前日の憂鬱(2)
走ったおかげか、病院には十分足らずで到着した。
中に入ると、高宮先輩たちや綾音先輩の両親がそこにはいた。綾音先輩は一人離れてイスに腰掛け、手で顔を覆っている。
「こんにちは」
今綾音先輩に話しかけるのはあまりにも酷故、高宮先輩たちに俺はあいさつをした。
「成松くん……」
「大変なことになりましたね……」
「ええ、そうね……」
「君が、雄慈郎くんかね?」
綾音先輩の両親が俺のほうにやってきた。とても感じの良さそうな人たちそうなのだが、今はさすがに元気がない。
「こんにちは」
「こんにちは、わざわざ足を運ばせてすまなかったな」
「いえ、そんなことは……どうなんですか? 容態は……」
「命に別状はないみたいだが、後遺症は少し残るかもしれない。足を強く打ってしまってな。今は手術中だ」
「そう、ですか」
「綾音とけんかをしてしまって、真綾は家を飛び出したんだ。綾音はそれを必死に追いかけたんだが……その時に、バイクとぶつかってしまって……」
「…………」
「きっと綾音は傷ついているんだろう。自分のせいで真綾はケガをしてしまった。あの子はネガティブだからね、一緒にいてくれた君ならもう少し知っていると思うが……きっとすぐには立ち直れないだろう。だから、雄慈郎くん」
「はい」
「綾音のことを助けてくれないか? 聞けば明日はプロデューサーと面会するらしいじゃないか? このままではきっと失敗に終わってしまうだろう。あの子には少しでも自分の夢に近づいてほしいと思ってる。ぶしつけですまないが、聞いてもらえないだろうか?」
考えるまでもない、最初からそのつもりだった。
「分かりました」
「ありがとう、やはり、君は優しいな。綾音が好きになる理由が分かる気がするよ」
そういうと同時に手術中のランプが消え、医者が中から顔を出した。
「先生、娘は大丈夫なんでしょうか?」
綾音先輩の母が心配そうに尋ねる。