前日の憂鬱(9)
笑ってごまかそうとしている。いや、まさかとは思うが図星? 確かに色々とあったけど、それを忘れるってのはどうよ? 口に出しては言わないが……。ともかく、滅多にないチャンスだ。ただ、ひたすら頑張ってアピールしてほしいところだ。
「精一杯頑張ってくださいね、真綾のためにも」
「う、うん。姉として、いい見本にならなくちゃ」
「ええ、その意気です」
「あ……雄慈郎くん」
「はい、何ですか?」
「あの、一つ、お願いしてもいいかな?」
「ええ、構いませんけど……」
「その……あの……えっと……その……」
突然綾音先輩の顔がりんごのように赤くなった。俺、何かしたか? もしかして顔に何か付いてる?
そんなことを考えてると、
「き、キス……してくれないかな?」
と、綾音先輩は小さな声でそう言った。
「ええ?」
激しく予想外のお願いに俺はひたすら狼狽した。き、キス? 綾音先輩にしては大胆な発言だ。一瞬エクトプラズムしてしまうかと思いましたよ。いや、でもそんなにビビる必要はないのだろうか? 以前にもしたことはあるわけだし、それに付き合っているならそれくらい当たり前のこと……だよな?
「今さっき頑張るって言ったんだけど、やっぱりちょっと不安で……だから、雄慈郎くんの力を分けてもらえたら嬉しいなって思って」
「…………」
こういう場合、何て答えるのが正しいんだろう。度胸のない自分に少々自己嫌悪してしまう。