前日の憂鬱(4)
「座りましょうか?」
綾音先輩は何も言わずに、こくりとうなずいて俺の隣に腰を下ろした。
それっきり、また会話が途絶える。話さなければいけないことはすでに分かってるんだが……
綾音先輩の顔を見ると少し躊躇われる。
ダメだろ、俺、父さんに頼まれたそうだが、それに綾音先輩は、俺の大切な人じゃないか。勇気を出せ、言うんだ。そして――、
「あの、綾音せんぱ――」
「私って……馬鹿だよね」
しゃべり始めようと俺だったが、先に綾音先輩が口を開いた。
「馬鹿だよね、雄慈郎くんのほうばっかり目が行っちゃってて、真綾のことをほったらかしてた見失っちゃってたなんて。姉として、一番やっちゃいけない事を私はやっちゃったんだね……」
「綾音先輩……」
「いいんだ、言いたいことは分かってるよ。でも、今回は全て私が悪いの真綾のことをほったらかしてたこの私が。だから喧嘩しちゃって、こんな事故が起こったんだよね。誰も悪くない、全ては私のせいが」
「そんな、そんなに自分のことを責めないでくださいよ。誰のせいでもないんです。不運が招いた事故です」
「そんなことない、その不運を招いたのは私だもの。私が馬鹿だからこんなことが起こったんだよ」
「そんなはずありません、綾音先輩は馬鹿なわけないじゃないですか。綾音先輩――」
「私は、優しくなんかないよ」
今正に言おうとしたことを、綾音先輩は先回りして否定した。