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最強勇者は強すぎた  作者: MTL2
エルフの故郷
101/421

【8】


【8】


「今年の神事も、滞りなく」


 それは百年前の一幕。

 未だ若々しさが残り、目付きも穏やかだった一人のエルフは女王の前に跪いていた。誉れ高き従属者としての報告の任だった。

 しかし彼の表情には従事の礼節や王への忠節たるものはなく、どころか憎悪や憤怒の色さえ見て取れる。

 有り体に述べて、不服だった。男はそれを認めることができなかった。だから今も女王の御前であると言うのに、従者たり得ぬ表情を浮かべているのだ。

 あの有様を見たからこそ、彼は。


「……思うところがありますか、ラヴィス」


「いえ……、そんな」


「誤魔化すことはありません。私も神事について疑問を持っています」


「女王様、滅多なことを仰るものではありません。あれは先代から受け継ぎ、延いては先祖代々続けられてきた……!」


「伝統と悪習は違うのですよ、ラヴィス」


 女王は依然として、瞳を伏せたままそう呟いた。

 だがその長く儚げな睫毛には、涙が伝う。彼女が心を痛めている事は最早、確認するまでもないことだった。


「……廃すべきだと、私はそう思っています」


「女王!!」


「ラヴィス。我々は胸を張れますか。同胞の骸の上に立つこの命に、立ち向かえる困難から逃げ怯える日々に、胸を張れますか」


 脆く、然れど力強く。彼女の言葉にラヴィスは跪いたまま項垂れた。

 己の無念を喰いながら、己の浅はかさを喰いながら、彼女の苦しみの呻きに歯牙を食い縛りながら。


「……張れ、ません」


「えぇ、私もそうです。ですからこそ、我々は変わらなければならない。我々には未来がある。未来は与えられるものではなく、つかみ取るものなのだから」


 いつ、どれだけ、どれほどーーー……。膨大な時間を要すかは解らない。

 それでも、と女王は述べた。確固たる意志と共に、宣言した。


「変えましょう。ラヴィス。我々でエルフを変えるのです。永劫の時があるのなら、それに見合った行動をすべきです」


「しかし、女王! 先代による魔族との交渉決裂による報復も危ぶまれる中で、そんな危険な事は……っ。近頃は辺りに魔族の影もある! 危険過ぎます!!」


「それでも、です。ラヴィス……。できないとやらないでは天地ほどの差があるのですから」


「……女、王。私は」


 彼は再び歯牙を喰い締めた。己の唇を食い裂き、雪地のような白肌に鮮血を零すほど。

 ――――それは、過去の一幕。エルフにとっても永く古い過去の、一幕。

 ただ二人しか知り得ることのない、過去のーーー……。



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