
「おい聞け、おい」
激動の物語である!!
【5(2/3)】
「そんな、馬鹿な……」
リゼラは膝を折り、顔を覆う。
闇夜を蝕む灯火が、彼女の心さえも燃やし燻すようだった。身が焼け、意志が曇るようだった。
この現実を否定し続ける。嘔吐し、然れど事実という反芻に苛まれ、ただただ苦悶する。
嗚呼、どうか夢であってくれ。悪い冗談であってくれ。然もなければこんな事が有り得て良いものか。こんなことが、嗚呼。
「シャルナッ……!」
彼女は今一度、その者の名を呼んだ。
自身の手の中で息絶え、暁が如き紅色を流す、その者の名を。
もう手を伸ばすことはない、その者の名をーーー……。
「シャルナっ、シャルナぁっ……!!」
――――それは、悲劇。
起こるべくして起こってしまった、凄惨なる現実。
最早、取り返しが付くことはない、残酷な、現実なのだ。
「シャルナぁああああああああああああああああああああああああああ!!!」
彼女の慟哭は闇へと消える。
嗚呼、誰がそれを想っただろう。誰がそれを認められるだろう。
こんな現実を、いったい、誰がーーー……。




