混沌の中で見たもの(7)
「お前は、本当に自分が死ねば、周囲の者は気を遣わなくて済むし、心配事がなくなって喜んでくれると、そう思っているのか?」
「……そう、じゃないんですか?」
「私は、そうは思わぬ。何故なら、みんなお前のことを好きだと思っているからだ。考えてもみろ、人はどうして心配というものをする? それは、その者のことを想っているからだ。大事な人が死んで歓喜の声を上げる奴などいるはずがない。違うか? 今お前が出した結論は、お前のことを想ってくれてる人に対しての侮辱にしかない。もっとよく考えるんだ。私が断言しよう、お前が死んで喜ぶ者など、現実世界に一人としていない」
「…………!?」
「お前は、昔からそうだったな。上の世界でよく話を伺った。人に対しての心配りは人一倍だが、自分のこととなると途端に自信を無くしてしまう健気な男がいると。雄慈郎、もっと自分に自信を持つんだ。世間に目を向けるんだ。今一度言う、お前が死んでも、誰も喜びはしない」
「そんな……はずは……」
俺が口ごもってしまうと、使いに人はにやりと笑った。
「ふ……俺は、神の使い失格だな」
そうつぶやいた瞬間だった。
使いの人は俺の腕を掴み、宙に浮かび始めたのだ。そして、俺のことをぐいぐいと引っ張る。
「ちょ、ちょっと、何処へ連れていくんですか?」
「お前に見せてやる、現実の世界をな」
「現実の、世界?」
「お前の周りの人がどれだけお前のことを想っているのか、実際に見せて分からせてやる」
「う、うわああああっ!?」
俺の体は現実へと落ちていく。
……………………。
…………。
……。