第1章 第4節
そんなにぎやかな食事を終え、子供は既に眠る時分に。
2人部屋2つ、3人部屋1つしか借りれなかった為、2人部屋は夫婦という名目でユウキとレナ、兄妹という名目でコウキとミーコが泊まり、3人部屋ではユサミにユミ、エリーが思い思いに過ごしていた。
その内コウキとミーコは、コウキが調達した果実酒を部屋に持ち込み、大っぴらに飲む事が出来ないミーコと2人で、森の夜景を眺めながら乾杯に勤しんでいた。
「――これがレナやユサミだったらなあ」
「ミーちゃんじかくあるからいいですけどー、あからさまだとさすがにきずつくですー。それにー、レナちゃんおさけのめないですよー」
「ユウキと言いユサミと言い、レナと言い――か。シチュエーションは完壁なのに、どうにも違和感が拭えない」
そう言ってコウキは、周囲を見回す。
今いる場所は室内で、備え付けのテーブルを2人で向かい合う様に座っている。
ふと横を見れば大きめの窓があり、そこから見える光景は初めて訪れた者達を魅了してやまない光景――夜光樹と呼ばれる、月の光を浴びる事で葉、果実が柔らかな光を発する樹木を街路樹に据え、所々に備えられた花壇には月の光を反射する月鏡花が織りなす、幻想的な光景となった森の夜景。
――見た目が完全に子供なミーコと並んで見るには、惜しさを隠せなかった
「……せめてユミかエリーが飲めたらなあ」
「ユミちゃんまだのめませんしー、エリーちゃんはおさけきらいなんですよー。じゃあミーちゃんにー、ゆめをみせてほしーですー」
「……ん、了解。旅の傭兵なんで、配慮に欠ける部分はある事をお許しくださいね」
そう言ってグラスに酒を注ぎ、2人はグラスを合わせて乾杯し一口。
「――美味いな。ジュースの様な飲みやすさなのに、重みがあると言うか」
「ですねー。マグマビールにー、クリスタルブランデーとはー、ちがうかんじがまたいいですー」
「だよなー。ミーコって結構酒飲む方?」
「ですよー。イフディーネにかえったらー、ミーちゃんのとっておきのクリスタルブランデーをいっしょにのむですー」
――つくづく、見た目に寄らない部分があり過ぎる人だな。
とコウキは思いつつ、つまみのドライフルーツを1つ口に放り込み、グラスを煽り空ける、瓶に手を伸ばし――
「はいはーい。びしょうじょがー、おしゃくしてあげますよー」
「ははっ。お願いいたします、お嬢さん」
グラスにゆっくりと果実酒を注ぎ、コウキもビンを手にミーコのグラスに注いでやる。
「――楽しいな。酒飲めない奴ばっかで、子供と飲んでる感が拭えないの差し引いても」
「ですねー。おかねによゆうがあったらー、またこういうひとときをー、すごすのもわるくないですねー」
「同感。おっ、はいどうぞ」
話は弾み、グラスを空けつつ満たし、2人の酒盛りは楽しく進んでいく――と思われた。
「……ところでー、ちょっときになってたんですがー」
「ん?」
「コウキくんはー、どうしてユウキくんたちにー、ついてってるですかー?」
そう問われ、コウキは一瞬言葉に詰まり――その一瞬を、ミーコは見逃さなかった。
「そんなん、一緒に旅することにした仲間だからですけど?」
「それだけじゃないでしょー?」
「ただ単に、イフディーネで生き倒れになってる所助けられたから。あれは流石にヤバかったからなあ……」
「――それだけじゃーないでしょー?」
「……さてね」
ビンを傾け、グラスに酒が注がれる音が2人の耳には、響く様に伝わってくる。
「――うらやましいのかもしれませんねー」
「……自分が何言ってるのか、わかってるのか?」
「――わかってますよー。だけどー、それじゃたりない……そうおもわずにはー、いられないことだってあるんですよー」
「そっか――オレには分からないな」
「――わからない、でいいんですよー。ミーちゃんはミーちゃん、コウキくんはコウキくんですからねー」
コウキが手に持つビンを、ミーコのグラスに向けて傾ける。
「――でー、コウキくんはこれからどうするきなんですかー?」
「まずはユウキ自身の決意と決起が重要だからな。そう言う意味じゃ、グランドガーデンに来たのは正解だったかもな――レナと同室にしたの、そう言う狙いもあるだろ?」
「まあそーですねー。いまユウキくんのそばにいてあげるべきはー、レナちゃんですー」
「……同じ境遇、とは言い難い部分も多いけどな。けど夫婦ってのはやり過ぎじゃ?」
――一方その頃。
「……う~ん」
「……えっと、その――ふっ、ふつつか者ですが、よろしくお願いします」
「いやいやいや、フリだから、フリ。フリね?」
「……申し訳ありません。ワタクシも、こういった経験はなくて」
「いや、ない方がむしろ普通だと思う」
2人してそれどころじゃなかった。
「――っと、そうだそうだ。まずは話だ」
「――そっ、そう、ですね。えーっと……まずは、ユウキさんの事を教えてもらえませんか?」
「俺? そうだな……」
と、咄嗟に思いだした様な要素で、ようやく落ち着きを取り戻した2人は、備え付けのテーブルについて飲み物を手に向かい合う。
「俺は、親はまだ子供の頃に死んじまって、それでおかみさん――フォン・エールに引き取られて、ユサミとは兄妹同然に育ったんだ」
「そうなんですか」
「……と言っても、酒場や宿屋の掃除したりとか、仕事もしなきゃいけなかったけどね。酒場兼宿屋エールっつっても、下町は子供だろうと人の手が欲しい位だから」
「子供であろうと、大変だと言うのは貴族も市民も関係ないのですね」
そうしみじみ呟くレナに、ユウキは疑問符を浮かべ――すぐに消した。
貴族の暮らし等、見た事もなければ聞いた事もない以上、自分の知らない貴族だけのくろうなんて事等山ほど
「へえ――そう言うレナは、どんなだった?」
「そうですね……礼儀作法に始まり、魔法にポーション学といった学術に、武術など」
「……聞いてて頭痛くなってきた」
「くすっ」
「あっ、酷いな――まあ否定はしないけど」
「否定してください。これからはしっかりと勉強をしなくてはならないのですから」
「うえっ……」
基本的にユウキは勉強嫌いの為、苦笑を隠せなかった。
「――まあそれより、明日からの旅路の事考えようよ」
「はぐらかそうとしても、そうはいきませんからね――と言いたいところですが、一先ずはよしとしておきます。世界樹の祠、ですか?」
「はい、意外と厳しいお嬢様の様だと思いきや、一応は話のわかる様でなにより――うん」
「強力な神殻能力者は、必ず後世に名を残している物――それがレムレースにおける、歴史の根本ですので。例えばイフディーネにおいても、ワタクシ達の御先祖様に当たる、サティ・ウンディス様、イフリタ家のアスベル・イフリタ様の功績等は――」
「え? あれ? もしかして、お勉強になるの?」
「お静かに」
「……」
――その日、ユウキにとって眠れない夜となった
「ユウキくんとー、レナちゃんはー、いまどうすごしてるんでしょーねー?」
「さあ? あの様子じゃ、2人して眠れないとでも悶え苦しんでんじゃねーの?」
「ちがいないですねー」
「知ってて仕向けるって、アンタも意外と悪女だな」
「いえいえー、コウキくんほどじゃありませんよー」
「なんにせよ、明日が楽しみだなー」
「ですねー」