第4章 第2節
まずGAU様、レフェル様
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「あの、ユサミさん。彼が聞きたいのは、そう言う事ではないと……」
「え? ――ああっ、あたしと一緒にお母さんに鍛えられてたって事かな?」
「そっちだろ普通! つまりあのユウキとか言う奴は、フォン・エールの弟子って事じゃねえか!!」
いきり立つバルフレイが、はあっとため息をつき――納得した様に頷いた。
「あなた、お母さんを知ってるの?」
「知ってるも何も、実際会った事がある。何せそれまで無敗だったオレのオヤジを、オレの目の前で敗ったんだからな」
「――まあ、ありえなくはないですね。フォン様はイフディーネ国外においても、かなりの功績を挙げておいでとの事でしたから」
「オレは痺れたね。敵討ちってのも考えた事もあったが、それ以上に世には強い奴がごまんといるってわかって――オレも、あんな名勝負をしてみてえって、あんな血が滾る様な場の中心に立ちてえってな!」
「……お母さん」
まさか、母の行動の影響がバルフレイのこの戦闘狂を形成したとは、ユサミにとっても思いもよらなかった。
ただ、母の様になりたい――母の様に強く優しく、頼れる存在になりたいと思う気持ちを強く持っているだけに、バルフレイがそうなった事には、自身の奥底から理解出来る。
そんな感情を、ユサミは抱いていた。
「お嬢ちゃんのおふくろは、本当に強かったぜ。今のオレでも、勝てないだろうって位になあ」
「そうだね。あんたの攻撃なんて、お母さんのパンチに比べれば全然軽いし遅いから」
「ぷっ……はーっはっはっは! このバルフレイ・ヴァルガの拳を貶すのかよ!? 流石、フォン・エールの娘は言う事が違うねえ!!」
貶されたと言うのに、バルフレイは心底楽しそうだった。
「だから良いんだよ。勝てない位がオレにとっては丁度良い、圧倒的な差が開いてりゃそりゃ最高だ――死に物狂いであがいてこそ、生きてるってことなんだからなあっ!」
――更に、自身の母と同じような事を言う。
「――ホント、すごい人から生まれたんだね、あたしは」
ユサミは素直にそう呟き、だからこそ、母の顔に泥を塗る訳にはいかないと意気込む。
「じゃあ尚更負けられない!」
「ぬかせ、オヤジの二の舞何ざごめんだ!」
ユサミとバルフレイが、ぐっと拳を握りしめ相対し――。
「うっ……がああああああああっ!!」
それに割り込む様な、ユウキの断末魔の様な咆哮。
相対していたバルフレイとユサミ、それを見つめていたレナは、ユウキの方を振り向き――ぎょっと目を見開いた。
ユウキの腕を包む溶岩が、炎に包まれながらユウキの掌に集まり、今にも爆発しそうなた雰囲気を醸し出す、まるで太陽を思わせる巨大な炎の玉となっていた為に。
「ちぃっ!」
バルフレイが舌打ちをし、生身の左腕に黄色い“神殻”を展開した上で、更に鉄腕である右腕も黄色い光で包み、その両拳を打ちつけ合い――迎撃の為に腰を落とす。
「ユサミさん、ワタクシの後ろへ!」
魔法攻撃相手ではユサミに成す術などある訳がなく、やむおえずレナの後ろへと駆け込み、ミーコを受け取って守る様に抱きかかえる。
「ぎぃぃいいいいいいっ!!」
ユウキの悲鳴が響き――火球が爆発。
火山が爆発した様な轟音が響き、その次にマグマが噴き溢れた。
「うおらああああああああああああっ!!」
そのマグマの奔流に対し、バルフレイは雄叫びを上げながら両拳に稲妻を集中。
マグマの奔流を掘り進むかのように斬り裂き、掻きわけ、大津波をモノともせず体力任せの抵抗を続ける。
「――うっ、くっ……!」
それとは対照的にレナは氷壁。
というより自身を始め、ユサミにミーコも守れる様、氷柱の形を。
それも、元からある火山区画の熱と遅い来る奔流の大きさに負けないような、本気ともいえる大出力で、奔流の高さをもしのぐ大きさの物を展開。
――その一方
「!? なっ、何だ!?」
その巨大過ぎる力の解放は、遠く離れたコウキ達にも捉らえられた。
「――何これ……? 幾らなんでも、大き過ぎる!?」
「そんな――ミーコ様と、レナ様は!? ユサミさんは、一体どうなって!?」
魔導師として、巨大過ぎる力を感知した所為で、少々動揺してしまっている三女ユミと、3姉妹の世話役として、本来この場に最も不相応なメイド少女エリーは、その力の大きさに完全に動揺していた。
「治療は終わった!?」
「ええ、もう……ですが、もう少し安静に」
「そんな意識が散漫な状態で治療されたって、怖いだけだって。終わってんなら十分だから、さっさと行くぞ」
精神状態を見抜かれぐうの音も出ず、結局2人はコウキの指示通りに移動する事に。
「――なんだかんだで、一番冷静なのはコウキさんの様ですね」
「――私もまだまだです」
内心、姉及び主達を信頼できなかった事に、落ち込みつつ等とも言ってはいられない。
「警戒はしろよ。あれじゃ流石に、普通に歩いてってのは無理だからな」
地面が真っ赤に染まり、あるいは火の海に包まれている光景が、遠目に広がっているのを見て、コウキも流石に顔をしかめた。
――その中心にて。
「はっ……はっ……」
マグマの奔流が止まり、冷えて岩石として固まった頃合い。
元々亀裂の入っていた、腹部の“神殻”がボロボロと崩れ落ち、息も荒いユウキがその場に膝をつき――。
「ぐっ、げほっ!」
せき込む様に、血反吐を地面にブチまいた。
「――やれやれ、もちっとでバーベキューにされたまま、生き埋めになる所だったぜ」
流れるような文様を描く地面の中で、不自然に堰き止められたような裂け目から、バルフレイが息を切らせ、ひょいと跳び上がる様に姿を現し、ユウキを見据える。
「リバウンドか――こりゃ、内臓に響いたな。ま、ここまでの力を開放したりすりゃ、下町の市民じゃ無理もねえか」
元々、戦闘向けの魔法のノウハウ――主に魔力の大出力制御等は、貴族や騎士候補にならねば、習う事はないし使う必要もない。
魔法が生活に取り入れられているとはいえ、一般生活に必要なのは精々炊事の為に火を灯し、水の力で洗濯する――位なのだから、多少の魔力を効率よく使えれば、それで十分生活は出来る為、制御方法も軽度の物しか必要ない。
そもそも大出力魔法自体、制御も難しくそれを誤れば反動――多大な過負荷がかかる“リバウンド”が起こる。
ユウキとて、暴走状態である以前に市民の例に漏れる事無く、簡単な制御法しか知らない為、こうなる事はむしろ必然だった。
「しかしそれ以上に、それでも“神殻”は解除されねえってのは、流石に驚くな」
「流石はお母さんの弟子――ってところかな?」
バルフレイは、地面から伸びる氷の柱――それが砕けた中から姿を現した3人、特にユサミに目を向ける。
「とでも思ってるでしょ?」
「ああっ、確かにな。流石にここまでになって――」
「――ゆさ……み?」
「「え?」」
バルフレイとユサミの声が重なり、2人は同時にユウキに目を向ける。
「うっ、うぅぅっ……」
「ユウキ! ――わかる? ユサミだよ」
「ぎがっ……あっ、あっ……」
「……」
その様子に手を出す事をあえてせず、バルフレイはミーコを抱きかかえているレナに視線を向ける。
「――お前らが一緒に居るのは偶然か?」
「必然ですよ。彼は間違いなく、ワタクシの対として選ばれし焔ですから」
「そうかい――何か知ってるとしたら、フォン・エールか」
となれば、もしユウキの存在が明るみになれば、何がどう作用するかは分からない。
恐らく、こうなれば依頼の件においての話は別になる以上、これ以上は逆に自分を始め一家にとっては大打撃になりかねない。
結論を出したバルフレイは――
「――潮時か」
戦闘態勢を取らず踵を返す
「――どちらへ?」
「帰る。流石に状況がややこしくなりそうなんで、トンズラこくわ」
「よろしいのですか?」
「この火山区画の異変で、見つかんなかった事にすりゃいい」
――依頼人がこの事を知っているとは思えないしな。
とは言わず、バルフレイは右腕の義肢の二の腕の装甲を外し、閃光弾を撃ちあげる。
「――貴方の依頼主は誰なのですか?」
「それは流石に、プロフェッショナルとして教えられねえな。それより――」
「ぐっ、げほっ!」
「あっちほっといて良いのか?」
「くっ……去るのなら去りなさい。ただし、次はありません」
そう言ってレナはミーコをおんぶした状態で踵を返し、吐血し倒れ伏したユウキの下へと駆け寄り――
「大丈夫ですか!?」
「あっ、ミーコ様預かります!」
「――ひゅーっ……やっぱあの野郎ブッ殺してやりたくなって来たな」
『頭、お迎えに来ました』
『おいドーガ、あそこに一発ブチ込んでやれ!!
『おうよ、任せろ!!』
『やめなバカども! ほら、頭からも何か言ってやってくださいよ!』
「バカなこと言ってねえで、さっさとずらかんぞ!! ……オレもヤキが回ったな」
レナとユサミの2人に寄り添われている光景。
それを見て、自身を迎えに来たベルゼブル号――そこから通信機を介して聞こえた声に、バルフレイは顔をしかめた。
「――ウォーゲーム開催までに、イフディーネはまともに機能すんのかしないのか、で将来は分岐すんなこりゃ」




