世界樹の巫女 プロローグ
絶え間なく流れる溶岩の川、熱を帯びた大地、火山灰を巻き上げ噴火する火山。
レムレースにおいて、火山の神獣ソドムと氷階の神獣リヴァイアサン、その2体の神獣の加護と恩恵を受ける氷炎国家イフディーネ。
ここはイフディーネを守護する火山の神獣ソドムの住まう、通称火山区画。
「おっ、見えて来たぞ!」
その火山区画の空を駆ける、2体の翼竜ワイバーンの1体に乗るコウキ・クオンが、並行するワイバーンにも聞こえるように叫びながら、指差した。
「――なに、あれ……緑色の、山!? すっごーい、本当に別世界みたい!」
コウキが指刺した先――それを見た所為か、快活を絵にかいた性格のユサミ・エールは好奇心の刺激度合いを表現するかのように、イフディーネ火山区画の下町で看板娘No.1の称号を欲しいままにしたその顔に、太陽の様な笑みを浮かべはしゃいでいた。
「どうやらワタクシ達の向かう先は、“神緑都市グランドガーデン”の様ですね」
こちらは、氷海区画の貴族街において誰もが1度は恋をすると評判の美貌に、ユサミを太陽とするなら月の様な静かな笑みを浮かべる、イフディーネの名門ウンディス家最強の神童にして、氷階の神獣リヴァイアサンに愛されし者、レナ・ウンディス。
「いてて……へえっ、あれが外国かあ。本当に別世界みたいだな」
その2人の挟まれる様にワイバーンにまたがる、先ほどユサミにやられたビンタ痕が主張する顔を摩りつつ、ユサミ同様に未知との出会いに高揚するユウキ・ヴォルカノ。
「で、まずはどうしようか?」
「線路探すことからだな。人が暮らす街は線路沿いに造られてるから、それが見つからない事には、オレ達の行動を始めるどころか人と会う事もまず出来ない」
「――ですねー」
コウキの腕の中で会話に割り込んだ、最も小柄で年長のミーコ・ウンディスが、間延びした口調に相応しいのんびり空気を醸し出しながら、空の旅を楽しんでいた。
「私達、火山区画側の外国に行くの、初めてです」
「そう言えば、そうでしたね」
こちらはコウキの後ろで、長女ミーコ、次女レナの2人を姉としたウンディス三姉妹の末っ子、ユミ・ウンディスが小動物チックな雰囲気を醸し出しつつ、わくわくしてると言う感じを醸し出しながら目を輝かせる。
その後ろでは、三姉妹の幼馴染兼侍女である少女、エリーがユミに同意を示しつつ、イフディーネ以外の環境に触れる事を楽しみにしている。
「はいはいそこまで、楽しむのは程ほどにな。オレ達が身分も出身もバラバラなパーティ作ってるのは、遊びに行く訳でも、観光しにいく訳でもないんだから」
「いや、わかってるけどさ――」
ユウキとユサミは、イフディーネ火山区画の下町市民で、ウンディス三姉妹とエリーは貴族街出身、コウキに至ってはイフディーネの民ですらない。
そんな彼らはイフディーネを離れ、火山の神獣ソドムに選ばれたユウキ・ヴォルカノの名を世に知らしめるべく、旅立ちを決意した者たち。
「てか今更だけど、良いのかよ?」
「本当に今更ですが、良いのです。イフディーネの特性上、ワタクシには相対すべき存在である貴方の成功を、見届ける義務があります」
「いまイフディーネにかえるほうがー、ずっときけんですよー」
「ええ。薄気味悪い権力闘争より、未知の遭遇のある異国の旅の方がよほど安全です」
「私は、お嬢様達についていきます」
「――ま、あれなら大丈夫か。さて、そろそろいいか? 今から向かう“神緑都市”についてだけど」
神緑都市グランドガーデン
中心に世界樹と称される世界一の巨大な樹木を据え、森の神獣ユグドラシルの加護の元、支配領域全体が森に包まれた――というより、森その物である自然都市。
特色はレムレース1と称される木材を伐採する為の樹林区域、木の葉や花の蜜を使用しての香水や甘味料を作る華葉区域、果物や木の実を果樹区域、等。
また森の恩恵と共に、これらを使用しての工芸品も他国からの評判が高く、態々自分の国の祭りに必要な工芸品をこの国に依頼する事もある位。
「そして、ここの民はお祭り好きでもあるから、祭りも結構頻繁に行われてるんだよ。それ目当てに観光客も多いらしいし」
「へぇっ、そうなんだ――それで、ここでどうするの?」
「だから、そこで一先ずは情報収集かな? 路銀も稼ぎたいし」
「まずは準備って事?」
「そう――後、旅の間はお嬢さん方の身分も隠さなきゃいけないしね」
「レナ達の? ――あ、そっか」
ウォーゲームで優勝候補に数えられるなら、レナは対外的にも有名人という事になる。
当然良からぬ事を考える者だって、少なくはないだろう事はユサミにも予想は出来た。
「という訳だから――おっ! あったあった」
ふとコウキが、イフディーネとグランドガーデンを走る線路を発見。
「それじゃ、ワイバーンとはあそこでお別れだな」
基本的に、モンスターは自分の済む環境以外には適応は出来ない。
だからこそ、生態系は各々独自となっていて、特殊な保存方法が必要となる。
「それじゃ、神緑都市グランドガーデンに――レッツゴー!」
『おーっ!!』
「おっ、おーっ!」
「おーっ、ですー!」
「……おーっ」
「おーっ!」
未だに、こういうノリはミーコ以外はまだ馴染めなかった。