混沌の中で見たもの(10)
そして連れてこられた先は――、
綾音先輩のところだった。その横でじっと横たわって眠っていたのは……。
「お、俺?」
そう、俺自身だった。体の部位という部位に包帯が巻かれ、とても痛々しい光景だった。そんな俺の手を、綾音先輩はぎゅっと握り締めている。
そして、小さな声でしゃべり始めた。
「ごめんね、雄慈郎くん。私なんかのために、こんな辛い思いをさせちゃって……。私って、本当に馬鹿だよ。まともに周りを見ることもできないし、人付き合いもヘタクソ。おまけによく転ぶし、しまいには男の子が苦手だなんて。でも、そんな私に、雄慈郎くんは優しく手を差し伸べてくれたんだよね。あの時私、すっごく嬉しかったよ。今までこんなに人に優しくしてもらったこと、数えるくらいしかなかったから。それを雄慈郎くんは、一人で何回も何回も、その回数を増やしてくれた。これは全部、私の心の宝箱に閉まってあるよ。大好きな雄慈郎くん……私、言えって言われれば、雄慈郎くんの良い所軽く100個は言える自信あるよ。
……伝えたい、伝えたいよ、この気持ちを。この気持ちを、あなたに伝えたいの。嘘偽りのない、この言葉を。だって私、あなたのことが大好きなんだもの、……世界で一番あなたが好きなの。だから……お願い、戻ってきてよ、雄慈郎くん……」
「綾音、先輩……」
俺の愛した人の言葉は、今まで見てきた中で一番大きく、そして威力のある心の矢に変わり、俺の胸へと突き刺さった。
綾音先輩、そこまで俺のことを想ってくれてたんですね、嬉しいです。俺も……先輩に伝えたいです。胸の中にあるこの気持ちを……。
六本の矢は、俺の本心を覆っていた虚妄を跡形もなく破壊してくれた……。
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…………。
……。