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最強勇者は強すぎた  作者: MTL2
エルフの故郷
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【エピローグB】


【エピローグB】


「散々な目に遭った」


 全身真っ黒な、少年から男へ戻ったアフロ勇者は正座しながらそう呟いた。

 裁判官および断罪官よろしく彼の前に立ちはだかり、炎を向けるのは魔王リゼラ。もれなく処刑執行待ったなしである。


「そりゃこっちの台詞じゃボケェ!! 御主のせいで危うく大戦争じゃったわ!!」


「まぁ待て、だが結果的にはハッピーエンドということでだな」


「御主それ後方見ても同じこと言えんの?」


 対岸で巻き起こるのは爆炎爆弾爆発の雨霰。

 これだけ距離が離れていても見える辺り、相当な大惨事なのだろう。

 隠し桟橋を通って対岸まで逃げてきたのは英断だったかも知れない。


「ま、まぁまぁ、よろしいではないですか、リゼラ様。フォールの言う通り過程はどうであれ円満に落ち着いたのですから」


「こっちはとんでもねー被害者だったけどな! 散々だよ、ったく!!」


 と、魔道駆輪から治療道具を持ち出してきたシャルナと、その手伝いで道具を揃えていくリース。

 シャルナは濡れた布やポーションを染み込ませた綿を手にしながらフォールの前に膝を突き、彼の頬から煤を落としていく。

 もっとも、掠り傷ぐらいしかない辺り、流石というか、何というか。

 なおその際に例のキノコを口へ押し込もうとしていたのは見なかったことにしておこう。


「ってか、そうじゃくて! おいガキ、あんたはいい加減に女王様返せよ!! いつまでも瓶詰めにしとくわけにゃいかねぇだろ!?」


「あぁ、それもそうだな」


 ひょい、と。フォールはリースへとエルフ女神の収まった瓶を投げ渡す。

 思ったより呆気なく返されたものだから、彼女はどうにも拍子抜けした様子だった。


「元より神魚との取引の為だ。別にエルフ女王に興味が……、いや、味は気になるな」


「く、喰うのか? 喰うのか!?」


「冗談だ」


「フォール、食べるなら是非このキノコをだな!!」


「やめろ」


「と言うか御主が言うと冗談に聞こえんのじゃが……」


「何故だ」


「「「何故だって……」」」


 声を揃えて一同。

 ある日突然『エルフ女王の丸茹で~野草を添えて~』とか出してきても違和感ない辺りが勇者クオリティ。


「ともあれ……、リース。その女王を手土産に集落に戻れ。我々から取り返したと言えば……、まぁ多少扱いは改善されるだろう。後は貴様が赦すかどうかの話だがな」


「……まさか、あんた。その為に今まで女王を」


「え、あ、うむ。そうだ」


「おい絶対違うぞコイツ」


 勇者クオリティは揺るがない。


「まぁ、でも……。ゆ、るすっていうのは……、やっぱ伝統だからさ。ちゃんと話し合いたいと思う。あたしだって伊達に旅してきたわけじゃないんだ。ラヴィス様といっぱい話し合って、誰も犠牲にならない道を目指したいと思う。そりゃ予言ほどじゃないけど、予測ならあたしだってできるんだからさ!」


「あぁ、それが良い。……よく話し合うことだ」


「モチロンだ! ……で、それとさ」


 リースは女王の収まった瓶を抱えながら、リゼラの前に跪いた。

 その瞳には恐れや畏怖があるわけではない。ただ、友を見るべき、眼で。


「あんたが友って言ってくれた時、嬉しかったよ。リゼラ。魔王だったのは吃驚だけど……、それでもあんたの言ってくれた事は変わらない。私達は友達だ」


「……うむ、そうじゃな。リースよ、変わらぬというのなら御主の心意気もそうじゃ! アホな差別に負けるでないぞ、御主には仲間がおるでな!!」


 二人は互いに腕を組み合わせ、にかっと笑い合う。

 フォールはその様子を眺めながら、何処か物知り顔だった。

 と、そんな彼女達の感情を押しのけるように、物知り顔を解いた彼は、しかしだな、と呟いて。


「神魚は見てみたかった……。今からでも呼び出そうか」


「どんだけ見たいんじゃ御主……。もう大円満で済みそうなんじゃから掘り起こすではないわ」


「うむ、だが……。リース、話だけでも良いから聞かせてくれないか? 神魚とはどんな魚なのだ?」


「いや……、あたしも詳しく知ってるわけじゃないけどさ。確か湖の側で神魚様おいで下さい、贄を御捧げしますとか何とか言うと、湖が光るんだっけか。そんでこう、ぱぁーっと……、神魚様が出るとか何とか……」


「ほう、そういうものか」


「でもなぁ、あたしだって女王様からぽろっと聞いただけでなぁ」


 うんうん首を捻りながら悩むリースと、その話に感心するフォール、だったが。

 ふと、後ろからリゼラに肩を叩かれる。何だ、と振り返った彼の目に映ったのは、煌々と輝くリゼラとシャルナの腹だった。

 いや、自分の、どころかリースまで、煌々と。


「……なぁ、御主。魚の活け作り、やったよな」


「…………作ったな」


「リースにも干し魚、喰わせたよな……」


「…………喰わせたな」


「アレ、何の魚……?」


「…………」


 皆が静かに視線を逸らす。そう、自分達は何も見なかった。

 こうして、エルフ達を巻き込んだ騒動は幕を降ろす。何一つ解決していないような気もするが、幕を降ろす。幕の向こう側で役者達の腹が光っているような気もするが、幕を降ろす。

 ――――釣った魚は食べられるか、食べて良いものかどうかよく調べてから食べましょう。これ大事。



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