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第3章 第4節

今年の初投稿です。

文字数的に、ちと危ないですが……最後まで頑張ります

「……あっ……あぁっ……」

 ユサミはすぐには信じられなかった。

 レナやコウキが纏う様な、橙色の灼熱を発する深紅色の外殻――それを纏ったその姿は、まるで先ほどの巨大な怪物その物の様に思えてならなかったがために。

「よそういじょうです……まさかここまでだなんて」

「……ユウキさん」

 レナの力を知ってるミーコもユミも、動揺は流石に隠せなかった。

 ミーコの特徴である間延びした口調はなりを顰め、おっとりした柔らかい雰囲気も流石に緊張に埋もれ、全くの別人の様な雰囲気へと変わり――。

 ユミもまた、で会ってまだ1日で会っても友人の様に親しめる相手の、その変貌した姿――その威圧感は、近衛騎士すらも蹴散らす実力の持ち主である筈のユミを、無意識に一歩下がらせる。

「だいじょうぶですか、ユミちゃん?」

「――ミーコお姉さま」

「……これはさすがに、いのちのききをかんじますね」

 そう言いつつもミーコもユミも、覚悟を決めていた。

 “神殻”の暴走自体、共存歴の始まり以降は幾度となく在った事柄――しかしその全てが、ろくな結果で終わったためしがない故に。

「――コウキよお、お前の連れの覚醒早過ぎじゃねえか? いきなりあのレベルの“神殻”発動って」

「色々と例外だからだろ。そもそもあの年で神獣の力を注ぎこまれた事例なんて、オレは聞いた事ねえよ」

 バルフレイもコウキも、変貌したユウキに対し――コウキは少々迷いを見せつつ、バルフレイは歓喜をにじませつつ、警戒態勢を取った。

 今のユウキの姿は腕1本どころか、首から下――身体のほぼ全部が“神殻”に覆われているという、現実的に信じられない状態。

 それに加えて、咆哮を上げたその姿に理性は見られず、明らかに暴走状態にある為、敵味方関係ないと言う――ある意味、人が考えうる最も洒落にならない危険な状況。

「……」

 そんな中でただ1人、レナだけは落ちついていた。

 落ちつきというよりも、慨視感――あるいはなるべくしてなったという予感があった所為か、驚く事はなかったと言うのが正しいか

 その正体はレナ自身にもわからないまま……コウキとバルフレイ、ミーコとユミを手で制し、愛用の槍を手にユウキの前に立ちはだかる。

「レナちゃん?」

「レナお姉さま?」

 ――全ての始まりは、あの夢。

 それがユウキと自身を引き合わせ――今に至らせ、彼は自身の対となる焔を手に入れた場に居合わせた。

「……これはワタクシの役目です」

 これはきっと、こういう事かも知れない。

 突拍子もなければ、根拠もまた夢という曖昧な物――とても確信が持てる様な物なんて、何1つとしてないと言うのに、レナは迷いがなかった。

「――ふんっ」

「――なっ!」

 そんな姿に見向きもせず、ただ1人――バルフレイが右足一歩分退いて、パワーアームを振りかぶり、踏み込んで地面の抉る様にパワーアームを振るい、抉り取った岩石の弾丸をユウキとレナめがけて撃ち出す。

「…………」

 ユウキの意識のない、朦朧とした目がゆっくりと目の前に向かって来る岩石の弾丸に向けられる――が、うなだれる様な体勢を崩さないまま、放心したように立ち伏したまま動かず、岩石の弾丸が直撃。

 ――したと同時に、命中していく端から溶け溶岩へと変わり、まるで泥をぶつけられたようにべっとりと、ユウキの身体を沸騰する膜の様に張り付いていく。

 それに続く様に、レナも態勢を崩す事はしなかった。

 岩石の弾丸が命中していく端から凍りつき、パキンと砕け――パラパラと破片が地面にばら撒かれ、火山区画の熱がシューっと音を立てて凍結を溶かしていく

「――成程ね」

 パワーアームにはめ込まれた、バルフレイの黄色い“神獣石コントラクトオーブ”が強い輝きを放ち、稲光がパワーアームを包み込む。

 ――その一瞬前に、銃弾がバルフレイの右腕の生身部分をかすった。

「引っこんでろ。野暮してんじゃねえぞ!」

「知るか!」 


「――あー……」

 ――その様子を見たユウキが、唸るような声を上げ……ぼんやりとした動作で、まるで片手でお盆でも持つように右手を挙げ、その掌に先ほどべっとりと張り付いた溶岩が、生き物のようにぬるぬると集まって行く。

 その溶岩がボール状になり、ぎゅっと握りしめるその拳の隙間から、膨張した溶岩が噴出しユウキの右腕を包み込んで、更に黒い煙を上げながらブドウの様な形状に風船みたいに膨らむ。

 その溶岩の腕が音を立ててひび割れ、爆発する様に炎で覆われると1歩踏み込み、その腕を下手に地面をえぐりながら振り抜き、その動きに呼応するかのように炎が地を引き裂きながら駆け――

「っ!!?」

「なっ!!?」

 コウキ、バルフレイの激突のその間を走り、2人は咄嗟の防御も出来ないままに炎に弾き飛ばされ宙を舞い、岩山に激突。

 コウキはそのまま転がり落ち、バルフレイは岩山を砕いてなお勢いが止まらず、かなり離れた場所まで吹き飛ばされ、2人は勢いが止まる頃には気を失い地面に横たわった。

「うー……あー……ぐげっ?」

 唸るような声を上げ、朦朧とした目を今度はユサミ達に向ける。

「ひっ!」

「ユウキ……? ねえ、ユウキ! わからない!? あたしよ、ユサミ!!」

 震えて顔を青ざめさせるエリーを抱き締めつつ、ユサミはユウキに必死に呼びかける。

「あー……あっ」

 ユウキの両手に火が灯り、その火が徐々に大きくなって炎へと変貌し、腕を振り上げる。

 朦朧とした目の先には、ユサミ達――そこに向けて一歩。

「――させませんよー」

 その間に、右腕に“神殻”を纏ったミーコが立ちはだかり、氷壁をはってユウキの拳を受け止める。

「いまですよー!」

「はい!」

 ミーコの号令と共に跳び上がり、ユミは両手の魔道銃――氷結術式を施した弾丸を撃ちだし、命中したユウキの足を凍結させ体制を崩し、拳を受け止めていたミーコがそれを受け流し、ユウキをその場に転ばせる。

 しかし決して強力とは言えないその氷結は、じゅーっと音を立ててすぐに溶けて行く。

「てをやすめちゃだめですよー」

 くるりと杖を回し、その動きに呼応する様に空気が冷え、踊る様にステップを踏みながらバトンの様にくるくると振るうと、冷えた空気が白い帯の様になる。

 それはリボンの様に、ミーコの杖の動きに合わせ規則的な軌道を描き、ミーコはその帯をユウキの身体に絡ませ――氷結させた。

「ユミちゃん!」

「はい! ほきょうします!」

 白い帯に絡みとった部分を補強する様に、ユミが再度氷結の弾丸を、寸分狂わず撃ちだし、ユウキは身動きを取れないままユミとミーコに翻弄されたまま。

「――すごい。まるで考えてる事がそのまま一瞬で伝わってるかのような」

「はい。ミーコ様とユミ様は、昔からコンビネーションが得意だったんです」

 その後ろでユサミと、落ちつきを少しながら取り戻したエリーが、その連携の見事さに舌を巻く。

「いいえ、状況は不利なままです」

「――はい。やっぱり、少しずつですが精度も動きも鈍ってますから」

 ――が、ユサミの目には決して余裕があるようには見えず、2人を守る様に立つレナの意見を決して否定はできなかった。

 一見間髪いれず、寸分狂わず、ユミとミーコのコンビネーションによる、ユウキの凍結封印は大岩位の大きさになっていて、流れは順調。

「――ふぅっ、ふぅっ……」

「はっ……はぁっ……」

 ――であるが、場所が火山区域の灼熱の環境である為、氷海区画の極寒環境で育ち、属性的にも負担が大きい為、ミーコもユミも実際はギリギリ。

 2人は息を上げつつ、集中力と体力が続く限り、ユウキの凍結封印の補強、増強を繰り返していく――が。


 バキバキッ! ジュバっ!


「きゃあっ!」

「ユミちゃん!?」

 突如氷にひびが入り、炎の槍が氷を突き破ってユミに直撃。

 大岩ほどあった氷は蒸気を上げながら溶けて蒸発し、息をきらせたユウキが今だ神殻の暴走を引き起こしたまま、姿を現した。

「ふっ……ふぅっ……ふぅっ……」

「――やっぱりー、かんきょうてきにふりですねー」


「ユミ、大丈夫!?」

「うっ……だっ、大丈夫……です」

「すぐに手当てにとりかかります!」

「わっ、私も手伝います! お嬢様、しっかりしてください!」

 レナがユミに駆け寄り、抱きかかえてユサミ達に引き渡すのを尻目に、如何にユウキを消耗させるかに重点を置き、思考を巡らせる

 ――というより、今の消耗度ではそれが限界だった。

 ミーコは“神殻”を発動させた、レナと同じ蒼い甲殻に包まれた右腕で、ぐっと杖を握りしめる。

「――ちょうじょとしてー、いもうとだよりにするわけにもいかないこととー、ぼうそうじょうたいとはいえー、いもうとをきずつけたことをゆるさないですよー」

 ウンディス家の筆頭の座を、名実ともに妹に奪われているとはいえ、ミーコとて長女のプライドも妹への思いやりもある以上、流石にユミがやられた事を許す訳にはいかない。

 ――といった所で事態が好転する訳でもなく、増して力量差が……レナに匹敵する力に対応できると思えるほど、ミーコは決して浅はかではないが

「――りくつではないのですよー、こういうことはー」

 その時ミーコは、レナやユミさえも見た事がない、戦士の顔をしていた。

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