前日の想い(5)
「いよいよ明日ですね」
ジャム色に染まっている河川敷の道を、俺たちはゆっくり歩きながら帰っていた。正直、こっちから帰る理由はない、遠回りだからな。でも、時間に余裕があったから、どちらともなくこっちの道を選んでいた。できるなら、長い時間一緒にいたいからな。
「うん、そうだね」
「あー、緊張するな」
「リラックス、リラックス。大丈夫だよ、今まで練習を積んできたんだから」
「そう自分に暗示はかけてるんですけど、それでもちょっと……あんまり人前でしゃべったりすることないんで」
「きっとやり始めたら忘れるよ。でも、そうだよね。よく考えたら雄慈郎くんは校内アンケートで選ばれたんであって、立候補したわけじゃないんだもんね」
「そうですね。あの時は絶対嘘だって思ってましたよ。全員合わせて三百人いる男子の中で一位になるとは……」
「しかも、大差だったんだよね」
「はい、それ聞いた時は絶対嫌だって思ってました。俺なんかじゃ足引っ張ると思ってたんで」
「雄慈郎くん、必死に言ってたもんね。それで私が説き伏せて、了解してくれたんだよね」
「情けない限りで……でも今は、綾音先輩の言った通りにやってよかったなって思いますね。やっていくうちに、演劇の楽しさっていうのが分かった気がしますから」
「そっか、それならよかったよ」
「そ、それともう一つ」
「?」
正直、やってよかったと思う理由はこっちのほうかもしれない。
「綾音先輩と、その、仲良くなれましたしね」
「雄慈郎くん……」
俺らしからぬひどくくさい台詞である。仕方がない、こんなこと簡単に言ってのけるほど俺は器用じゃないからな。それに、ここまでやってこれたのは、綾音先輩のおかげだし……。
とにかく、伝えておきたかったのだ。