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第3章 第1節

「信じらんねえ――こんな事って、あるのか……!?」

「火山区域の火山と言う火山が、全部噴火してるって……こんなの初めてだ」

「恐ろしや……もしやソドム様が、お怒りなのではなかろうか?」

 火山区画の火山と言う火山の、突然の一斉噴火は、氷炎国家イフディーネをパニックに陥らせていた。

 火山区画の下町や市民街の住民達は、一斉に氷海区画へと避難し、氷海区画の住民達もまた火山区画の突然の異常事態に、恐慌状態に陥る騒ぎへと発展。

「どうなってんだよ!? ユサミちゃんとユウキが出て行った途端に!?」

「ユサミちゃん、大丈夫かな……?」

「――ユウキ君」

「コウキの奴、大丈夫かな?」

 避難民の中には、宿屋兼酒場エールの従業員達の姿もあり、着の身着のままで持てるだけの荷物を持ちながらも、火山が噴火し続ける後ろの光景を幾度となく振り返り、3人の安否を心配しながらの避難。

「あれ? おい、おかみさんどこ行った!?」

「え? そういや、どこ行ったんだ!? まさかどっかで……いや、あの人なら大丈夫か」

「だな。あの人が慌てふためく事があったら、それこそこの世の終わりだ」


「くしゅんっ! ――言伝でも頼んどくべきだったかね?」

今や無人となった火山区画、第二階層である市民街の、火山区画の外を一望できる展望台で、1人の女性が一斉噴火が続く光景――その原因についての確信を持ちながら、沈痛な表情で見据えていた。

「――やはり、ソドムの寵愛を受けるに相応しい器だったようだね……ユウキ」

 ――宿屋兼酒場のおかみ、フォン・エール。

 目の前の光景――地面はマグマで赤く染まり、空は噴火の黒煙で覆い尽くされ、火山灰が空から舞い散り、地響きと轟音で満ちた火山の世界。

 今にもこちらを呑みこまんと言う勢いで、今も尚その圧倒的な大自然の力は荒れ狂い、勢いを増していた――が、フォンは展望台の備え付けのベンチに、ゆっくりと座り、ノンアルコールの酒瓶とグラス2つを取りだす。

「見えてるかい――?」


ドォォォォオオオオンッ!!


「――んたの息子の……ユウキの、新しい誕生日の祝砲だよ」

 酒瓶を開け、トクトクとグラスに飲み物を注ぎ――乾杯と言う風にグラスを鳴らし、一斉噴火し続ける火山に向けてグラスを掲げ、グイッと飲み干す。

「神獣に愛された者の始まりは、常に運命――だけど、始まりなんてどうだっていいし、始まった事を悲観したり否定しても、何の意味もない」

 コトっとグラスを置いて、両手を合わせて祈る様な形にし目を閉じる。

「――あたしのやるべき事は全部やった。乗り越えられるだけの力を鍛えたし、ユウキはきっと乗り越える事が出来る……だから」


――生きて戻っておいで


「……さて、と」

 目を開き、もう1つのグラスの飲み物を飲み干し――片付けると、表情を引き締め立ち上がり、フォンは市民街の方ではなく貴族街へと歩を進める。

「――何年振りかね。貴族街は……そして、シャルルと顔を合わせるのは」



「何だこれは!? 何が起こっている!

 混乱は市民ばかりではなく、焔の貴族街でも同様だった。

 ここ数十年を省みても、前例がない異常事態に右往左往するばかり。

「――よもや、ソドム様がお怒りでは!?」

「――バカ者、臆病風に吹かれてどうする!」

 元々焔の貴族は、神獣に見放されたと達観している部分もあり、裏で汚い事をやっている者も居れば諦観を漂わせている者もおり、完全にパニック状態だった。

「ええい、落ちつかんか! こんな時こそ、堂々と民たちを導き安心させる事こそ、我ら貴族の本懐だろう!! 早く被害と避難の状況の確認と、市民達の安全はどうなっているかを調べるのだ!」

 そんな中、焔の貴族筆頭ともいえるイフリタ家当主、シャルル・イフリタが声を張り上げ、場を纏めるべく前に出る。

「――しかしですね」

「しかしも何もないわ! 神獣ソドム様に見放されたと諦める前に、何故もう一度振り向かせようとせん!!?」

「そんな事言われても……


「――んだ貴様は!?」


「ん? なんだ?」

 弱腰の貴族を放っておき、シャルルは何やら揉めている雰囲気のある地点へと歩を進め――

「シャルルはどこ――ごほん。シャルル公爵はどちらに?」

「貴様、下民の分際でシャルル様を呼び捨てとは何事だ! 帰れ帰れ!」

「まったく、最近の騎士団の教育はどうなってんだい?」

「何だと!? 貴様、騎士を侮辱する気か!?」


「なんだ、何の騒ぎだ?」

 騒ぎを聞きつけ、やってきたシャルルの眼に映った物――それは

「久しぶりだね。シャルル」

「貴様! シャルル様を呼び捨てとは――」

「フォン……? フォン・エールか!?」

「――え? フォン? ……まっ、まさかふぉっ、フォン・エール様!!?」

 騎士の叫びが響くと同時に、その場がしんと静まり返り、シャルルが笑みを浮かべフォンに手を差し出す。

「久しいな、元気だったか!?」

「ああ、元気さ。あんたも、あのひょろひょろのおぼっちゃまが、今や焔側の党首とは随分と立派になったじゃないか」

「お前は変わらないな、フォン――しかし、何故いきなり姿を」

「それについても含めて、色々と話したい事があるんだけど、時間良いかい?」

「――?」


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