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第4章 第5節

「――それで、見つけられずのこのこと帰って来たと、そう言うのか?」

「状況上探索は無理だったってのは、理解して貰いたいね」

 場所は、氷炎国家イフディーネ、火山区画貴族街。

 火山区画の異常事態が治まり、人々は安息の時間をかみしめつつ夜を迎える――そんな時分に、その貴族街のとある一角の屋敷の一室。

「そんな事よりも、この異常事態はなんだったんだ? ベルゼブル号もかなりダメージ受けたし、オレもこの有様だ。これが火山区画で普通にある事なら――」

「そんな訳があるか。こちらもよくわからんのだ」

「良くわからんって、そんな場所に行かせやがったのかよ?」

 そこは、レナ・ウンディスの暗殺を目論んだ焔の貴族一派のリーダーの屋敷で、バルフレイ・ヴァルガはユウキ達との交戦で受けた負傷に、少々大げさに包帯をまいた姿で、虚実を織り交ぜた報告を雇い主に行っていた。

 とはいえ、少なくともバルフレイは異常事態の正体を知ってもいれば、そこでイフディーネを左右する重大要素、その誕生を目の当たりにしているのだから、虚実織り交じったと言う表現より、大半が嘘と言った方が正しい。

「――まあいい。どうせ火山区画はこの異常事態で、完全な閉鎖状態。仮に無事だったとしても、元通りになるまでに火山の環境に耐えうる訳もない」

「――ああそうかい。んじゃ、責めて修理代位は貰うわねえと、割に合わねえんだが」

 そう言って請求書を突きつけたバルフレイに対し、ちっと舌打ちをして用意しておいた報奨金からその金額だけ、投げる様に乱暴に手渡す。

「さっさと出て行け、役立たずが! 他言無用を忘れるなよ!」

「それが物を頼む態度かよ? 酷えなおい――まあいい。んじゃこれで」

 逃げる様にバルフレイは、その一室および屋敷から出て行き――門を出た所で、ペッと唾を吐き捨てた。

「――ま、精々浮かれてろ。どの道これから次第で、そんなのうのうとしてられやしねえんだからよ」

 そう言い捨て――展望台となっている場へと赴いて、葉巻を取りだし吹かす。

「――ふーっ……さて、と」

 これからどうするかとなれば、生業は賞金稼ぎである以上賞金首を探すのが妥当ではあるが、バルフレイはその気にならなかった。

 今興味あるのは、フォン・エールの弟子であり神獣ソドムに選ばれた男、ユウキ・ヴォルカノの動向。

「――どうするつもりかねえ?」

 現状を省みるに、焔にしても雪にしても、絶対に歓迎はされないだろう。

 焔はあの通り完全に閉鎖的となっていて、貴族でもない者が神獣の寵愛を受けたなど受け入れられる訳もないし、雪は雪で自分たちの特権意識の要の対立候補の存在等、快く思う訳がない。

 フォン・エールの弟子という肩書こそあれど、流れによってはヘタすれば貴族のメンツ丸つぶれともなれば、その存在を認めないと言う輩の方が圧倒的に多いのでは、イフディーネに戻るのは危険だと言わざるを得ない。

「打開策があるとすれば、やっぱウォーゲームか? 国内じゃ妨害されかねない以上無理だろうから、国外でそれなりの功績をあげた上で――か」

 そう結論を出したバルフレイは、世界地図を取りだし――イフディーネの火山区画方面の隣国を調べ始める。

 レムレースにおける国境とは、基本的に神獣の“支配領域テリトリー”その物であり、その“支配領域テリトリー”から出た途端に別世界というのは、イフディーネにおける火山区画と氷海区画と同様に、普通にある。

 だから、イフディーネの様な極寒の街並みと灼熱の街並みという、明らかに相反する属性の光景が隣合わせている光景もあり、たった一夜でその場の光景が全くの別物になることだってある。

「えーっと……神緑都市グランドガーデン、常夜国ムーンキングダム、それと――天風国ウィンディアか」

 そう呟き――にっと笑みを浮かべ、振り払う様に軽く首を振るう。

「ああいやダメだ、ダメダメ。今は我慢の時だ――あのユウキって奴が、あの力を使いこなせるようになった時まで……汗どころか、血さえも蒸発する様な真剣勝負の為にも、今は耐えるべき段階。我慢だ我慢」

 ぶつぶつと、自己暗示っぽいセリフを呟きつつ歩くその姿は、今は人気のない時分と言えど、かなり危ない印象をばらまいていた。

 そんな中で、ふと普段は肘から先のない右腕――そして、これこそが武器であるバルフレイにとって、今なすべき事。

「――一先ずはエクスマキナに戻って、武器の開発に勤しむか」

 機械都市エクスマキナ

 バルフレイの母国であるそこは、雷の神獣イクシオンの加護の元、レムレースで最も機械技術の発達した都市である。

 そこでバルフレイは、己が武器となる右腕の開発や、移動拠点ベルゼブル号の整備に新装備の取りつけなどを行っている。

「――やっぱやるべき事、向かうべき目標があるってのは違うねえ。次が楽しみだ」

 けらけらと笑い、これからの未来に期待を抱きつつ――バルフレイはベルゼブル号に乗り込み、船長席に腰掛ける。

「よーし、野郎ども! 修理代はキッチリ受け取ってきたから、修理したらエクスマキナに帰んぞ!」

「修理には2週間かかりやすぜ」

「遅い! 最低1週間でやれ!!」


 ――その一方。

「――成程な」

 同じく火山区画貴族街のとある屋敷――筆頭貴族、イフリタ家の屋敷。

 その応接室にて、当主シャルル・イフリタが目の前の戦友フォン・エールの話を聞き終え、沈痛な表情を浮かべていた。

「では、この異変はそのユウキ・ヴォルカノが――我が甥ともいえる者が、神獣ソドム様に選ばれたが故。そう言うのか?」

「ああそうさ。ジーナの息子、ユウキはあたしから見ても素質ある子だったからね」

「――お前の言う事を疑いたくはないが、何故今まで黙っていた?」

「生まれが生まれだ。間違いなく忌み子として扱われるだろうし、その時のジーナをシャルルに見せたくはなかった――それだけさ」

「……」

 シャルルは両手で顔を覆い、そのまま黙ってしまう。

 漸く知る事が出来た妹の最後、そしてその息子の存在――いきなり知らされた事にしては、あまりにも衝撃的過ぎた。

「――我が娘と相対する焔は、やはり生まれていた。そう言う事か」

「ああそうさ、アリエス」

 さらにその場には、アリエス・ウンディスも呼ばれていた。

「いずれこんな日が来る事はわかってたからね。キチンと送りだせるように鍛えもしたから、魔法や“神殻”においてならともかく、あんたの娘にも負けない様にはしたつもりさ」

「フォンの太鼓判があるなら、文句はない――しかし」

「アンタ達の事は信頼してるさ。だが最初からでも、どうせユウキは受け入れられる事はなかった――違うかい?」

「違わないが――事情が事情とはいえ、責めて我等には言って貰いたかったな」

「それは悪かったよ。ただ、あんた達の取り巻きには、あたしを嫌ってる輩も居たからね」

 フォンの言い分は理解はできた。

 だがその間に、どれだけ貴族の間で汚いやり取りや理不尽があったか――それを考えると、シャルルもアリエスも流石に納得はできない。

 しかし、ユウキを明るみにすればいいかどうか――そう聞かれると、流石にノーである以上、責める事も出来なかった。

「――それでこれからの事だけど」

「ああ――こうなってしまった以上、その子達はイフディーネには帰れないだろうな」

「私の娘は皆、責任感の強い子たちだ。放っておけない以上、共に居ようとするだろう」

「それでだ。これはシャルルとアリエスにしか頼めない事なんだが――こうなった以上、あの子たちがイフディーネに戻るには、もうすぐ開催されるだろうウォーゲームへの参加資格を手に入れる事位だ」

「議会か――確かに、我等にしか出来ん事ではある」

「しかし、贔屓は出来んぞ? 我等とて選ばれてその場に立った以上は――」

「それはわかってるよ。ただ、公平な判断が出来る者を議会に据えて欲しいだけさ」

 シャルルもアリエスも、フォンの言い分に対し思う所はあった

 現状焔は、雪の増長で閉鎖的になってしまっている為に、雪もレナの威を借り増長してしまっている為に、ユウキの存在を快く思う訳がない。

 それ位に、フォンの頼みは難しい話だった。

「それは単純な話ではないぞ」

「わかっているから頼んでるのさ。あたしに元々、政治的な力はないんだから、それが出来ると信頼を持てる相手、あんたたちに頼むしかないのさ」

「……まずは、信頼できる者をピックアップすることから、か」

「アリエス?」

「――やるしかあるまい。それにシャルル、お前にフォンと共に成す事に失敗など在る訳がない。そうだろう? 我が友よ」

「――我が友、か……すまなかった、今まで」

「いや、わかってくれればいいのだ」

 シャルルとアリエスが握手を交わし――それを見て、フォンは1つの酒瓶を取りだし、近くの棚から勝手にグラスを3つとりだす。

「さ、誓いの儀式と行こうじゃないか」

「――久しぶりだな。我等3人、戦いに出向く際にはこうしてこの銘柄の酒を飲み交わし、必ず生きて帰ってくることを誓い合った」

「久しく忘れていたよ――あの時は、こうして互いを信じていた。その居心地の良さを」

 3人は笑いあい、酒を注いだグラスを手に――グラスをぶつけ、3人はくいっと飲み干した。

「ところで、ユウキとは一体どんな者だ?」

「良い男さ。何事もなかったら、娘の婿にと思ってたんだがね」

「そうか。伯父として、一度会ってみたいな」

「ただ、何故かあの子は異様にモテてねえ。女の子に声をかけられてる姿なんて、頻繁に見たねえ。もしかしたら、アリエスの娘たちも……」

「……女たらしではないだろうな?」

「何言ってんだい? そんな事したら、あたしがブッ飛ばしたに決まってるじゃないか」

「……心配はなさそうだな」


 ――一方その頃

「はい、あーんしてください」

「――あの、自分で」

「「ダメ(です)」」

 貴族筆頭&伝説の闘士たちの会話の中心である当人は、ユサミに膝枕して貰いつつ、レナに食事を食べさせて貰っていた。

「リバウンドのえいきょうがー、ないぞうまでひびいてますからねー。いまうごくことはー、おすすめできませんよー」

 姉妹で最も博識であり、医療に関しても同様のミーコからの診断もあって、ユウキは動く事を禁じられていて、ユサミとレナに世話して貰っていた。

「――ミーコ様あんた絶対楽しんでますよね?」

「いっそのことー、かけおちのたびってことにも――」

「やめて! 問題云々ブッ飛ばして二度と帰れなくなるから!!」

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