混沌の中で見たもの(1)
ん? ここは何処だ? やけに暗いな。それに何もない。もちろん、光なんてものは存在せず、ひたすらに黒一色だ。
気付いたら、俺はそんなところにいた。何でこんなところに? と思ったが特に焦りなどはなかった。どうしてだろうな? ……とにかく、少し歩いてみようか。もしかしたら、誰かいるかもしれない。
さて、どっちに行こうか。まあ、どっちでもいいか、どっちも同じ風景だし、特悩む必要もないだろう。俺は右のほうへと歩き始めた。
本当に何もないな、ここは。歩いていて思ったのはまずそれだった。よく見れば、俺の足下には足場が存在していなかった。しかし、何でだろうな。俺は全然慌ててない。本来であれば、それが分かった時には錯乱するはずなんだが……何て言うんだろう、ふわふわしていて夢を見ているような……夢……夢? その時、俺はここが何処なのかを理解した。
ひょっとしたら、ここは夢の中なのかもしれない。そう考えれば今までの感情に対しての説明は付けられる。夢って言うのは普段常識では考えられないことすら普通に思えてしまうことがよくあるはずだ。それ故、驚きってものがあまりない。だから、足場がなくても歩くことができるんだろう。……何となくだが、現状を理解することができた。
だが、一つ疑問があった。何かというと、俺自身のことだ。一体どうして、俺は自我を保ったままでいるのだろうか? 夢の中って、自分ではない違う人や違う性格になっていることが多いはず。なのに俺は、何にも変わってない。ただの成松雄慈郎である。そう考えると、やっぱりさっきの考えは間違いなんじゃと思ってしまう。
――まあいい、とりあえず歩いてみよう。一人で悩むよりも誰かに聞くほうが早いだろう。俺の第六感がそう言っている。
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