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第2章 第1節

「――暑い」

 ――誰からともなく漏れた声は、その場全員の気持ちを代弁していた。

 それもその筈、場所は噴火する火山が連なり、そこから噴出し流れ出る溶岩が川となり池となり、その熱が足場から空気までも浸透し、火山灰が黒雲の様に空を舞う灼熱の地であり、火山の神獣ソドムの影響下の真っただ中。

 その灼熱の環境下は、氷海区画育ちのレナ達は勿論、火山区域下町の生活にある程度順応したコウキすらも、堪えていた。

「――えーっと、確か火鉱山には非常時に備えて、寄宿舎があった筈……あっ、あそこか」

「そこなら、一先ず休憩位はできるよね。とりあえず、行ってみようか」

 ――そんな中、火山区画育ちのユウキとユサミは、大丈夫と言えるほどではないが、それでもコウキ達5人に比べ平気な様子で、建物のある方へと歩を進める。

「――まずはそうした方がいいか。お嬢様方は?」

「――ワタクシも、異存はありません」

「……ですー」

「――はい」

「…………(コクっ)」

「――既に1人グロッキーだし、急ぐか」

 危機的な状況からの生還後の、灼熱の環境下。

 何度かのモンスター討伐に出向き、功績を上げ続けたウンディス三姉妹はともかく、荒事など経験もない侍女――エリーは、既に言葉も発せられない程疲弊していた。

 コウキは仕方ないとおんぶし、ホームから建物――その扉の所で往生しているユウキとユサミの下へと向かう。

「? どうした?」

「いや、カギがかかってて――」

「そう言えばヴォルケーノ・ビーの大量発生で、かなりの被害が出たって話だからね。ここも封鎖されてて当たり前かあ」

「どれ?」

 ユウキとユサミをどけて、コウキはドアに手をかけ――


 カチャカチャ――パキンっ! ガチャッ!


「はい、開いた」

『…………』

「ま、傭兵稼業やってりゃ、この手のスキルは自然と……」

『…………』

「――って、何だよ!? 非常事態なんだから仕方ないだろ!」

「いや、何も言ってねえけど……」

「じと目で見るなじと目で!!」

「――早く入ろっか。レナ様達もコウキの背の侍女さんも、辛そうだから」

 ぞろぞろとコウキの明けた扉から建物に入って行き、コウキも釈然としない物を感じつつ中へと入り――周囲を警戒し、カギを閉める。

「――さて、と」

「連絡ツールはないかな?」

「今はやめとけユサミ。まずは情報整理してからでないと、逆に危険だ」

「……わかった。それじゃ、責めて侍女の子だけでも休ませないと」

「エリーです。彼女にはワタクシ達がついてあげたいのですが」

「わかりました。まずは休めるところを探す事からか」

 そう言って、コウキが先行し――見取り図が表示されているのを見つけ、確認した後に、娯楽に興じる為の場所としての役割も持つ食堂へと、足を進める。

 住みこみの管理人が居るとの話があるからなのか、古めかしい様子はどこにもなく、掃除されて少し間を開けた程度の雰囲気を感じつつ、コウキは食堂の扉を開く。

「――とりあえず、ソファーに寝かせるか」

「あっ、じゃああたしが運ぶよ」

「ん。ユウキ、お前もここにいてくれ。構造の調査やるから」

「ああっ、わかった」

 ユサミに侍女エリーを渡して、コウキは施設内の調査に向かい、エリーをソファーに寝かせて5人は一先ず一息。

「…………」

「…………」

「…………あの」

「はっ、はい?」

「えっと――なんでかな? 聞きたい事なんて山ほどあったって言うのに、いざとなると言葉どころか頭から出てこない」

「――ワタクシも、です」

 そんな中で、ユウキとレナの2人――お互い、ここの所ずっと見る夢の中で戦い合っていた2人は、歯切れの悪いやりとりを繰り返していた。

 お互い夢の事が気になっており、聞きたい事は山ほどあったにも関わらず、いざとなると2人とも聞きたい事が言えないどころか、わからない状態に陥っていた。

「――それにしても、一体どういう事なのかな?」

「私達も、何が何やらさっぱり――レナお姉様が何故、ユウキさんと戦う夢を見ていたのか。寧ろ聞きたい位で」

「ですねー。きぞくならまだしもー、ユウキくんはしたまちのしみんですからねー」

 それを遠巻きに見ているユサミ、ユミ、ミーコも頭を捻りつつ、当事者に身近にいる者としての意見交換をしつつ、親睦を深めていた。

「――俺もそこが気になってんですよね」

「――貴方の御両親のどちらかが、焔の貴族の血縁と言う事は?」

「違う筈ですよ。親父がおかみさんの――フォン・エールの戦友だって話は聞いてるけど、それらしい話なんて聞いてません」

「そうですか――もしくは、火山の神獣ソドムの寵愛を受けるべき器を持っているか」

「確かに、氷海の神獣リヴァイアサンの寵愛を受けたレナ様の相手なら、とは思いますが――俺親父が騎士ではあっても、生まれも育ちも下町ですよ?」

 王国騎士は基本的に入隊に制限はないが、生まれついて強い魔力を持つ可能性が高い貴族と比較すれば、どうやろうと出世もし難く死亡率も高い。

 増して、レナの様に神獣の加護を受け生まれる等、貴族以外に発現した前例がない。

「――では一体?」

「だから会って確かめたかった――が、どうも同じだったか。ま、かのレナ・ウンディスと会話できただけ、儲けもんではあったけど」

「くすっ――」

「さて、メシでも……」


――来た


「――? 何が?」

「? どうかした、ユウキ?」

「え? いや、今誰か……」


――漸く来た――我が加護を受けるべき……


「……?」

「ユウキさん?」

「気のせい、か? ……一先ずメシ作ろう」


 ――それから数十分後

「戻ったぞー……っておいおい、のんき過ぎだろ」

「――メシでも食えば、少しは気も紛れるって思ってな。色々とあり過ぎたから気を紛らわせたかったし」

「材料どうした?」

「侍女の――エリーっつったっけ? その子が持ってたトランクから拝借した」

 そう言って、備え付けてあった皿に料理を盛り付け、人数分テーブルに並べて皆1口

「――おいしーですー」

「本当です。これなら、御屋敷のコックさんにも負けません。レナお姉さまもそう思いませんか?」

「ええ。無事帰る事が出来たなら、是非とも御屋敷のコックとして――」

「あー、お気持ちは嬉しいけど、俺は下町料理作ってる方が――」


「――やっぱり」

「? なんだよ、またアイツモテモテだな」

「あいつの料理美味しいからね。食べた女の子の従業員、皆ああなっちゃうのよ」

「――あのさ、それって」

「言わないで! …………わかってても納得できるほど美味しいから困るのよ」

 不機嫌さを醸し出しつつ、美味しそうに食べるユサミの姿は不自然その物だったが、同じく料理に舌鼓を打つコウキの目には、納得出来る美味しさを実感できたため、さして不自然には見えなかった。

 コウキは苦笑しつつ料理を口に運び――ふと、ある事を思い出す。

「――ところでユウキ、何かわかった?」

「何かって……いや、話してみてもなんであんな夢見たのか、わからずじまい」

「そっか――まあ、当然っちゃ当然だけど」

 納得する様にコウキはうんうんと頷く。

 そもそも、会った事のない相手と戦っている夢を、毎日のように鮮明に見続けている――そんな話が相手を探してあった程度で、何かわかる可能性等低い。

「――まあその話は一先ず置いとこう。それで、これからどうするかについてだけど」

「長旅は、流石に無理です。ワタクシ達はともかく、エリーにこの高熱はあまりにも――」

「心配しなくても、歩いて戻るには距離があり過ぎるし、装備も蓄えも足りない。現実的とは言えないな」

「なら確認に誰かよこしたりしないかな? ここが火山区画で、都市部からかなり離れていても、流石に列車自体は国の所有物だから事故は隠せない筈」

「そうですね――ですがワタクシ達には、相手を特定できる証拠がある訳ではありません。騎士達や傭兵の暴走も、既に死亡している以上は」

「あるいはそれが目的か……てか気になってたんだが、火山の神獣ソドムは一体どうしちまったんだ? 火山と氷海の均衡あってのイフディーネだと思ったんだが」

「それはわかりません――焔の貴族はワタクシ達雪の貴族に閉鎖的ですから」

 実際、イフディーネは火山と氷海の境目にあり、それに合わせる様に焔と雪と、貴族の力関係も均等になる様に元々は配慮はされていたが、近年は完全にそれらは形骸化し焔より雪の発言力の方が強くなっていた。

「……あるいは」

「? どした?」

「いや――なんでもない。それより色々あり過ぎて疲れるたろ? 今日はもう寝よう」

「ああっ、そうだ――」


――待ち……びた。


「――!?」

「? どうしたユウキ?」

「また? ――何だよ一体?」


――今……こう――よ……く、我が……いを


「ユウキ?」

「――いや、なんでもないよユサミ。思ったより疲れてるみたいで」

「……なら横になってろ――やっぱり、ユウキは」

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