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他称不幸少年

作者: 木場アサト

 物心ついたときから、周囲の人達から「可哀想」と言われてきた。


 幼くして事故で両親をなくして可哀想。

 顔に傷が残ってしまって可哀想。

 生き残った妹さんと一緒に引き取られた先で虐待されていて可哀想。

 その妹さんが事故のせいで足に障害を負ってしまっていて可哀想。

 学校でも顔の傷のせいで遠巻きにされていて可哀想。


 うるさい黙れと言いたい。そんなに何度も何度も同じことを繰り返して言うな、馬鹿らしい。

 俺のことを何一つ分かっていないくせに、知ったように言わないでほしい。お前らに俺の気持ちが分かるはずがないし、分かってほしいとも思っていない。放っておいてくれ。


 俺は高校生になった。昔よりは周囲に受け入れられているように思う。こんな傷のことを気にする馬鹿なやつも大人になったということだろう。それでもどこかよそよそしいのは事実だが。


 そんな高校二年の春、転校生がやって来た。


「はじめまして、桜井月姫かぐやです。前の学校では『姫』って呼ばれてました。よろしくね!」


 DQNネームかよ。「かぐや」? 月の姫で「かぐや」? 馬鹿じゃねえの? んなもん読めねえよ! つか普通は読まねえよ!

 あと「『姫』って呼ばれてました!」じゃねーよ。呼べってか? そう呼べってことか? 呼ぶわけねーだろ! 頭の中お花畑か!

 関わりたくない。しかし無情なことに、隣の席になってしまった。


「よろしくね、義孝くん!」


 席に座るやいなや、そう笑いかけてきた。顔立ちは整っているため可愛らしいものではあるが、いかんせんつっこまずにはいられない部分がある。

 俺、名乗ってないよね? なんで名前知ってんの?


「……俺、名乗ったっけ? そんな記憶ないんだけど。初対面だよね?」

「あれ、そうだっけ? 気のせいじゃないかなっ?」


 んなわけあるか。出会って一分だというのに、俺がいつ名乗ったというんだ。

 できるだけ関わらずに過ごそう。席替えまでの我慢だ。……そう思ったというのに。


「ねえねえ、教科書見せて!」

「……どうぞ」


「ねえねえ、ここ教えて!」

「……他の人に聞いて」


「ねえねえ、お弁当一緒に食べよ!」

「俺、学食だから」


「ねえねえ、学校案内してよ!」

「時間ない」


「ねえねえ、部活見学に付き合ってよ!」

「無理」


「ねえねえ、一緒に帰ろうよ!」


 ブチッと音がした気がする。一週間ほど我慢したが、もう限界だ。


「……うるっさいっ! なんなんだ、お前! なんで俺に付きまとうんだ! 放っておいてくれよ! 目障りだ、失せろ!」


 言った、言ってやったぞ。これでもう俺に構わないはず……!


「義孝くん……大丈夫。怖がらないでいいんだよ」


 ……こいつは何を言っているんだ? 話が通じない。宇宙人なのか?


「今まで、その顔の傷のこととか、妹さんのこととか、家のことで色々あったんだよね。そのことで心が頑なになっちゃったんだよね。でも、怖がらないで。私は義孝くんの味方だよ!」


 え、なにこいつ。怖い。傷のことはともかく、なんで妹のこととか知ってるんだよ。俺のプライバシーどうなってるんだよ。


「今まで不幸だった分、これから私と一緒に幸せになろうよ!」

「……はぁ? お前、なに言ってんの?」


 意味が分からない。こいつ、本当に同じ人間なのか?

 というか、そもそもだ。


「俺、別に不幸じゃねえから。なに勘違いしちゃってんの?」


 俺が不幸だとしたら、それはお前が付きまとってくるせいだし。


「強がらなくてもいいんだよ? 私はちゃんと義孝くんのこと分かってるから!」

「だから、それが勘違いだって言ってるんだよ。俺のことを理解してるとかなんとか、気持ち悪いんだよ」


 そう言うと、きょとんとした顔で何かを呟いている。断片的に聞こえてくるそれも、全く理解できない。


「そんなはず……原作だとこれで……なんで……私がヒロインで、義孝くんはヒーローなのに……」


 妄想癖があるのか? それで何故かは知らないが巻き込まれてしまったと、そういうことなのか?


「お前さ、ここを漫画かなにかだとか思ってんの? 原作だとかヒロインだとか……妄想すんのは勝手だけど、俺を巻き込まないでくれよ」

「妄想? ……違う、違う……だってここはあの世界だもん……前世で読んだあの世界だもん……」


 前世ときたか。

 こいつはヤバイ。本気でヤバイ奴だ。


「私は、可哀想な義孝くんを幸せにしようと思って……だから神様にお願いしてこの世界に転生して……義孝くんは不幸で、そのせいでひねくれちゃったけど本当は優しい人なの……だからヒロインのかぐやにそんなこと言わない……言わないの……」


 ……怖い。怖すぎる。なぜ俺なんだ、他の奴に付きまとえばいいのに。

 俺はうつ向いて未だ何かを呟いているそいつを放ってそこから立ち去った。関わりたくない。

 大方、誰かから俺が可哀想なやつだとかなんとか聞いて、変な使命感に燃えてしまったんだとは思う。程度に差はあれど、似たようなことはこれまでも何回かあった。だが、あれはない。


「怖いわー……。俺は不幸でもなんでもないっつーのに、なんで皆そう思い込むんだろうねぇ……」


 お前らが不幸だと思うからって、俺までそうだと思うなよ。価値観を押しつけんなっての。

 親が死んだり虐待を受けたり妹が障害を負ったりするくらいで、なんでそんな風に思うんだか。


「あーあ、理解できねー」




 ……後日、例の妄想少女が全校生徒の前で「俺がいかに可哀想であるか」を訴えた事件があるのだが、それはまた別の話。


最初に書こうとしたものと大分違う。でも、まあ、よし!

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― 新着の感想 ―
[良い点] 周りからレッテルを張られるのがいかに嫌か伝わってきて面白かったです。
2014/11/25 13:02 退会済み
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