前日の憂鬱(3)
「とりあえず、命に別状はありません。ただ、アキレス腱が切れてしまっているので……八か月程リハビリが必要ですね」
「入院ですか?」
「そうですね、しばらくはこちらで入院するのがよろしいかと……」
「そうですか……」
とにかく、命に別状がないことは安心したが、アキレス腱が切れているというのはさすがにびっくりした。確かにリハビリすれば治るというのは分かるが……綾音先輩のことを考えると……。
黒の絵具で上から全部塗りつぶされたような、そんな暗い感じになっているはずだ。いても立ってもいられなくて、居た堪れない心情。そんな風な様子が、綾音先輩から読み取れた。
その後、俺たちは真綾に会いに行った。さすがにショックを隠しきれないのか、真綾にいつもの元気はなく、大丈夫だよと口数少なくそういうばかりだった。部屋に着くや否や、綾音先輩はだっと、真綾に駆け寄り、何度も何度も謝っていた。別にいいんだよ、私のほうこそごめんね。真綾は笑ってそう返していた。その時こそ笑みを取り戻した綾音先輩だったが、心底安心している様子じゃないことは明白だった。
後で綾音先輩に会いに行こう。
俺はそう思った。
俺は綾音先輩と一緒に病院の周りを散歩していた。いつものような会話はなく、ただゆっくりと歩みを進めているだけ。何かをしゃべろうとは思ったのだが、変に気を遣うのはかえって迷惑になると考えたのだ。それに、今の綾音先輩はしゃべる気力も無さそうだったしな……。