一日目 ジャージ
攻略対象達に囲まれて、昼食を食べ終えた。
その後、ルネはとりあえず自室に帰った。というか、体が勝手に動いた。
「ちょっと! ごちそうさまも言わずにどこ行くの!」
誰かが言った。血縁的なののある攻略対象の誰かだ。
その中には法的に許されるもの――いとことは結婚もできたはず――もいるし、倫理的に大丈夫――義理の妹とか、法的には手を出しちゃだめだけど、それを言ったらおしまいの昼のメロドラマとかが昭和の古き良き時代には沢山あったと聞く――な人とかいろいろいる中での誰かだ。
「いや、ごめん!」
ルネはそれだけ言うと自室に引き上げた。
私服に着替えるところまではフルオート。なんかゲーム内の強制イベントまでの残り時間的なものがあって、それが危うくなるとこういった現象が起きるのかも知れない。
今後も注意しておくべきだ。と途緒は思った。
着替え終わると電話がかかってきた。
携帯の表示を見ると、『タニグーチ』と出ていた。
タニグーチの情報が頭にインプットされる。モブキャラだ。去年のクラスメイトだ。
男子生徒だから攻略対象じゃない。このゲームはそこまでトチ狂ってはいない。
ボクっこどまりだ。あれ? そういえば……、未だ消化していない。「げぇぇぇ! お前! 男だと思ってたら女だったのかよ」イベント。
きっとそういう娘もいるんだろうけど、はて、エンカウントしたら情報がポップアップして攻略対象とわかるシステムだし……。
とかなんとかルネが考えていると、またもや体が勝手に動き出した。
勝手に携帯の通話ボタンを押して、耳に当てる。
『おう! ルネか? これからさ、タニヤーマと一緒に遊ばないか?』
そこでポップアップ。忘れかけていたアレである。
どうやら三択問題は攻略対象相手じゃなくても活用されるようだ。
■
■▽おうっ! いいぜ!
■
■ なにするの?
■
■ また 今度な
■
今回からバージョンアップしてカーソル『▽』が表示されるようになりました。
二つ目の『なにするの?』 の意味がわからない。何故ここで分岐を図るのか?
二択じゃいけなかったのだろうか? 『誘いに乗る』『誘いを断る』みたいな。
そもそも、口調が強制されているのも気になるし、若干不統一だ。
『いいぜ!』『また 今度な』なんて快活で、男臭いキャラっぽいのに、『なにするの?』はなよなよしい。同じ人間の口から出る言葉だろうか?
自分の普段使いの口調はどちらに統一すればよいのだろうか?
そもそも『また 今度な』の『また』と『今度な』の間の空白が非常に気になる。
『また今度な』あるいは『また、今度な』ではいけなかったのか?
文章的に記号の後は一文字あけるルールらしいから『おうっ! いいぜ』は正しい。
横道にそれていると制限時間が無くなりそうだったから、適当に『なにするの?』を選んだ。
思い描くだけでカーソルが移動する。
■
■ おうっ! いいぜ!
■
■▼なにするの?
■
■ また 今度な
■
白は未選択、黒は決定だ。ちなみに、こういった三択クイズの時の制限時間はケースバイケースで変わるらしい。だから、ゆっくり考えられるときもあれば、さっさと決めないといけない時もある。
このゲームの作者が考えたわけではなく、もっとルーツは他にあるだろうけどよくできた仕様だ。
『なにって、ぶらぶらだよ。いつものことじゃんか?』
と、電話口から、タニグーチだかタニモートだかの声が聞こえてきた。今後、主人公ズのメンバーであるタニヤーマだか、タニザーワだかはちょくちょくと現れるが一切書き分けない覚悟であることを表明しておく。
ああ、やっぱりメタに書くのって楽ちん。
『どうすんだよ? 行くのか行かないのか?』
また選択肢がポップアップする。
■
■ ああ、行くよ!
■
■ 今日はやめとくわ
■
■▽どっちにしようかな~。
■
本話はさっさと繁華街に繰り出して、攻略対象の一人や二人と出会う話なのである。
こんなところでのんびりしていられない。
なのに、誰の作意であるのか、カーソルは決めきれられない男。
煮え切らない男の代名詞である『どっちにしようかな~』にフォーカスされている。
こんなの、女が言っても鬱陶しいわよ! と途緒は思った。
だが、遊び心から、『どっちにしようかな~。』を選択してみる。
■
■ ああ、行くよ!
■
■ 今日はやめとくわ
■
■▼どっちにしようかな~。
■
決定したから、カーソルは黒。
そしたら、また、タニヤーマだかタニグーチだかが、
『どうすんだよ? 行くのか行かないのか?』
と言ってくる。
ポップアップも出た。
■
■ ああ、行くよ!
■
■ 今日はやめとくわ
■
■▽どっちにしようかな~。
■
選ぶ!
■
■ ああ、行くよ!
■
■ 今日はやめとくわ
■
■▼どっちにしようかな~。
■
『どうすんだよ? 行くのか行かないのか?』
念のためにもうに2回ほど繰り返す。
■
■ ああ、行くよ!
■
■ 今日はやめとくわ
■
■▽どっちにしようかな~。
■
選ぶ!
■
■ ああ、行くよ!
■
■ 今日はやめとくわ
■
■▼どっちにしようかな~。
■
『どうすんだよ? 行くのか行かないのか?』
どうやら、ループするようだった。百回目ぐらいでなにか変化するかもしれないが、タニヤーマの通話料とかも心配だ。カケホーダイかどうかもわからない。
そもそも、中世的なこの世界でケータイって! と思った。焦った。すっかり忘れていた。
つらたん書いている気持ちになっていた。あんな乙女ゲームじゃなかった。
なんか中世的ヨーロッパ的な世界な恋愛シミュレーション(男向け)だった。
しょうがないので、魔力で、ケータイみたいな機能が実現されていることにする。
呼称はケータイ。正式名称は魔力式小型携帯式移動通信端末だ。
■
■ ああ、行くよ!
■
■ 今日はやめとくわ
■
■▽どっちにしようかな~。
■
可哀そうだから、行くを選ぶ!
■
■▼ああ、行くよ!
■
■ 今日はやめとくわ
■
■ どっちにしようかな~。
■
この選ぶとカーソルが黒くなる仕組みは全然意味がないなとおもった。
『じゃあいつものとこで!』
と電話、もといケータイは切れた。
いつものとこってどこだよ! とルネは思う。
思えば、通学路も帰宅路も道なんて知らなかっただし、適当に歩いて行ったら着くかと勢いで出発した。
あと、街へ出る際に自身のパラメータがポップアップした。
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※ ルネ・ハフーガ____※
※ 所持金2000G____※
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なるほど。お金もあるということは、買い物もできるはずだ。
ポケットを確認すると財布が入っていた。多分、本来のゲームならここでチュートリアル的な流れで金銭感覚とかを身につけされられるのだろう。
はっと、気づいた途緒は自身の姿を確認する。
バンパイアとか魔族とか性質の悪い妖怪とかと一緒で、この手のゲームの主人公は鏡を見ても、水面を見ても自分の顔は絶対映らないから――あるいは影になって見えない――、男前なのか三枚目なのかわかりかねるが体は見える。
中肉中背。
そしてその出で立ち。
水色でラインの入ったジャージ!!
所持品を確認するも、
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※ ※
※ ださいジャージ(上下) ※
※ ※
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以上!! 靴とかは服装に合わせて変わるようだし、学生服は標準装備だったようだが、私服がジャージって!!
(あと、この※で囲まれた四角いところ。
編集画面だとちゃんと四角いのに閲覧画面だとずれてしまう。
わけわかんない。見栄えを良くする努力は放棄します。)
しかし、出発の時は刻一刻と迫ってきている。
時間が切れたら勝手に歩き出すのだと思う。
ルネは意を決して、玄関へと向かった。
好感度に影響するかも知れないこの服装。
さっさと普通の服に着替えたい。
妹たちや姉やいとこたちに見つからないようにそっと家を出る。
そもそもなんで中世欧州風のこの世界観でジャージなんだよ!
今回攻略対象はこれっぽちも登場しませんでしたね。
こんなはずじゃあなかったのに……。
サブタイトルも、『一日目 繁華街』を予定していたのをジャージに変えました。
そんなことは後書きに書けって? いいじゃないですか。
画面上だとほんの数センチの差でしょ?
本作人には作者がでしゃばる前書き、中書き、あとがきが、神出鬼没に本文中に登場します。
ご了承ください<(_ _)>