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第3章 第5節

「ミーコお姉さま、ここは……」

 最初に前に出ようとしたと言うのに、バルフレイの介入と流れ的に、気が付いたら後ろに回されてしまったレナが、ミーコの前に出ようとするのを手で制された。

「レナちゃんはー、お2人のガードですよー」

「ですが」

「だいじょーぶ。ちゃんとしょうさんはあるですー」

 レナとて、自身の姉の実力と姉妹で最も博識である事を信用してない訳ではないし、何の勝算もなしにこんな事は言わない事は、十分に理解はしている。

「それともおねえちゃんがー、しんじられないですかー?」

「いえ、そうは言いません。ですが……」

「いいからー、エリーとユサミちゃんをまもってあげてくださいー。レナちゃんはさいごのとりでですー!」

 ――そう言われれば、レナとて退かざるを得なかった。

 本気の自身と今のユウキがぶつかれば、いかにミーコとユミでも2人を無傷で……という訳にはいかないし、自身も身体の殆どが“神殻”で覆われ、それも暴走状態にある者との戦闘など、経験は一切ない。

 決して勝てない相手ではない……しかし自身が負ける可能性だって、十分浮上する。

 そうなれば、ミーコもユミも精神的なダメージは大きい事は十分に予想が出来た為に。

「――あー……がーっ……げが……うぅっ」

 ――というやりとりをしている間に、ユウキは唸り声をあげながら近くにある岩を掴み、ドロドロと溶かして右腕に纏わせる。

 ボゴボゴと沸騰し泡立つ紅い腕から溶岩が滴り落ち、ジューっと音を立て地面を溶かす。

 その音で、有無を言わさずミーコは――

「えーい!」

 “神殻”で包まれていた右腕で杖を地面に突き立て--ボンッと、地面から溶岩が押し出される様に噴出し、それが瞬時に凍りつきユウキの行く手を阻む壁となる。

「とにかくー、いまはいそぐですー!」

「急ぐって……! ――成程、わかりました。ユサミさん、急ぎましょう!」

「え? あっ、ちょっと待ってください!」

 レナに連れられ、慌ててエリーをおんぶしてユサミは駆けだす。

 それを尻目に見送り――シューっと音をならしながら、岩の壁に橙色の点が浮かび上がると、ミーコは軽く杖を振るい左手の上に水の塊を作りだす。

「――こちらもよゆうはないのでー、ころすきでいきますよー」

 その水の塊を五指ではじき、水塊は弾けミーコの指先で5本の糸へと変わる。

 ヒュンと仰ぐように手を横なぎに振るうと、その掌――正確には、指先の軌道に合わせ岩山、岩の壁、地面が切り裂かれ、ガラガラと音を立てて崩れて行く。

「――あーっ……」

「……やっぱりダメですかー」

 壁を切り裂き――指先に熱さを感じた時点でわかっていた事だった。

 切り裂かれた壁の先には、ユウキが平然と――というより、先ほどと変わらぬ呆然としか表現できない雰囲気で立っていた。

 ミーコの指先の水糸は途中で途切れるどころか、ミーコの指先に湯の熱さを伝え、蒸発しなかったのがせめてもの救い――とさえ思えない結果を突き付けるのみ。

「――うーっ……ぐるるるる……」

 岩の壁を溶かして取り払い、身体を伝って溶岩が滴り落ち、そこらに散らばる岩石、地面がユウキの歩みと共に溶け溶岩へと変わっていく。

 その光景が、ミーコに無理やり同然に自分との力量差を突きつけ――

 “せめてきずの1つでもついてください~!”

 とでも言いだすかの様に、その場には相応しくない頬を膨らませた顔になる――何てやっても、目の前の意識を失い朦朧としている彼は、動揺だにしない。

「うーむ……」

 ――余談だが、自身にその手の魅力がある自覚が一切ないミーコは、その手の動揺が起こっても大抵首を傾げるばかりである。

 ただ今首を傾げているのは、如何に消耗させるか――あるいは。

「――ふぅっ」

 ミーコは一先ず“神殻”を解除し、ベルトに引っ掛けているポーチを探り始める。

「うーっ……げがっ」

「いまはとにかくー、せんせいこうげきですー」

 その中から、ミーコの掌サイズの玉を取り出し、えーいと掛け声が似合いそうな愛らしい全力投球で、ユウキめがけて投げつけ――ユウキがうっとおしいと言わんばかりに、向かって来る玉をはじく。


 ベチャッ!


「……?」

 ――それが弾け、ユウキの身体をべっとりと粘着性のゴムの様な何かが覆い尽くし、周囲の空気が瞬時に冷え凍りつく。

「――いまのじょうたいならー、まどうぐのしようはこうかてきですー」

 続く様に、ポーチからいくつかの氷石をはめ込んだ投げナイフを取り出し、ヒュンと投げつけ――その軌道はユウキの身体ではなく、足元に突き刺さった。

「――?」

「氷の導を結び水晶となし、その導の結びに囚われし物全てに永久の眠りを――クリスタルコフィン」

 ミーコの詠唱に神獣石が光を放ち、その光に呼応するようにユウキの足もと――ナイフにはめ込まれた氷石から線が走り、ユウキを取り囲む様に綺麗な正方形が描かれ、その正方形内が瞬時に凍りついた。

「まだまだ――」

 ポーチから次の魔導具を取りだそうとして――

「――うー……ぎがっ、ああぁっ……!」

 周囲の溶岩がユウキに吸い込まれる様に集まり、氷海を溶かし粘着物を焼き斬り、ユウキの右腕に集中し始める。

 右腕に集まった溶岩が、風船を膨らませる様に膨らんでいき、ユウキの3倍もの太さになると、急に派手な音を鳴らしながら溶岩が沸騰し始めると、ぞくりとミーコの背に悪寒が走った。

「――まさか」

 一際大きな沸騰音が鳴ると、ユウキの右腕に集まっていた溶岩が爆発。

 橙色の閃光を放ち、ユウキを中心に火山弾が撃ちだされ、花火のあがるかの様な軌道を空に描きながら地面に降り注ぎ、岩山をえぐり、地面をを陥没させ、更に焼き払う。

「ひゃあああああああーーーっ!!」

 その爆発に巻き込まれたミーコは、緊張感を感じさせないゆるめな悲鳴を上げ、空へと放りだされて行く。


「――今の爆発音!」

「――! ユサミさん、伏せて!」

 その火山弾の射程は、コウキの回収に向かうレナ達をもとらえていた。

 レナが槍を抜き、降り注ぐ火山弾の1つに突き刺すとそれが瞬時に凍りつき、音を立てて砕け散らせと、自身とユサミ達への直撃コースを描いている火山弾のみを瞬時に判断し、槍を突き立て、あるいは氷壁で弾く。

「――お母さん、一体どうやってこんな力……とまではいかないかもしれないけど、これに近い力を持ってる人達を押しのけて、あそこまで強くなれたの?」

 ――この旅で、役に立ってると言う実感も活躍も何もないユサミのその疑問は、降り注ぐ火山弾の爆音にかき消されるのみだった。


「うっ、うわあああっ! なんだ、何が起こってやがるさっきから!!?」

 一方、バルフレイが乗ってきたベルゼブル号もまた、火山から噴きでる黒煙を抜けたと思いきや、突如の火山弾の対空砲撃という惨事に見舞われていた。

「おいエレン! 頭は無事なのかよ!?」

「わかる訳ないでしょ、こんなで何を探せっての!!? それよりドーガも、さっさと火山弾撃ち落としな!!」

「ええい、高度上げるぞ!!」

 既に被弾もいくつかある事から操縦室はパニックに陥っており、リーダー不在もあって歯止めが効かなくなっていた。


「――あいたたた」

 ――その一方、爆発の衝撃を受けて吹っ飛んだ後、レナ同様にガードに専念していたミーコは、火山弾の絨毯爆撃がやむと息を切らせて膝をつく。

「――ぐっ……がるぁっ……ぁ」

 唸り声――そして、足音がミーコの耳に入ると、すぐさまに立って杖を構え、警戒態勢に瞬時に移行。

 火山弾が燃え上がり、その炎の煙で姿は見えないが、ゆっくりとその煙に輪郭が浮かび、ユウキはゆっくりと姿を現した。

 その姿を――正確には、先ほど火山弾による無差別爆撃を発射したユウキの右腕をはっきりと確認したミーコは、うっすらと笑みを浮かべる

「――やはりー、いまのはさすがにふたんがー、おっきーようですねー」

 彼女の視線――ユウキの右腕はだらんと力なく垂れ下がり、それを包む神殻がボロボロと崩れ、剥がれて行き足元に落とされ、煙のように消えて行く。

「――まずはだいいっぽですねー」

 ミーコの狙い――その内1つの選択肢は、“神殻”の強制解除。

 神獣の力を直接肉体に注ぎ込んだ上で、更にその力を具現化し身体を覆う甲殻を展開する“神殻”は、詠唱なしで魔法を使い、同じ“神殻”以外での攻撃も防御も、ほぼ無意味にする程の強い力を発揮できる半面、媒体――即ち、身体への負担はとてつもなく大きい。

 その為、力を使い過ぎれば肉体が耐えきれず、注ぎ込まれる力そのものが垂れ流される状態となり、具現化が維持できなくなる為、長時間効率よく使用するには、ペース配分を考え使用する必要がある。

 増して、今のユウキの様にほぼ全身の包む“神殻”ともなれば、今の様な高威力広範囲攻撃を詠唱なしで展開可能という程、強力になる半面、全身にくまなくとてつもない負担がかかっており、消耗自体下手すれば死ぬ可能性も浮上する程高い。

「ぐっ……ぎがっ……あぁっ……」

「――とはいえー、きょういでなくなったというわけではー、ないんですけどねー」

 ミーコがユウキから一歩距離を取って、踊る様に杖を振るい、先ほどと同じように凍らせ始める。

「うっ……ぎぎぅっ……」

「――まりょくもまどうぐもー、ストックがつきるまえにー、すめばいいんですけどねー」

 ミーコとてウンディス三姉妹の長女であり、レナ程ではないがそれなりの素質を持って生まれた才女。

 子供とあまり変わらない小柄過ぎる体躯故に、身体能力自体はレナやユミ程秀でておらず、メインは魔法と魔導具を駆使しての手数での勝負故に、“神殻”は多用しない。

 故に――

「ここからはー、ひさしぶりにほんきですー!」

 彼女もまた、“神殻”を首から下の上半身に展開出来る程の才覚を持っている事は、レナとユミしか知らない事だった。

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