二日目 朝の時間2
突然の事態にルネは驚いた。
桑島途緒。30代(ほんとの歳を書くと、モデルの人に怒られる)もしくは20代。
現実世界の途緒の肌はもちろんこんなにすべすべしていない。艶だってない。
だけど、その顔、その雰囲気。そして名前まで。
どっからどうみても自身の生き写しである。
可能性を辿る。
A:実際にオオアタリというゲームには、ミッツィ・クァシマールという人物が登場する?
B:自分の存在やこれまでの行動がゲーム内世界になんらかの影響を及ぼした?
C:神様のいたずら?
そのどれであっても、さしあたって問題がないことに気が付いた。
所詮はゲームである。
攻略しないと現実世界に帰れないという、ひどい状況だけど、逆に言えばクリアしたらゲームから外に出られるのだ。
もちろん、自分の顔をしたキャラクターが存在するのなら、幸せになってほしい。
だけど、女の幸せっていうのはいい男に巡り合うってことだけじゃない。
あたし自身と付き合ったってなんにもいいことなんてないよ。
と途緒は思った。
仮に……、本命がミッツィだったとして。
それでも、やること自体は変わらない。
攻略対象たちの好感度を見たり、ゲームの攻略情報を覗き見たりしながら、進めていくだけだ。
とりあえず落ち着こう! 話はそれからだ!!
とまごまごしているうちに、ミッツィから話しかけられていることに気が付いた。
落ち着こうって決めたのに。
深呼吸を繰り返したのに。
どうしても、鼓動が早くなる。
息を止めて一秒以上、ミッツィが真剣な目をしているから。
そこから、何も見えなくなりそうで、星屑ロンリネス。
なんて、詩的な表現を思い描いている場合でもない。
「久しぶり」
いうに事欠いて、ミッツィの第一声はそれだった。
「久しぶり?」
ルネとしての口が勝手にそのセリフを吐いたが、心の内も同様であった。
聞き返す以外の選択肢なんてありえない。
「なんで? なんでそんなこと言うの?」
ミッツィは泣きそうな表情になる。
えっと、地雷……踏んだかな?
「春休みの間会ってないから、久しぶりでしょう?」
なるほど。ようやく思い出してきた。
設定上は、ミッツィは去年も同じクラス……じゃあない。
「覚えてる? あの時のこと?」
ミッツィが問いかける。
返答を誤ればバッドエンド一直線。
理由はなくともそんな予感がする。
そしてここで、絶対選択肢の登場。
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■▽メキシカンクラッチ
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■ メキシカンサウナ
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■ メキシカンタコス
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(なんなのよ! この三択は!)
なんなのよ! この三択は!
「なんなのよ! この三択は!」
システムに抗って声を挙げてしまったルネだったが、ルネが選択肢を選ぶまで、周囲の時間は凍結している。
時が止まっているのだ。
その間にルネはじっくりと考えることができる。
とはいえ、制限時間は60秒ほどだった。
とにかく理不尽なような気がする。
これは、バグだと直感が告げる。
でも、選ばないことには、ゲームが進まない。正確には選ばないと時間切れということになってゲームは進んでいくのだが、ルネはとりあえずやぶれかぶれで、
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■ メキシカンクラッチ
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■ メキシカンサウナ
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■▼メキシカンタコス
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メキシカンタコスを選択した。
なぜならば、それが一番おいしそうだったからだ。
「そうそう、ふたりで食べたメキシカンタコス。
おいしかったね」
ミッツィが微笑みかけてくれた。
そんなイベントがいつの間に挿入されていたのか。
記憶を手繰るもメキシカンなエピソードには到達しない。
ルネが頭を悩ませていると、
「って、な、なんでやねん」
イントネーションのおかしい関西弁で恥じらいながらノリ突っ込み(しかも格段に滞空時間の長い)を入れてくるミッツィ。
そして……、二人は恋に落ちた。
fallinlove.