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第2章 第2節

 ソドムの住まう火山と、リヴァイアサンが住まう氷海――その中心に位置する場所に建てられた、火山区画側が火焔を思わせる曲線的な造形の、氷海区画側が氷山を思わせるような刺々しい造形と言う、氷炎国家イフディーネ王城。

 通称“氷炎城”

 見る者によっては芸術とも見られるその城を取り囲むように、貴族街、市民街、下町と言う様に区画整理された町並みを、さらに火山区域と氷海区域に分ける“境界壁”を配置し、互いの区画の行き来の準備をする施設としている。

 ――最も、それは市民の間でのみの認識であり、貴族の間ではそうではなかった。

「――レナ様達が行方不明とは、どういう事ですかな?」

「火鉱山列車の管理は焔の貴族担当だろう! 何をやっているのだ!!?」

「レナ様達ウンディス3姉妹は、イフディーネの宝ともいうべき方々だぞ! 来るべきウォーゲームで挙げるだろう功績に対する責任、どうとるつもりだ!!?」

 イフディーネ評議会。

 焔の貴族、雪の貴族の伯爵以上の当主達各10人ずつを選りすぐり、国の重要事項を取り決める為の議会。

 ――と言うのは最早建前となっており、重要事項の可決は既に雪の貴族の手の内同然であり、議会は既に焔の貴族への嫌がらせの場でしかなかった。

「よさんかバカ者ども! 評議会を何だと心得ておる!?」

 ウンディス家当主にして、かつては王国騎士団が一角“氷竜騎士団”団長として聖騎士の称号を得た英傑、アリエス・ウンディス公爵。

 フォン・エールの伝説の前ではかすむが、彼もまたウンディス家当主として“氷竜”の名を冠し、騎士団の1つを率いての数々の武勲をあげた、イフディーネの英傑に名を連ねる男。

 現在は騎士を引退し、評議会の一員として雪の貴族を取りまとめるリーダーとなり、軋轢を取り払うべく奮闘――

「――わざとらしい」

「――恩着せがましいわ、ウンディスの疫病神め」

「――そう思うなら娘ともどもに隠居しろ」

 してはいる物の、そもそもがウンディス家の台頭自体が雪の貴族の増長の原因の為、焔の貴族たちにしてみれば“うっとおしい”の一言でしかなかった。

「――いえ、火山区画はこちらの管轄。責められても致し方ありません」

「シャルル公爵!」

「ですが、元より危険な討伐任務である事はそちらも承知の上の事。それを強引に横取りしておきながら責任がこちらとは、虫が良すぎる話ではありませんか?」

 焔の貴族のリーダー格であり、かつてはウンディス家と双璧を成したイフリタ家当主シャルル・イフリタ公爵。

「レナ様は神獣リヴァイアサンより加護を授かったお方だ。言うなればイフディーネの宝、神獣ソドムに見放された者達には、その重大さがわからんか?」

「貴公らが功績をあげた訳でもあるまい? 腰巾着風情が偉そうにしないでもらうか!」

「黙れ役立たずども! 偉そうにする名はこちらのセリフだ!!」

「何だと!?」

「静粛に!!」

評議会議長であり、イフディーネ国王イグニス・テオ・イフディーネ21世。

彼の一括評議会議員たちは口をつぐんだ

「――捜索隊はどうなっておる?」

「はっ、既に選別しております故、新造列車サラマンドラ号の配備が終わり次第、出立する予定となっております」

「では、アリエス。そなたの氷竜騎士団も共に参れ」

「承知しました」

「ではこれにて、本日の議会は終了とする! ――議会において、焔と雪の軋轢は顕著に出ている、か……しかし、ウォーゲームの功績がある以上、どうしても優勢になってしまう事は否めない」

 レムレースにおいて、ウォーゲームにおける功績はどうしても無視は出来ないが故に、イフディーネの様に2体の神獣の加護を受ける国で偏れば、こうなる事はむしろ必然でもある為、議長である国王にとって悩みの種であった。

 増してレナ・ウンディスと言う、稀に見る程の加護をリヴァイアサンから受けた神童も現れた事で、その傾向は寧ろ悪化し――その影響か、焔の貴族には諦観し始めているならまだ良い方で、黒い噂が出始めた者も少なくはない。

 雪の貴族たちはそれを良い事に増長に増長を重ね、焔の貴族に対しての特権意識を隠そうともせず、その筆頭であるアリエスが良心的な意識の持ち主でなければ、どうなっていた事かもわからない。

「――ソドム様は一体どうされてしまわれたのか?」

 比率の偏った議会を取りまとめる事程、長にとって難儀な事はない――ウンディス家の台頭以降、代々議長を務める国王の最大の悩みは、一貫してこの議会だった。

「――シャルル」

「――これはこれは、アリエス殿」

「すまない。また……」

「いつもの事です、もうとうに慣れましたよ」

 アリエス・ウンディスとシャルル・イフリタ――この2人は騎士団に同期入隊し、仲間として雪と焔の垣根を意にも介さず、互いに切磋琢磨し合った仲だった。

 しかしアリエスにも劣らぬ功績をあげ、本来ならウンディス家と並び立てる程にもかかわらず、雪の貴族の気に入らないと言う理由で手柄の帳消しや横取り等、功績を上げようと蔑ろにされ続け、果ては問題点だけを指摘し糾弾された事も一度や二度ではなかった。

 更には、かつてフォンが討伐した盗賊団の襲撃――その際の、雪の貴族の無能な将の采配の所為で自身の妹を攫われ、消息がつかめなくなった事から、雪の貴族に憎悪を抱くようになり――その雪の貴族の筆頭であるアリエスに対し、頭ではわかっていても昔ほどの親愛の情を抱けなくなっていた。

「シャルル。あの事に関しては、本当に……」

「――もう昔の様な感覚で接しないでくれ。お前の好意を素直に好意と受け取れなくなった今、もう昔に戻る事は出来ん。何度も言った筈だ」

「だが、私は……」

「――お前が謝ろうと、お前を殺そうと、ジーナが戻ってくる事はない。わかっているからこそだ」

「……」


「――ふんっ、何を甘っちょろい事を」

「そもそもウンディス家の台頭さえなければ、我等がこんな肩身狭い思いをせずに済んだのだ。イフリタも情けなくなった物よ」

「放っておけ。どうせ力に怯え、敵討ちも躊躇する愚か者よ。レナ・ウンディスの首を持ちかえり、加護など雪が仕組んだ茶番と言う事を証明すれば、すぐさま雪の威光も地に堕ちる」

「――その為の計画だ。ぬかりはなかろうな?」

 ――そんなやりとりを見ながら、焔の議員達はシャルルの態度を弱腰と非難しつつ退室し……専用の会議室に閉じこもって、黒い会議を行っていた。

 “火のない所に煙は立たず”

 雪の貴族の尊大過ぎる態度に拍車がかかって以降、焔の貴族たちはウンディス家に対し復讐の機を待ち続けていた。

 ソドムの加護に期待はできない――しかし“真正面から立ち向かった所で無意味ならば”と言う、悪魔のささやきは黒い噂となり……

「――強者ウンディスを笠に着たいじ貴族めっこに、対立とは名ばかりの弾圧いじめに遭ういじめられ貴族っこの反乱、か。くだらないねえ」

「黙らんか下種が! 報酬は払っておるのだ、しっかり働いてもらうからな!!」

「――失礼いたしました」

「ここからの計画の成否は貴様にかかっておるのだ!」

「その為にわざわざ高額の前金に報酬を用意し、貴様らの乗ってきた飛空船のメンテナンス費用も全て受け持った、と言う事を理解しているのか!?」

「そう怒鳴らずとも聞こえておりますよ。ご心配なさらずとも、このオレの名にかけて必ずや遂行して見せましょう」

 此度の計画――レナ・ウンディスの抹殺と言う暴挙となった。

 その場にそぐわぬ、袖を破り取った傷だらけのジャケットを、同じく傷だらけの肉体に直接羽織り、短く刈られた茶髪にヘッドバンドをして、左腕には袖の代わりに真新しい包帯でぐるぐる巻きにし――右腕は肘から先がなく、金属の楔の様な物で生身にふたをした様な義肢をつけている男。

 賞金稼ぎヴァルガ一家頭目、バルフレイ・ヴァルガ。

 左眉から右頬まで走る一本傷の目立つ顔を一瞬しかめつつ、すぐに引き締め――目の前の雇い主、焔の貴族たちに恭しく跪く。

「――それで例の話ですが」

「例の? ――ああっ、あの暗黒街の生き残りの捜索か」

「入国審査でそれらしい男がいたという情報は入っている。後はそれを元に捜査すれば、すぐに見つかるだろうよ」

「その情報を――」

「それは今の仕事が終わってからだ」

「……承知しました」

 立ち上がり、礼をしてから退室し――気だるそうに城から出て行く。

「お帰りあんた、首尾はどうだい?」

「この国にいるのは間違いねえってよ。一先ずは仕事だ」

「へいへい――で、行先は?」

「第6火鉱山――気ぃ抜くなよ、相手は神獣の加護を受けた貴族様だ。“神殻”を使える可能性は高えぜ」

「なあアニキ」

「状況次第じゃダメだ。不自然さが出れば台無しだろうが――ベルゼブル号の発進準備は、もちっと待ってくれ」

 賞金稼ぎ一家ファミリーヴァルガ一家。

 機械都市エクスマキナの技術、飛空船ベルゼブル号を拠点に、世界を股にかける賞金稼ぎ一家である一方で、暗殺や誘拐に強奪など汚い仕事も請け負う面も持つ、狡猾な一家として知られている。

 構成は6人だけだが、どれもその筋では名の知れた賞金稼ぎとして通る実力の持ち主で、特に頭目バルフレイ・ヴァルガは筆頭貴族や近衛騎士格にも引けを取らない。

「――とはいえ、レナ・ウンディスか。やり合うのが楽しみだねえ」

「あんた、楽しむのも結構だけど、仕事と趣味を一緒にしない」

「へいへい」

「頭目、ベルゼブル発進準備完了しやした」

「よし、行くぞ――向かうは第六火鉱山。レナ・ウンディスを探し出せ」


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