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第2章 第5節

「……んー……ううっ……」

 声が治まってなお、ユウキは寝つけずにいた。

 対人戦……そこでやむおえなかったとはいえ、人を殺した感触がまだ残っており、人の血の匂いが染みついた実感が、手から離れずにいた。

 獣を捌いた時とは違う、同じ人間だと言う認識が齎す、不快感。

 剣を振るい、人を斬る感触――その手ごたえが、手に蘇ってくる。

 それを無理に忘れ、ほぼ無理やり眠りにつこうとするも、どうにも不快感と睡眠欲がせめぎ合う状態に陥り、殆ど夢見心地の中で右往左往する様な状態に

「ん~……」

 ――そんな中、鼻腔をくすぐる柔らかな香り、胸板に感じる重み。

 主に嗅覚からの信号をとらえたユウキの意識が、ハッキリしないまま疑問符を浮かべる。

「んにゅ~……」

 胸板に感じる重みからのこそばゆい感覚が、寝ぼけた頭にゆっくりと伝道し、微かに聞こえた鳴き声の様なゆるい声。

 まるですり寄る様な感触は、決して不快感などではなく、寧ろ癒される物で――

「にゃ~……ごろごろ~」

「――すぴーっ……」

 寝ぼけた頭が“なんだ、ネコか”と結論を出し、懐かれながら寝るのも悪くはないか、とユウキは再度眠りにつく。

 ――その顔から苦悶はなくなり、熟睡その物に変わって。


 ――それから、夜明けの少し前。

「ん~……にゃ~♪」

 寝心地がいいのか、ぐりぐりと胸板に顔を押し付けすりよせる。

「ん……? ――ああっ」

 という感触で、ユウキは目を覚ます。

 まだ夢の中で、でかい猫に懐かれてる状態がまだ続いてる物と、寝起きの冷めていない頭が判断し、そっと猫と思わしき物をゆっくりと撫でる。

「んに~♪」

 心地よさそうな声を上げ、自身の上で身体を丸くしたのか、ごそごそと動く重みが伝わってくる。

 ――と言う所で、徐々にユウキの頭がハッキリし始め、疑問が生まれ始める。

「――ん?」

 ふと思い出す、今の状況。

 ここは酒場エールにある自分の部屋ではなく、イフディーネ火鉱山付近の寄宿舎だった筈で――更に考えてみれば、何やら猫にしてはでかい

「……」

 ぼーっとする寝ぼけた頭で、ゆっくりと目を覚ます。

 見慣れぬ天井だけが視界を占める中――


 ドゴっ!!


「ふがっ!!?」

 突如殺意と共に視界が遮られ、ユウキの顔に何かがめり込んだ。

「ユ~ウ~キ~!」

「――てー……朝一番から何すんだよユサミ!!」

「んにゅ~……なんですかー? ふぁあっ……」

「――へっ?」

 自分の顔を踏むつけたユサミに抗議しようとし――自分に乗っかってた物が声をあげ、その声が聞いたと同時にユウキは素っ頓狂な声をあげる。

「……ミーコ様?」

「ん~……? おーっ、ユウキくんじゃないですかー? おはよーですー」

「……はい。おはようございます――ああ、そう言う事か。てかなんでミーコ様が俺の寝袋に潜り込んで、しかも俺にしがみついてんですか!!?」

「――と言う訳だから、おじさんとおばさんによろしく伝えてね?」

「待て待て! 俺も何やらさっぱり!!」


ドッカンッ!!


「なっ、何だ!? もう襲撃が――あれ?」

「何事です!? まさか――え? ミーコお姉さま!?」


――数分後

「ごめんなさいですー。ねぼけてー、ユウキくんのねぶくろにー、もぐりこんじゃったようですー」

「てか、ここまでやるなよ」

「――何事かと思いました」

 ――結局、寝ぼけて他人の布団にもぐりこみ、猫みたいになる習性がミーコにあり、それが災いし、寝ぼけてユウキの寝袋に潜りこんでしまい、寝心地が良かったために懐いてしまい……そのまま眠りこけてしまった為、今に至る。

「――永眠させる気かよ。ったく」

「――ごめんなさいですー。でもでもー、ねごこちよくてついー」

「ああ、いいですいいです。役得……ですから?」

「――いまのぎもんふとー、まはなんですかー?」

「――この顔の分を差し引いてです」

 ユサミに殴られ踏みつけられ、多少(?)形が変わった顔を見ては、頬を膨らましたミーコも縮こまってしまった。

 ――が、ユウキとしては内心感謝している物の、素直に言うとまた誤解されボコられそうなので、内心感謝の意を示しつつも黙っておいた。

「……おかみさんの血が色濃く出てるよホント」

「ユウキ、それお母さんに言いつけるからね」

「うえっ!!?」

「――てか、今の状況わかってんのかな? ま、変に肩肘張られるよりはいいけど」

 一抹どころか、胸一杯の不安を抱えつつ、コウキはカーテンをそっとめくり、外を伺う。

「――まだ夜明けか」

 外はまだ夜が明けてはいないが、火山の火口から絶え間なく流れるマグマの川の、その所々での発火の灯りで、外全体がまるでたき火をしているかのような仄暗さ。

 夜は夜でも、まるで遊牧民が所々で、炊事や火を囲っているか――というには少々危険な光景を見渡す。

「――夜が明けたら、一先ずは……ん?」

 ふと視界に空が入り――その空に、何かが飛んでいるのが見えた。

 それは徐々に距離を縮めているのか、輪郭がはっきりとしていき――機械都市エクスマキナの機械技術の産物、飛空船である事を確認したコウキは表情を変える。

 金属のハエの様なフォルム、高速で羽ばたく羽とプロペラで空を飛ぶ飛空船――

「べっ、ベルゼブル号!?」

「? どうした?」

「まずい、外の鉱山へ!」



「目標地点到達。ではこれより降下し――」

「いらねえよ。適当に爆撃して、どっかに動きあったら俺が出る」

 飛空船ベルゼブル号、操縦室。

 右目に眼帯をしたスキンヘッドの、岩を粗く削った様な大男の操舵士、クラークの言葉を遮り、一家の頭バルフレイ・ヴァルガがすっくと船長席から立ち上がる。

「ちょっとちょっと! 独り占めなんてひでえですぜ頭ぁっ!」

「よしなドーガ、どうせ聞きやしないんだから」

 顔を包帯でぐるぐる巻きにし、覆い隠した小柄な砲撃手ドーガが、抗議の声をあげるも、胸にサラシを撒いてベストを羽織り、下は短パンと露出度の高い格好の紅一点、索敵担当エレンが呆れたように溜息をついて、諦観を漂わせながらドーガを制した。

「んじゃドーガ、適当に絨毯爆撃だ。俺は戦闘準備整えたら飛び降りるから、お前ら空で待機しな!」

「了解っす。でも単独で何て、シェルはともかくバレットのおっさんがうるせえっすよ?」

「“リーダー命令、黙れスケベオヤジ”っつっとけ」

 この場にはいないが、家事担当のシェルと、整備担当のバレットを含めた6人の賞金稼ぎ一家、ヴァルガ一家。

 バルフレイが操縦室から出て行き、クラークとドーガがハァッとため息をつく。

「そりゃレナ・ウンディスともなれば、頭しか相手にならねえが……」

「あの美人さんが生きてるうちに、目の潤いの為にももう一度お目にかかりたかったなあ、ドーガ。あーあ……」

「何言ってんだい、目の潤いなら十分過ぎるだろ。あたいが居るんだから」

 そう言ってエレンが腕をかき抱く様にして、晒しで包んだ胸を強調しながら、健康的な素足を挑発する様に伸ばす。

「――エレン姉はなあ。なんかあばずれっつーか、色気過剰っつーか」

「ドーガは優しいな。俺なんか女どころか、メスの部類に見えねえよ」

「今からやる砲撃、たっぷりの爆薬と一緒にあんた達を砲弾にしてやろうかい!?」

「さーて、仕事だ仕事。ドーガ、さっさと砲撃しないと頭がうるせえぞ?」

「へいへーい。んじゃ、そこらを適当に――ん? ああっ!!」

「話そらすんじゃないよ!! ――って、どうしたんだい?」


 ――所変わり、ベルゼブル号バルフレイ専用武器倉庫。

 バルフレイの武器は兵装義肢パワーアームであり、肘から先のない右腕にパワーアームを相手に合わせて換装し、パワー戦からスピード戦まで幅広い対応を可能としている。

 更に言えば、それぞれレムレース特有の異常気象に対応できるよう、局地戦用などの用途に応じた分類も用意してある。

「よし、今日はこれにすっか」

 チェーンソー、ドリル等の近接戦闘から、フレイルやワイヤー式噴出型アーム等の中距離、ロケットランチャーやライフルなどの、遠距離まで金に糸目をつけずあらゆる戦闘を可能にする、彼自慢の一大武装義肢コレクション。

 その内の1つを手に取り、右腕にまず嵌めこみ――右腕に装着し始める。

 彼は武器の1つ1つを自身の手で整備し、装着も自分自身の手で全て行っており、装着手順の1つ1つを馴染ませる様に、そして一体化をイメージする様に、ゆっくりと丁寧に行う。

「――はっ!」

 近距離戦闘用の重量型アームを取り付け終わると、まず手をグーパーして動作を確認し、一歩踏み出し正拳突き。

「――よし!」

 動作も馴染み具合も問題なし。

 確認し終わると、彼は表情を引き締め部屋の外へと出て――一路操縦室へと向かう。

「何やっとんじゃお前ら!! 砲撃しとけっつっただろうが!!」

「頭! それどころじゃありやせんぜ! あれ!!」

「ん?」

 ある一点を指さすドーガに言われるままに、バルフレイは双眼鏡を取り出し――

「っ!」

 指差した先を見据えた眼を、ぎょっと見開いた

「――こりゃどういう偶然だあ? まさかこんな所で、しかも仕事のターゲットと一緒に、コウキ・クオンに会えるたあよお」

「それじゃいっちょ出撃と……」

「行くかクソボケ!! お前らは1人残らず逃がさん用に弾膜張ってろ! あいつはオレの獲物なんだからよ!!」


 ――所変わり、地上。

「――急げ急げー!」

 コウキ達は荷物を纏め、寝起きの身体のままで一路列車の突っ込んだ鉱山目指し、ダッシュしていた。

「あのハエの様な飛空船とは、お知り合いなのですか?」

「知り合いも何も、仕事上で因縁がある敵だよ。更に言えば、あんた達に確実にとどめ刺す為の刺客でもある――更に言えば、頭はあんたでも苦戦を強いられる位強い」

「レナお姉さまで、ですか?」

「覚えときな、ユミお嬢さん。世界は広いって事だよ」

 侍女エリーを背負いながら走るコウキの、苦虫をかみつぶした顔を見て、ユミもただならぬ雰囲気を感じたのか黙って走り続ける。

「で、なんで鉱山に向かってるんだよ?」

「ユウキとユサミは戦闘用の魔法使えねーだろ? だから“カーム”での戦いの方が有利なんだよ」

 共存歴以降、魔法は深く浸透してはいるが、それはあくまで生活の為の必要最低限の物。

 戦闘用魔法ともなれば、公にすると危険なので貴族か騎士団以外では、まず学ぶ事は絶対に出来ない。

「フォン様には、教わられてないのですか?」

「いえ、全然――というかお母さん、戦闘魔法苦手だったらしくて」

「――生身で数々の伝説を打ち立てるほどだもんな。これで魔法まで使いこなしてたらって、想像もつかねえよ」

「以上の経緯から、魔法なしで戦った方が有利だと判断したからです」


ボォォオオンッ!


「!」

「砲撃!? くそっ、見つかったか!?」

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