突然のオファー(17)
親はいつも遅くまで仕事があるため、俺は適当に飯を済ませ、言われたとおりに台本に目を通していたのだが……。
……やべぇ、すっげぇおもしろい。何だこれ? そこらへんの文庫本よりも全然おもしろいよ先輩。まるでプロのライターみたいだ。
話の内容はこうだ。
主人公、レイエスは、コンバルティー王国、王国騎士団の隊長だった。冷静沈着でどんな状況にも慌てず、自分の役割を全うできる切れ者で、剣の腕前は王国一である。そんな彼には一人の幼なじみがいた。名はロップ、魔法使いで、主に回復系の呪文を得意とするとても優しい子だ。戦いから帰ってくるレイエスを、いつもロップは気遣っていた。二人は想いを口に出すことはなかったが、互いに好き合っていた。そんなある日のこと、突然世界は闇に覆われた。暗影の神、ゼルベクトが復活したのだ。このままでは世界が終わってしまう。いてもたってもいられなくなった二人は、コンバルティーを飛び出し、ゼルベクトを倒す旅へと出た。村という村、街という町を回り、ゼルベクトの情報を探し回った。そんなある時、ミルドというレイエスと同い年くらいの戦士と二人は出会った。彼女もまた、二人と同じでゼルベクトを倒すための旅に出ていた。同じ志を持っていたため、二人はミルドを受け入れ、共に旅をすることとなった。ミルドは弓使いで、百発百中と言えるほどの腕前だった。さらにミルドは、ゼルベクトに関しての情報をたくさん入手していた。彼に付き従う敵、居場所など様々なことを二人は知ることになる。彼の居る場所は、地底大陸レドラー、妖精のみが行き方を知っている人跡未踏の地だった。また、そいつを倒すためにはある道具が必要だった。それは、エウメルの鏡、それを使わなければ、完全にゼルベクトを封じることはできないと言う。そこで、三人は一先ず妖精の村、エルフィーラへと向かった。そしてその場所で、妖精の少女エリアルと出会った。長縄術を使う三人に負けず劣らずの腕前を持つエルフィーラ一の実力者だった。三人が経緯を話すと、彼女は力を貸してくれることになった。エウメルの鏡はその地に安置されていたようで、全ての条件は整った。エリアルの導きにより、一向は地底大陸、レドラーへと向かった。光はなく、全てが黒一色の不気味な世界。その奥底まで進むと、ついにゼルベクトは姿を現す。四人は立ち向かった。だが、ゼルベクト相手に傷一つ付けられなかった。周りがやみに覆われているため、とてつもないパワーが彼の体に蓄えられていたのだ。彼らは光を探した。だがここは地底大陸、照らすものなど何一つとしてなかった。もう駄目かとあきらめかけていたその時、突然ロップの体が光りだしたのだ。その姿を見た時、レイエスの顔は蒼白になっていた。ロップが発動した呪文は自分の命と引き換えに体内に存在するエネルギーを全て開放して使うスパークルソウルビームだったのだ。レイエスは叫んだ。喉をつぶしてしまうくらいに。だが、ロップはやめることをしない。かわりに、私に分まで生きてねと言って、にこりと微笑んだ。レイエスの目からは涙がじわっと溢れた。光線となったロップは、ゼルベクトにクリーンヒットし、ゼルベクトの体に風穴を開けた。三人は鏡を掲げた。ゼルベクトは悲鳴をあげ、鏡の中へと吸い込まれ、この世から消滅した……。こうして、世界の平穏は保たれた。命を捨てて世界を守った一人の少女のおかげで……。レイエスはその日から毎日、彼女の墓の前で一日を過ごしていた……。
ビターエンドのファンタジーストーリー。見事、という言葉しか見つからない。超大作になってもおかしくないと思う。これも本村先輩の性能だろうな。目を閉じてイメージすると、その様子が浮かんでくるようだ。
でも、一つ問題があった。
それは、俺が演じるであろう主人公、レイエスの台詞である。正直、半端じゃない量だった。それに難しい言葉が多々盛り込まれている。そういった性格だというのは理解できるが、俺が果たして実行できるのかどうか。俺はレイエスではなく、成松雄慈郎だからな……。どうするか……。もうすでに挫けそうである。だが、約束してしまったし今から無理っていったって取り消されることはないだろう。とにかく、何度も読み返すしかないな。悩むより行動、それに、あきらめるのは駄目、だもんな。今日は寝られないかもな。俺はもう一度最初のページを開いた……。




