当日……そして……(4)
「じゃあ私、そろそろ行ってくるね」
「俺、送りますけど?」
「ううん、ここからすぐだし、大丈夫だよ。雄慈郎くんは真綾をお願い」
「ああ、はい、分かりました。お安い御用です」
「うん、ありがとう」
そう言うと、綾音先輩は真綾に向き合った。
「じゃあね真綾。ちょっと行ってくるから」
「うん、夜には帰ってくるよね」
「うん、終わったらすぐそっちに行くわ」
「分かった、頑張ってねお姉ちゃん。私、応援してるから」
「ありがとう、真綾」
「綾音、頑張ってきなさいよ?」
「プロ入りのチャンスなんだからね」
「勝負は一瞬……」
「うん、分かった」
俺は一歩前に出る。
「頑張ってください、綾音先輩なら絶対にうまくいくって俺信じてますから」
「うん、ありがとう、雄慈郎くん」
綾音先輩は一度大きく深呼吸した。そして……、
「じゃあ、行ってきます」
「綾音先輩はやる気に満ちた顔をしてクルリと向きを変え、天内プロデューサーのもとへと歩き出した。頑張ってください、綾音先輩。心の中で俺はもう一度後押しして、綾音先輩が見えなくなるまで見守っていた。
「よし、帰るか真綾」
「うん、分かった」
「あ、私たちも行くわ。まだ電車まで時間あるしね」
「それに早く帰ってもつまんないしね」
「つれづれなり……」
先輩に付き合わせるのにはちょっと気が引けるが、本人たちが行きたいと言うなら無理に断る必要はないだろう。