表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最強勇者は強すぎた  作者: MTL2
決戦! 魔王城!!
10/421

【エピローグ】

【エピローグ】


「保険だ」


 瓦礫に腰掛ける勇者と、その前で正座する少女と女、もとい、魔王リゼラとその側近。

 実にデジャヴ感あるその光景の中、勇者はその一言を言い放った。


「何処まで弱体化するか解らなかったのでな。途端に殺されるわけにもいかないから魔王を巻き込ませてもらった」


「……巻き込ませてって、どういう事だ御主」


「封印に乗じて貴様の魔力を吸い取った、という事だ。貴様の魔力の大半は今もなお俺の中にある。……もっとも、吸い取った結果そうなったのは少し予想外であったが」


 そうなった、と視線を送るのは魔王リゼラ。

 だぼだぼの衣類を被るようにして来ている姿は、正しく幼女が如く。


「あ、あの時、私に封印しろと命令したのはその為にっ……! で、ですがそもそも無理に決まってます! そんな、封印に巻き込むなどできるはずっ……!」


「そーだそーだ! どうするのだコレ!? どうすれば妾は元に戻れるのだ!?」


「簡単だ。我が身を完全に封じ切れば良い。今、俺は魔王の魔力を抑え付けているから、その抑え付ける力がなくなれば自然と魔王の体に魔力が戻る。であればその身と魔力も段々と元の姿に戻っていくであろうよ」


「封じきるとはどういう事だ? またあの秘宝を使えば良いと言うのか!」


「いや、あの秘宝は一度使ってしまった。再び使えるようになるまで、幾千年かかるという話だ」


「な、ならばどうするつもりですか!? まさか幾千年生きるつもりですか! 本当に人間ですか!?」


「そうまくし立てるな、心配せずとも俺は人間だ。あと幾千年を生きる人間はいない」


「「えぇっ……!?」」


「何処に驚いた?」


「「人間……!?」」


「貴様等。……ともあれ、案ずることはあるまい。秘宝は残り四つあるそうだしな」


「え、何それ初耳」


「私も初めて聞きました」


「杜撰すぎないか魔族の管理体制」


 形骸化した歴史が悪いだとか何だとか。

 兎も角、フォールが言うには女神曰く、この世には五つの秘宝が存在するらしい。

 その内の一つが先ほど使った壺で、他の四つはこれにこそ及ばないが、この壺と同じく力を封印することができるそうだ。

 それを守護するのは東西南北の四極地を支配する魔族四天王達。形骸化した歴史の中でも廃れることのなかった、古来より受け継がれる魔族達の守護神が護りしものなのだ、と。


「即ち、俺達は世界を旅し……、この魔王城から東、南、西、北の順に四天王を打倒。段々とこの力を封じて、最後には俺の故郷であり、俺が最も愛するブルースライムのいる地、北の『始まりの街』を目指すことになる」


 無論、道中で様々なスライムを愛でることになるが、と付け加えて。

 要するに勇者の目的は最初から最後までただ一つ。スライムをぷにぷにすることなのだ。

 その為には勇者の責務とか女神の加護とか魔王と勇者の因縁とか、そんなのはどうでも良い。

 スライムぷにぷに。スライムぷにぷにできれば何でも良い。例え世界が滅んだって構わない。

 たった、それだけ。唖然とする魔王リゼラと側近を前に、勇者は堂々と、眉根一つ動かさない平然とした表情で、一切の迷いなくそう言い放った。


「……そ、そうか。が、頑張れば良いのではないか。うん」


「そ、そうですね、ははは……」


「だから話を聞かない奴等だな。俺『達』と言ったのだぞ」


 嫌な、予感。


「旅は魔王にも同行して貰う。保険を手放す理由はないのでな」


 的中。


「ふ、巫山戯るなふざけるなフザケるなっ! 妾が、この誇り高き魔王である妾が御主なぞと旅じゃと!? スライム観光旅行じゃと!? するわけなかろう、そんなもんっ!!」


「しなければ貴様は一生そのままだ。いや、弱体化が済めば元の姿には戻れるだろうな。……ただし、各地の魔族施設と四天王達の壊滅と引き替えだが」


「こ、この外道ォ~~~……!!」


「外道ではない、素直なだけだ。俺はただ人生を愛するもの(スライム)に捧げたいに過ぎん。愛するものの為に生きずして何が人生か」


「ま、魔王様ヤバいですよコイツ。たぶん何言っても聞きません」


「知っとるわそんなこと! ……いやだが待て、だったらこの城はどうする!? 今はまだ大丈夫だが、明日の朝になれば門番やメイド達が騒ぎに駆け付けてこよう! そして魔王がいなくなったと知れば魔族だけでなく、モンスターまでもが大変な騒ぎを起こす!! 貴様の旅路などに構う暇もないぞ!!」


「……今はいないのか?」


「ウチは八時出城の五時退城、残業なしボーナスあり、有休消化は義務で無断残業は罰則、第三金曜日は参加費無料で参加自由の飲み会! 毎年2回の紅葉&キノコ狩りと豪華景品ビンゴ大会のイベント込みなホワイトワークを売りにしておる! 舐めるなよ!!」


「そして年三回の賞与で給料アップもありです! 福祉厚生も充実!!」


「……素晴らしい企業だな」


「「魔王城だ!!!」」


「魔王城か」


 あぁ、だから城内に他の魔族がいなくなったのか、と納得する勇者。

 だが、魔王リゼラはそんな呑気な男に構うどころではなかった。

 事実、魔王がいなくなったなんて事になれば各地の魔族やモンスターは大騒ぎだろう。当然、四天王達も動き出す。そうなれば彼の求める秘宝だけでなく、様々な警備が強固となるはずだ。もし秘宝を求めてるなんて知られたら、フォールが見つけられないような場所に隠される可能性もある。


「……ぬぅ」


 単純だが、抜群。少なくともこんな頭の芯からトチ狂ってネジを三回転ぐらいさせて吹っ飛んだような勇者の目的が果たされることはない。

 それは良い。それは良いが、逆に言えば、そうなるとこの男が何をするか解ったものではないということ。もし見境無く暴れられたら、なんて想像もしたくない。

 そうなればやはり、この男の脅迫通り付いて行って身近で監視するのが打倒になる。


「う、ぅうう~ん……」


 いや、そうは言っても割とマジで付いて行きたくない。こんなのと一緒にいるのも嫌だが、何より命が幾つあっても足りない。弱体化するなんて言っているけれど、本当に弱体化するかどうかも怪しいものだ。彼方で土煙を濛々と立ち篭めさせる山脈がそれを語っている。今年の紅葉&キノコ狩りは中止だなこれ。海開きにするか。いやでも妾泳げないし。

 それはそうと、この男、弱体化したらどうなるか解って言っているのだろうか。その瞬間に後ろからドスリなんて考えたりーーー……。


「……スっライムぷっにぷにでっきるかな♪」


 考えてない。この男マジでスライムぷにぷにすることしか考えてない。


「まぁ、しかし何だ。俺は弱体化までの保険が欲しいだけだから、別に効果があれば誰でも構わん。何ならそこの側近でも良いが」


「……は? はっ! 馬鹿め、そんな戯れ言に乗ると思うか!? 側近は幼き頃より妾と共に過ごし、この鈍りきった魔族を叩き直すべく歩んできた最高の部下にして盟友よ!」


「……見捨てまくられていたような」


「違うもん!! だから、貴様の見え透いた唆しで、我等の友情に亀裂が入るなど有り得るはずがないのだ! 解ったか愚かで浅ましい人間め!!」


 魔王の側にスッと差し出される一枚の紙。

 そこに並ぶ『辞表』の文字。


「田舎でミカン作って暮らします」


「おい勇者、コイツ妾より役立つし連れて行ったらどうだ」


「裏切るんですか魔王様ァアアアアアアアアアアアアッッッ!!」


「やかましいわ先に裏切っといて御主ィァアアアアアアアアアッッッ!!!」


 双角掴み股座蹴飛ばし。何ともまぁ浅ましい争いに勇者は目を細めてこの日何度目かも解らないため息をついた。

 けれど、その後はいつもとが違う微笑み。これから始まるであろう旅路に思いを馳せるが故の、何処か安らいだ微笑みがあった。

 世界各地のスライムが自分を待っている。あの日のような悲劇を繰り返さず、彼等を思う存分ぷにぷにできる。

 嗚呼、今日の月は何と美しいのだろう。雲一つない(・・・・・)空など、まるで自身の旅出を祝福してくれているようではないか。


「……スライム、ぷにぷに」


「覚悟しろ側近ン! そこらの魔貴族に御主がお漏らし癖があると言いふらしてやるからなぁ!!」


「は、ちょ、違いますこれは汗です! そうでなければ愛液です!!」


「もっと酷くなってるけど御主それで良いのか!?」


 残骸等しき魔王城に響く喧騒。それが夜天の元で止むことはなく、ただ喚き立ちばかりが空へと昇っていったーーー……。



 ――――これは、そう。とある物語。

 最強すぎるが為にスライムをぷにぷにできず、挙げ句に自身を弱体化させることで解決させようとした勇者と。

 そんなトチ狂った勇者に巻き込まれることとなる不幸な魔王のーーー……、物語。



読んでいただきありがとうございました

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ