当日……そして……(5)
「分かりました、じゃあ行きましょう」
俺はゆっくりと車イスを押し、綾音先輩の向かった方向とは逆のほうへと歩き出す。
今の時刻は四時を少し過ぎた辺り。さっきまで喧騒に包まれていた街中が、今は大分静を取り戻しつつあった。正直、同じ街中には見えない。まあ、ここの通りは夜は『シャッター通り』なんて呼ばれてるからな。全ての店が店じまいの時に安全を求める故に、シャッターで閉じることからそう呼ばれるようになった。だから夜は、ドラマとかで使われそうなちょっとしたセットみたいにも見える。
「うーん、今日は楽しかったわねー」
背伸びをしながら高宮先輩はそう言った。
「はい、そうですね。おもしろかったか? 真綾」
「うん、とっても。お兄ちゃんがいたから、いつもより楽しさ五割増しだったよ」
お、前より二割増えているな。前より楽しかったなら俺も嬉しい。
「特にカラオケね。雄慈郎くんてあんなに歌うまかったのねー。ふふっ、あの声だけでも何人も女の子を落とせそうね」
「とりこ……」
さっきからこればっかりだった。実は正午あたりにみんなでカラオケに行ったのだが、その時に歌った俺の曲がどうしてか気に入ったらしく、何度も何度も歌うことになってしまったのだ。何がよかったのか俺にはさっぱりなんだが……。聞いてみるか?
「綾音も上手だったけど、やっぱり私も雄慈郎くんね」
「一体何がよかったんですか?」
「え? うーん、そうねぇー、私たちは全てにおいてよかったと思うんだけどー」
何故そこまで俺のことを持ち上げてくれるのだろう、この先輩がたは……。
「後は……優しさかな」
「え? 優しさ?」
「ええ」
一瞬冗談かと思ったが、目を見る限り嘘ではないようだ。