当日……そして……(13)
「くっ……」
ガシャンガシャン。
狙いが外れ、近場にあったパソコンが音を立てて足下に落ちる。
くそ、体が思うように動かない。それに、目の前も何だかかすんできた。早く、脱出しなきゃいけないってのに……。どうする、どうすればいい? せめて、綾音先輩だけでも……考えるんだ。気を抜けば今にも倒れそうになるのを堪えながら、俺は体にムチを打って指向を巡らす。
俺とアイツの距離は少しある。その間にはパソコンが二台、電話が一台、そしてコピー機が一台、それ以外には社員が座るためのイスと印刷用のコピー用紙があるだけ。ち、これじゃあどうしようもない。足止めはできても、出口へのドアには辿り着けない。まして俺はすでにフラフラ、動ける範囲にも限界がある。
くそ……刺されさえしなければ。
綾音先輩を見ると、ただ静かに恐怖に打ち震えている。
この人だけは……絶対に助けてあげたい。だって、約束したんだ、どんなことがあっても守ると。守り抜くと―。
たとえここで俺が死んだとしても、綾音先輩を守り抜ければ――本望じゃないか。
そうだ、俺は何を考えている。何故俺は自分も生きようと考えているんだ? そんな考えはいらない。綾音先輩を守ることだけ考えればいいんだ。死ぬ気でいけ、死んだって構わない。こいつから、綾音先輩を救い出すんだ。
俺は腹を決めた。
「さあ、そろそろ終わりにしようじゃないか。こっちもそろそろ限界なんでね」
そう言うと、天内はナイフを構えた。
「死ね」
天内は俺の元に走り出す。
助けることだけ、それだけを考えろ。ただ、それだけを……。
俺は――。
ザクッ。