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前日の憂鬱(10)
「駄目、かな?」
綾音先輩はものすごくクリアな眼差しで俺を見つめてくる。ぐ、ものすごくかわいい。いや、断る理由はさらさらないんだが……応答のしかたが分からなくて……。
あまり、気にすることもないか。何とでもなれ、時の流れに身を任せろ。
「いいですよ」
「え?」
「俺なんかでよければ……」
「うん」
もはや格好いいもへったくれもなかった。
俺は軽く身をかがめ、綾音先輩は背伸びをして、そっと唇を合わせた。すごく柔らかくて、ふわふわとしていた。ただ重ね合わせただけのキスだ。でも、俺たちは満たされていた。
「分けられましたか? 俺の力」
「うん、とっても」
綾音先輩はそう言ってにこっと笑った。
「よし、じゃあ真綾のところに行きましょう」
「うん、そうだね」
俺たちは顔をほころばせながら、真綾のいる病室へと向かったのだった……。
これで全て終わったと思ったんだが……まだ、終わりではなかった。