前日の憂鬱(7)
しばらくして、泣き止んだ綾音先輩は、真綾について語ってくれた。
「真綾の名前の由来は私だって、お父さんは言ってたんだ」
「そうなんですか? ……あ、確かに名前に同じ『綾』が入ってますね」
「うん、私のように純粋で、真面目な女の子に育っほしい。だから真綾なんだって」
「いいですね、そういうの。それだけ綾音先輩はいい子だったってことですよ」
「ううん、そんなことないよ。私、臆病で怖がりだもの。だから真綾も、私の悪いところを受け継いじゃってるし」
「悪いところ?」
「うん、実は真綾は、生まれつき体があまり強くないの。他の人よりも風邪とか咳とかしやすくて、結構病気がちなんだ」
初めて知った。真綾が体が弱い奴だったなんて思ってもみなかったから……。
「見た目だけなら、確かに普通の女の子たちと変わりないんだ。人並みに勉強もできるし、足も遅くない。でも、それは生活のリズムによって分かっちゃうの。あの子は、一ヶ月置きくらいに風邪を引いちゃうから」
「そんな頻繁に、ですか?」
「うん、ひどい時は二週間に一度。そんな子だから、周囲の人はそれをおもしろがってよく虐めたりするようになっちゃって……」
だからあのガキ共が……もっとガツンと言ってやればよかった。
「あの子は、よく孤立するようになった。真綾と一緒にいたら、次は自分たちも虐められるかもしれない。仲間の子たちはそう思ったんだろうね」
何て奴らだ、自分が虐められたくないから真綾から離れるだと? そんなの仲間だなんて言わないじゃないか。薄情な連中に俺はむかっときてしまう。