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一日目 朝

 今日は入学式だ。


 いつものことながら……と途緒ルネは思う。

 ゲームトリップした時はいっつもこうだ。

 ゲームキャラとの同期に時間がかかるのだ。


 自分がルネなのかとか今日ある出来事はわかっても、今までの人生とか昨日食べた晩御飯とかは思い出そうにも思い出せない。

 まだ、ルネと一体化ができていないのだ。


 そして……そういう時には途緒の秘められた能力、秘密シークレット手段リゾートは発動しない。

 ある程度ゲームに慣れないといけない。それまでに何回か死ぬこともある。

 アクションゲームとかならそれでもかまわない。


 だけど、これは長期間リセット不可の恋愛シミュレーションのようなのだ。


 序盤とはいえ、秘密シークレット手段リゾートなしで進めていくのはつらたんだ。


 だけど、後戻りはできない。


 ルネ・ハフーガとして最良の行動を選び続けるしかない。


 そしたら後半で挽回もできるだろう。


 時刻は午前四時半。


 まだみんな寝静まっている。


 ルネは、そっと部屋を出た。情報が必要だった。


 ルネの部屋もそうだったが、部屋の外も古い洋館のようだった。


 だけど古くない。中世ヨーロッパ的な雰囲気の建物。


 結構広い。


 広いけど、歩き回れるスペースは限られていた。


 何故か途中で進めなくなる廊下とかがある。


 ゲームではよくあることだ。

 設定上は部屋が割り当てられてるんだけどゲームでは登場しない部屋などの場合。

 そういう時は、見えない壁が立ちふさがる。

 そんなときは気にしないのが一番。


 いろいろ歩き回った収穫。

 書庫があったこと。変な文字で書かれているけどルネには読めた。

 魔道書とか内政の基本とかの本が多かった。レシピ本とかもあった。

 今後いろいろな役に立つ可能性が高い。


 食堂っぽい部屋には椅子が6脚。六人家族ということだろうか?


 あと、攻略対象ヒロインの自室っぽい部屋が3部屋。

 今後、ちょくちょく訪れることになるのかな?


 夜が明けそうだった。


 ルネは一旦自室に戻った。


 気が付くと、二度寝してしまっていた。


 時計を見る。


 ヤバい。遅刻だ。


 今日の新入生歓迎イベントに遅れそうだった。


 ルネは急いで身支度を整えて朝食も取らずに部屋を飛び出した。




 食パンを咥えながら走らなかったことが功を奏したのか、曲がり角で誰ともぶつからなかった。


 だけど、さすがに初日。攻略対象(ヒロイン)に出会わずに学校に着けるかというとそんなことはない。


「あら? おはようルネ。遅刻かしら? 入学式かしら?

 落第したんでしたっけ?

 ごきげんいかが?」


 と、金髪縦ロールがドリルみたいになった髪型をした少女に声を掛けられた。

 豪華な馬車の窓から顔を出してこっちを見てくる。


 えっと、この人は……?


 ルネに記憶がよみがえる。

 幼馴染のラナ・ディクステインだ。

 中級貴族のお嬢様で、平民の家庭で生まれたルネとは育ちも違えば家柄も違う。

 だけど何故か幼馴染。


「落第は……、してないわよ、多分」


 とルネは返した。口調が……トリップ一発目(女神様との会話を除く)で、まだルネとしてのキャラを確立できていない。


『なに? なんなのそのおかしな喋り方? いつもと違うんじゃないかしら?』


 というふうな視線を向けてくるラナに向けて、


「落第はしてないよ。今日は入学式だから、上級生の僕たちで歓迎セレモニーがあるんだよ」


 と言いなおす。上々の滑り出しだ。


「あらそうなの? 下々(しもじも)のたみの通う学校は、お金を掛けられないから大変ですわね」


 などとラナは、傲慢にも学園長が聞いたら腹を立てそうなことをずけずけと口にする。

 おもわずルネはつたない記憶を頼りに反論した。

 何故だか言わずにはいられなかった。


「うちの学校にだって、貴族は通ってるよ!」


「あら? そうだったかしら? そういえばそうね。


 貧乏貴族と平民の学校でしたわよね。


 では、わたくしはこれからお買い物に行きますから。


 あら? そういえば、方向が同じですわね?


 お乗りになります?」


 と、ラナは尋ねてくる。


 そしたら、ルネの頭上に選択ボックスが現れた。


 うん、頼むよ!


 いや、また今度!


 実は前からラナの事が好きだったんだ!


 うん、よくある三択だ。みっつめが異常に気になる。

 だけどこんな序盤で博打ばくちは打てない。


 親切設計のRPGとかなら、

「勇者よ、魔王を滅ぼす冒険に出てはくれんか?」という王様の願いに、

「いいえ」を連発しても、「そこをなんとか?」や「いや、いまのは聞かなかったことにしてやろう。もう一度聞くぞ?」

 と「はい」を選ぶまで延々と質問を繰り返すこともあるのだけれど。


 このゲームが親切設計なのかシビア設計なのかまだわからない。


 それに……、さっきから気になってたけど、ラナとかいう金髪少女。


 妙に頬が紅潮している。口ではエラそうなことを言っているが、その実ルネへの好意が見え見えだ。


「お乗りになります?」なんて台詞も、


「乗っていきなさいよ。そんでわたくしと車内で親交を深めましょうよ。


 ほら、馬車がね、急ブレーキとかで急停止してそのひょうしに抱きつきイベントを発生させてやるんだから!」


 に翻訳されてしまう。


 これは……、出会って既に惚れている。『スデポ』のパターンだ。


 告ったら、そのままハッピーエンドという可能性が急浮上してくる。


 だめだ。3は選べない。


 彼女が『アタリ』である確証もない今は無理だ。


 ルネは無難に、


「いや、また今度!」


 と腹に気合を入れて断った。


 だけど……、ラナはすぐに立ち去ってくれなかった。


「あら? わたくしが折角申し出て差し上げているのに。


 本当にそれでいいのかしら?」


 と更なる質問を繰り出してくる。


 またもや選択肢。


 やっぱり、頼むよ!


 やっぱり、また今度!


 ラナの事が大好きだ!


 念を押さなくていいのに……と思いながら、再度お断りをいれる。


「やっぱり、また今度!」


 それでもラナは立ち去らない。スデポ怖い。


「そうなの?」


 と聞いてくる。選択肢は、


 そう


 そうじゃない


 ラナを愛している


 これは……。罠だ。あいまいだ。ラナの言う「そう」が何を意味しているかもはやわからない。

 文脈から言えば「また今度」が「そう」なのだろう。

 だから、一番を選べば、断ったことになるはずだ。


 だけど選択肢的にも断るのが2番目なのが続いている。

「そうじゃない」を選ぶとラナの申し出を断って馬車に乗らずに済むのだろうか?


 だけど、やっぱり迷う。


 なんで、こんな序盤で、しかも女神様を除いた初出の攻略対象(ヒロイン)で、こんなに迷わなければいけないのよ!


 ルネは一か八かで「そう」を選択した。

 どれも選ばないという選択もあったのだけれど、それだと強制的に馬車ルートが待っていそうだったからだ。

 ラナの目はぎらぎらと輝いている。得物を狙うスナイパーのそれだ。


「そう」


「ルネにはルネのペースがあるのよね。残念だけど、ルネを馬車に乗せるのは諦めるわ。 

 ではごきげんよう」


 それが正解だったようだった。ようやくラナは馬車に乗って行ってくれた。




◆今回初紹介の攻略対象ヒロイン


ラナ・ディクステイン(17)

性格:ワガママ

属性:幼なじみ

外見:お嬢様系・金髪ドリル・巨乳

備考:中級貴族の次女

ポ:出会って既に惚れている『スデポ』


◆今回登場の攻略対象ヒロイン

ラナ:あたくしの馬車にお乗りなさい!

 (馬車の窓からの顔だけの登場で巨乳については確認できず)

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